報告相次ぐ「人食いバクテリア」なぜ増加?予防するには?日本だけなの?最新状況を整理 #専門家のまとめ
「人食いバクテリア」とも呼ばれる「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)」が過去最大だった去年より3倍近いペースで増加しています。手足の壊死などを引き起こし、致死率が30%に及ぶとも言われるこの感染症。3月には韓国で日本への渡航を危ぶむ報道がされるなど海外からも注目されています。なぜ増加しているのか、予防の方法、そして海外の状況など、わかっていることをまとめました。
ココがポイント
▼5月12日時点の報告数は851人。1999年以降で最大だった去年(通年で941人)に既に迫る勢いで、ペースはおよそ3倍
・劇症型溶連菌の感染者急増 過去最多ペース、致死率3割―識者「高齢者は警戒を」(時事通信)
▼原因は溶血性レンサ球菌(溶連菌)。2022年以降、欧州などでも増加が報告。背景にはコロナ禍以降の社会的接触の復活が指摘
・複数国における猩紅熱と侵襲性A群溶血性レンサ球菌感染症の増加(厚生労働省検疫所 Disease outbreak news )
▼特徴は「手足の痛み」「腫れ」「発熱」「インフルエンザのような症状(筋肉痛や下痢など)」致死率が高く迅速な治療が必要
▼予防には「傷口の清潔」(傷に触れる前に手足を洗う、石鹸で洗いカバーする)「傷があるときにプールや川に入らない」など
・Preventing Group A Strep Infection(アメリカ疾病対策予防センター)
エキスパートの補足・見解
溶血性レンサ球菌(溶連菌)は、いかにも恐ろしそうな名前がついていますが、健康な人の皮膚にも存在するありふれた細菌の一種です。なのですが、粘膜や傷口から体内に侵入したりすると、炎症を起こし痛みの原因になることがあります。
そして、理由ははっきりわかっていないのですが、非常にまれに、広い範囲の組織の壊死などを伴う「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)」という状態を生み出すことがあります。この状態が(まるで人体が感染によって食い荒らされているようだということで)「人食いバクテリア」という俗名で呼ばれることがあります。
(つまり「溶連菌」自体が人食いバクテリアではなく、その感染によって激しい症状が起きた状態のことがそう呼ばれてます。溶連菌の他にも、人食いバクテリア(Flesh-Eating Bacteria)と呼ばれる状態を生み出す細菌は存在します)
過去最大のペースで患者数が増えている原因は、何か全く新たな怖い細菌が登場した!ということではなく、コロナ禍が落ち着き、社会での接触が増える中で、溶連菌への感染が増え、それによって強い症状が生まれるケースが増えているのだろう、と現状では解釈されています。
なので、対策としては、例えば何かけがをしたときに、傷口から溶連菌が入り込まないよう、すぐにせっけんなどを使って洗い、治るまでは包帯やばんそうこうなどでカバーすること。その処置をする際に、手洗いをしてから行うこと(汚れた手で行うと、かえって細菌を傷口に入れてしまう可能性もある)です。そして傷口が治るまでは、プールや川など、細菌の感染が起きやすいところに入らない、ことを心掛けてもいいかもしれません。必要以上に恐れるのではなく、従来より推奨されている対応を心掛けることがよさそうです。
もちろん、けがをした後などに、傷口や全身の強い痛みが続く、発熱や全身のだるさ、下痢などが生じた場合は、すぐに医療機関を受診することを強くお勧めします。その際、「最近、けがをした」などの自覚がある場合は、それを医療者に伝えたほうが、本当にSTSSだった場合、より迅速な診断につながるかもしれません。
(2024年5月29日20時50分加筆)
公開記事に対し、救急医療を専門とする医師より以下の指摘がありましたので追記させていただきます
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自覚できる傷がないことや、全く傷もなくても発症する場合もあるので、「傷がないなら大丈夫」とは考えないでください。以下が同時に起きる場合は、自覚できる傷が無くても、医療機関を速やかに受診するようお勧めします。
・手や足の痛み
・発熱
・もうろうとする