奇妙なり敗者になる確率の高い大統領が勝者であるかのように振る舞う米国中間選挙
フーテン老人世直し録(676)
霜月某日
米国の選挙はまことに奇妙だ。選挙結果がなかなか確定しない。上院は投票からほぼ1か月後の12月6日まで確定しないことが確実になった。下院も来週になるまで確定しないという。
期日前投票や郵便投票が多かったため、慎重に開票作業を進めているからだというが、本当にそうなのか。投開票の翌日には選挙結果が確定する日本人から見るとまことに奇妙である。
選挙結果が確定しないがゆえに、敗者になる確率が高いバイデン大統領が投票翌日に満面の笑みを浮かべ、「民主主義にとって良い日だった」とまるで勝者のようなことを言った。
一方で勝者になると予想されたトランプ前大統領は「民主党に善戦を許した」としてメディアが「最大の敗者」と批判している。
それもこれも投票結果が確定しないがために出てきた動きである。下院で過半数を失い「ねじれ」が生まれる確率の高いバイデン大統領が勝者の笑みを浮かべ、一方でトランプ前大統領が選挙結果に「激怒」し、周囲に八つ当たりしているという報道を見ると、選挙結果を確定させないことに何らかの政治的意図があるのではないかと疑いたくなる。
日本時間で11日の段階、CNNによれば上院は民主党48対共和党49で、残るアリゾナ、ネヴァダ、ジョージアの3州の議席が未確定だ。アリゾナ州は今のところ民主党候補が優勢、ネヴァダ州は共和党候補が優勢なので、そのままなら民主党49対共和党50になる。
ジョージア州は大接戦で州の規定により12月6日に決選投票が行われることになった。決戦投票で民主党が勝てば現在と同じ50対50になり、上院議長はカマラ・ハリス副大統領なので民主党は上院で優位に立てる。
しかし共和党候補が勝つと上院は共和党支配になり、下院も共和党支配になる確率が高いことから、バイデン大統領は上下両院とも共和党に支配を許し、大統領としては「死に体」の可能性がある。
ところが下院で共和党が過半数を占める確率が高いと言われながら、CNNの11日時点の報道では、民主党198対共和党211で、26議席が未確定である。共和党はあと7議席で過半数だが、開票の遅れからそれが確定できない。確定は来週に持ち越される。
この宙ぶらりんの状態が、バイデン大統領に有利、トランプ前大統領に不利な状況を作りだした。つまり下院だけでも確定していれば、国民はバイデン大統領がこれから厳しい政権運営を迫られることを意識させられたはずだ。ところが確定がないため、国民はメディアによって「民主党は善戦した」という意識を抱かされる。
下院で民主党が過半数を失い「ねじれ」になれば、国民生活に直結する予算審議がバイデン大統領の思い通りにいかなくなる。それはインフレに苦しむ国民にとって最も重要な選挙のポイントである。
日本ならそれをいち早く確定して国民に知らせる努力をしろとメディアは言うだろう。しかし米国のメディアは早く知らせろと言わずに、開票に時間をかけるのは民主主義のためだと国民を説得する。
そのため投開票翌日の9日に、下院が「ねじれ」になることを免れたバイデンは、「民主主義にとって良い日だった」と笑顔を見せ、さらに次の2024年の大統領選挙の出馬にも意欲を見せることができた。敗者になる確率の高い大統領が、勝者のように振る舞うことにフーテンは違和感を抱いた。
一方で9日のニューヨーク・タイムズ電子版は、今回の中間選挙の上下両院、州知事、州の選挙実務を担う州務長官には、2020年の大統領選挙に不正があり、トランプが勝ったと信じる候補者が370人立候補し、そのうち半数を上回る210人以上が当選確実になったと報じた。
上院で十数人、下院で百十数人、州知事や州務長官で二十数人いるというが、これらの当選確実者たちは、トランプの主張する「選挙は盗まれた」を信じ、バイデンの当選を認めていない。
それが210人以上もいるという現実がありながら、バイデンは「民主主義にとって良い日だった」と笑顔を見せた。その笑顔は開票が遅れていることがもたらしただけで現実の裏付けは何もない。にもかかわらず米国民はそれを見せられ「民主党の勝利」であるかのような印象を与えられた。
同時にメディアは、選挙結果が確定していないのに、「最大の敗者はドナルド・トランプ」というキャンペーンを張り、大勝するはずの共和党の足を引っ張ったのはトランプ前大統領であると国民に印象づけた。
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