急きょ関電幹部の辞任と第三者委員会のスタートは安倍政権の目くらまし
フーテン老人世直し録(468)
神無月某日
日米両国で同時期に起きた内部告発による「不気味なスキャンダル」は、両国議会を舞台に与野党攻防に移りつつあるが、トランプ政権も安倍政権も事実が明らかにされることを嫌い、証人喚問や参考人招致を潰そうとしている。
まず米国のケースから見ていく。トランプ大統領は今年7月に民主党の大統領候補バイデン前副大統領の息子のスキャンダルを捜査するようウクライナの大統領に電話で要請し、協力しなければ武器の援助を行わないことをほのめかした。その電話会談の内容を情報機関員が内部告発し「ウクライナ疑惑」に火が付いた。
それを受け「ロシア疑惑」での弾劾に慎重だったペロシ下院議長は、トランプの弾劾調査に乗り出すことを決定、下院は民主党が多数であることからトランプ訴追の可能性が出てきた。訴追されれば上院が裁判を行うが、共和党が多数の上院とはいえ、弾劾調査で新たな事実が出れば共和党内から造反者が出る可能性もある。
これに対しトランプは徹底抗戦に出た。ペロシ下院議長が下院で採決もせずに弾劾調査を決めたことを「憲法違反」と猛烈に批判する。民主党は憲法にそのような規定はないと反論した。すると今週7日に2人目の内部告発者が現れ、また8日には下院の委員会が疑惑を知る米国の駐EU大使を聴取しようとすると、トランプが下院の調査に応じないよう命令を出した。
トランプは下院の弾劾調査に非協力を貫き、議会の証人喚問を潰す構えである。それが功を奏するかと言えば、必ずしもプラスと言えない。統合参謀本部議長として湾岸戦争の指揮を執り、ブッシュ(子)政権で国務長官を務めた共和党員のコリン・パウエル氏は、テレビのインタビューで「内部告発者は愛国者だ」と語り、内部告発や弾劾調査を支持する考えを表明した。
ともかく来年の大統領選挙を前に米国政治は「ウクライナ疑惑」で騒然としている。「ロシア疑惑」でモラー特別検察官は、疑惑はあるが現職大統領を司法は訴追できないと結論付けた。今度は議会の調査権限と大統領の権力とが正面からぶつかっている。大統領の権力は何処まで及ぶのかが議論され、国民はそこから政治のイロハを学ぶことになる。
その帰趨は日本政治にとっても無縁ではない。同じように内部告発から明るみに出た原発を巡る大スキャンダルが安倍政権を揺るがす可能性があるからだ。ところがこちらは早くも幕引きを図る仕掛けが施され、大スキャンダルが尻すぼみになる可能性がある。
これまで報道されてきたことを整理すると、関西電力幹部に3億2千万円の金品が送られた事実は、去年の1月に金沢国税局が「吉田開発」の税務調査に入ったことから分かった。分かった時点で国税当局はその事実を公表していない。関係者に修正申告させただけで国民の目に触れぬまま問題は封印された。
関西電力の会見で幹部らが素直に3億2千万の内容を明らかにしたのは、既に税務署に把握され、昨年の社内調査委員会でも事実とされていたからだ。しかしその事実は内輪で隠蔽され、誰も内部告発をする者はいなかった。大スキャンダルは闇から闇に葬り去られた。
フーテンは去年1月に国税当局が原発関連企業の税務調査に入ったことに注目したい。国策である原発の足を引っ張ることを国税も検察もやるはずはないからだ。原発反対運動を抑え、原発推進のためなら何でもやるのがこの国の官僚機構である。それがどういう事情からか「吉田開発」に税務調査を行った。
その事情が何かを解明しなければ今回の問題の本質は分からないと思う。国税当局は秘かに修正申告させて幕引きを図ったが、国民は知らなくとも官僚機構の中枢は知っていたはずである。そして注目すべきは調査の対象が2011年から去年までの期間であることだ。国税は福島原発事故で原発すべてが停止してから再稼働されていく期間を対象にした。
いかなる意図でその期間を対象にしたのか。当時は再稼働に否定的な考えが日本列島を覆っていた。橋下大阪市長や嘉田滋賀県知事は関西電力の原発再稼働に反対したが、それを覆したのは今井尚哉資源エネルギー庁次長である。
国税が関西電力の大スキャンダルを摘発した時、その今井氏は安倍総理の秘書官の地位にあり権力の中枢中の中枢だった。今井氏の耳に情報が届いていないはずはない。つまりこの問題は安倍総理を含め麻生副総理など権力の中枢は去年から知っていたと思う。
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