新型コロナウイルスの感染拡大が日本に警告していること
フーテン老人世直し録(498)
弥生某日
新型コロナウイルスを巡り、政府の専門家会議は2月24日に「これからの1,2週間が、急速な拡大に進むか、収束できるかの瀬戸際」という見解をまとめた。3月9日はその2週間目に当たる。
その間に政府は次々対策を打ち出したが、フーテンが指摘したように、感染拡大リスクを抑えると言うより、安倍政権の支持率低下リスクを抑えることに力点が置かれ、安倍総理の指導力を国民に見せつける演出にこだわるあまり、現場に混乱と動揺が広がっているように思える。
3月8日のNHK「日曜討論」は、2週間目の前日に当たることから、この間の政府の対応を振り返り、また今週中に成立させる予定の特措法改正案を巡り、「討論」が行われるものと思っていた。ところが放送されたのは、加藤厚労大臣と専門家会議の尾身副座長に対する30分程度のインタビューだった。これなら政府広報と変わりがない。
嫌な予感だが、特措法改正案が成立し、総理が緊急事態を宣言すると、「日曜討論」は「討論」ではなく「政府広報」になることを、NHKは先取りして見せているのかと考えてしまった。
安倍総理は先週26日、まずスポーツ文化イベントの自粛を要請し、次いで27日には専門家会議にも文科省にも相談せず、全国の小中高校と特別支援学校に3月2日からの一斉休校を要請した。これが急な発表だったため現場は混乱する。
そして3月5日、習近平国家主席の訪日延期が決まると同時に、中国と韓国からの入国規制を発表した。中国政府が武漢市封鎖を発表した1月23日以降も、日本政府は「春節」で日本を訪れる中国人観光客を受け入れ、湖北省滞在歴のある外国人の入国を禁止したのは1月31日である。今度は中国全土を対象にすると言うが、「何を今更」という気がする。
中国と同時に入国禁止の対象にされた韓国は反発している。日本政府に対抗し日本人の短期滞在ビザ免除を停止すると発表した。中国政府が反発していないところを見ると、中国政府とは事前にすり合わせを行い、一方の韓国政府とはすり合わせず、一方的に通告したと見られる。
昨年の半導体材料輸出規制と同様のやり方で、韓国を怒らせるところに狙いがあると思う。そのことは、安倍総理が感染リスクを抑えるより、支持率低下リスクを優先して考えていることを証明する。
安倍総理が支持率低下に慌てているのは、右派の支持層に支持離れが起きているからだ。そもそも右派は習近平国家主席の国賓としての訪日に反対していたが、そこに新型コロナウイルスの対応で、中国に遠慮して入国禁止措置を採ろうとしないことから支持離れが決定的になる。
2月25日の産経新聞の世論調査で、支持36.2%、不支持46.7%になったことがそれを物語る。他の新聞社の調査では、支持と不支持の差がせいぜい1%から5%、ところが読者に安倍支持層が多いと思われる産経新聞だけは10%近くも不支持が多い。
そこで安倍総理は危機感を持ち、支持を回復するために右派が嫌う中国と韓国に厳しい姿勢をして見せる必要があった。一方で日本経済は、輸出面でもサービス面でも、中国抜きには考えられない。従って中国を怒らせる訳にはいかないが、韓国は怒らせても構わないというのが安倍総理の考えだ。
いやむしろ韓国を怒らせた方が支持の回復につながると考えている。韓国政府が「防疫以外の意図があるのではないか」と批判するのは、そうしたことを感じているからだろう。とにかく今更ながらの入国規制は、安倍総理の頭が感染拡大リスクを低下させるより、支持率低下リスクを抑えることでいっぱいなことを感じさせた。
さあ、このやり方で右派の支持離れを回復できるのか、フーテンは興味津々である。中国に対するスタンスはそのままで、韓国に厳しく当たることで右派は良しとするのか、それとも中国に対する姿勢がやはり問題なのか。世論調査の結果が待ち遠しい。
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