子どもの意見を聞かない日本社会
最近、筆者が代表理事を務める日本若者協議会として与党のさまざまな部会や有識者会議でヒアリングを受けるなど、徐々に国政レベルでは若者の意見を聞く意識が高まりつつあると感じる一方、日本社会全体ではまだまだ若者の声を聞く機会は少ない。
熊本市教育委員会が2020年8月に実施した、市内の学校や教職員、児童生徒を対象にした「校則・生徒指導のあり方の見直しに係るアンケート」の調査結果を見ると、ほとんどの学校が定期的に校則の見直しを行っている一方、見直しの過程で、教職員のみで作成・検討・決定していたのが115校で、全体の8割を超え、▽児童生徒の意見を聞く 6校▽児童生徒が提案する 3校▽保護者の意見を聞く 2校▽児童生徒・保護者が検討に加わる 2校――と、子どもや保護者の意向を踏まえる学校はごく少数になっている。
新型コロナウイルス感染拡大への対応を巡っても、国連・子どもの権利委員会は、2020年4月8日に「新型コロナウイルス感染症に関する声明」を出し、子どもの権利を保護するよう求めたが、日本では、子どもの意見がコロナ対策に反映されているか?という質問に対し、中高生の42%が『あまりそうは思わない』または『全くそうは思わない』と答えている(2020年8月18日国立成育医療研究センター第2回調査報告書「コロナ×こどもアンケート」より)。
日々の生活において意見を聞かれることが少ない日本では、私の参加により社会現象を変えられるかもしれないという、「政治的有効性感覚」が先進国の中で突出して低く、それが社会参画への意欲を妨げている。
身近な社会である「学校」への参加
中でも、生徒にとってもっとも身近な社会である「学校」が現状、生徒の意見が反映される場になっていないのではないか。身近な社会でさえ、自分たちが変えていけないのに、より大きな地域や国を変えていけるとは到底思えないだろう。
そして、学校こそが「社会人になるための準備期間」であることを考えると、学校の経験こそが決定的に重要である。
教育哲学者の苫野一徳熊本大学大学院教育学研究科・教育学部准教授は著書『ほんとうの道徳』の中で「よく、若者は政治に興味がないとか、投票に行かないとか言われます。でもその責任は、実は多くの場合、学校にあるのではないかとわたしは思います。学校は変えられる、自分たちでつくっていける。そんな感覚を、多くの子どもたちは持てずに学校生活を送っているのではないでしょうか。そんな彼ら彼女らが、社会は変えられる、自分たちでつくっていけるなんて思えないのは、当然のことです。」と書いているが、今本当に変えなければならないのは、学校生活、学校運営のあり方である。
こうした考えをもとに、日本若者協議会では今年8月に「学校内民主主義を考える検討会議」を設置。生徒会長などを経験した高校生5名、大学生5名の計10名で「学校内民主主義」実現に向けた政策やガイドライン作成に取り組んでいる。
その一環として、有識者や学校関係者にヒアリングを重ねているが、主権者教育が発達している欧米諸国では、生徒の学校参加を重視し、主権者教育の一環として、学校運営に生徒が参加しており、学校が生徒の声を聞いているかは学校評価の指標の一つとなっているという。
一方、日本の現状はどうなっているのか。
実態調査のため、日本若者協議会では全国の生徒(卒業生含む)・教員向けにアンケートを実施。47都道府県の学生779名、教員44名、計823名に回答してもらった。
その結果を、一部紹介したい。
以下の内容は全て、日本若者協議会によるアンケート結果まとめからの引用。
「学校内民主主義」に関するアンケート結果まとめ
このアンケートは、日本若者協議会のHPやSNS上で回答を募集したWebアンケートです。調査対象は、小中高生・卒業後4年以内の既卒生、教職員で、調査期間は11月6日(金)〜29日(日)です。
・調査方法 Web調査(日本若者協議会ホームページやSNS上で回答を募集)
・調査対象 小中高校生・既卒生・教職員
・調査期間 11月6日(金)~11月29日(日)
・回収数 823回答(学生779名、教員44名)
・アンケート結果についての注意点
※Web上の調査であり、属性が偏っている可能性があります。
日本若者協議会とは、若者の声を政府や社会に届ける「窓口」として、若者政策の立案、各政党との政策協議、政策提言を行っている若者団体です。
マイナスの学習経験をしている現状の学校
児童生徒が声を上げて学校が変わると思うか?、この問いに対しては、約7割が「そう思わない」(どちらかというとそう思わない含む)という結果となった。
政策決定過程への関与と同様に、学校運営に関しても、「有効性感覚」が低い結果となった。
「そう思う」と答えた生徒の回答を見ると、ほとんどが実際に変化に関わった経験をしており、それが「成功体験」として、参加意欲にもつながっている。
逆に、「そう思わない」大多数が、「自分たちの意見が重視されていない」といった社会参画に向けた「マイナス」の学習経験をしている。
他方、教員からは、現場の余裕のなさや古い価値観が強いといった意見が多かった。
また、児童生徒が要望・提案を行っても、半数は教職員が親身に対応してくれないという回答になった。
生徒会の権限が弱い
「児童生徒が声を上げて学校が変わった事例」としては、制服や学校行事のことが多く、その理由としては、「意見を伝えられる学校の仕組み」や「協力的な教師」の存在が挙げられた。
(変えることができた理由)
逆に、変えられなかった理由としては、「生徒会の権限が弱さ」や「変えるためのルールがない」などが挙げられた。
(変えることができなかった理由)
関連して、生徒会が形骸化しており、生徒会が十分に生徒の声を回収できていないという声も多かった。
(回収できている)
(回収できていない)
「学校のことに関して意見を表明する場がない」
冒頭、校則改訂に生徒が関わる機会が少ないという熊本市の調査結果を紹介したが、本アンケートでも、過半数が学校のことに関して意見を表明する場がないという結果となった。
「もし学校に関することで児童生徒が意見を表明できる場があるとしたら、何について要望したいですか?」という質問に対して、校則や学校行事、授業内容に加え、教員や校長への評価も多数集まった。
9割以上が「学校に関することを児童生徒が意見を表明したり、議論したりする場が必要」だと思う
(そう思わない)
(そう思う)
「学校内民主主義」に関する意見
日本若者協議会では、現在、本アンケート結果やこれまでのヒアリング等を踏まえ、「学校内民主主義を考える検討会議」で提言をまとめており、年明けに政府・自治体等に提出予定だ。