たった1軒の農家だけが飼育する「しまさざなみ」とは? 名店による5ヶ月の五島食材フェアがフィナーレ
五島列島
日本で今、注目したい地域といえば、長崎県の五島列島です。
五島列島は九州の最西端に位置し、大小様々な140の島々から構成。他では出合うことができない素晴らしい食材の数々があり、これが永続できるようにと生産者が尽力しています。
2022年10月3日から放送されるNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」では、五島列島が舞台となるので、衆目を集めることは間違いありません。
・NHK連続テレビ小説の舞台にもなる五島列島 名店で五島のマグロを食べるだけで海を守れるワケ(東龍)/Yahoo!ニュース
・NHK朝ドラの舞台となる五島列島の「椿やさい」とは? 名店の五島メニューが好評のため期間延長!(東龍)/Yahoo!ニュース
これまで2度にわたり、フランス料理の名門であるひらまつグループが行っている、五島列島の魅力を存分に引き出したサステナブルなフェアを紹介しました。
ひらまつの五島フェア
2022年5月1日から始まったフェアは5ヶ月にも及びます。そしてこの9月には、南仏モンペリエの名匠ジャック&ローラン・プルセルシェフの哲学を受け継ぐレストラン「サンス・エ・サヴール」で開催され、フィナーレを迎えます。
#ひらまつで味わう「五島の魅力」
・2022年5月1日~5月31日
アルジェント(銀座)
・2022年6月1日~30日
代官山ASOチェレステ 日本橋店
・2022年7月1日~31日(8月31日まで延長)
レストランひらまつ レゼルヴ
・2022年8月1日~31日
代官山ASOチェレステ 二子玉川店
・2022年9月1日~30日
サンス・エ・サヴール
最後を飾る「サンス・エ・サヴール」で料理長を務めるのは鴨田猛氏。鴨田氏はこれまで幾度となく五島を訪れており、五島の生産者が地域を守るために取り組んでいるSDGsの活動を、間近で見てきました。今回はその活動を発信するという使命感に近い想いをもって挑みます。ゲストに「食べることでSDGsに取り組む」ことをより体感してもらうため、メニュー表に生産者のサステナブルな活動を紹介するなどの工夫も取り入れました。
その鴨田氏によって紡がれたのはランチ限定のコース「MENU D'AFFAIRE 長崎県五島市特別コース」(6,655円)。それぞれの料理を詳しく紹介していきましょう。
アミューズ
最初のアミューズは4種類。スプーンの上には低温で火入れしたミズダコ。ミョウガ、ビーツで色づけたカボスのジュレでアクセントを加えています。木の器に載せられているのは、アユのリエットのタルトレット。上にはクワの実で酸味を。イチジクが練り込まれたチュイールには、ポワロー葱とレモンのゼスト、アンチョビを挟みました。竹串が刺さっているのは南仏本店「ル・ジャルダン・デ・サンス」のスペシャリテであり、オープンからずっと提供されている豚足のコロッケ。熱々で脂のジューシーさが感じられます。
五島産ハガツオと五島の醤のタルトレット スイカと赤しそのガスパチョ ゼラニウムのエキュム
~発泡スチロールの代わりに段ボールで納品 人も海も喜ぶ循環を作る <金沢鮮魚>~
ハガツオのタルトレットには、澄んだすっきりとした旨味のある五島の魚醤に、爽やかなレモンソースと穂紫蘇を合わせました。涼しげなグラスには、トマト、スイカ、赤紫蘇のガスパチョ。まずはタルトレットから食すのがよいでしょう。
五島産パプリカとマンゴーのルガイユ 旬の岩ガキ 根セロリのクレーム 黒酢とバニュルスワインのヴィネグレット
~ITを利用した持続可能な農業を行い、障がい者雇用に貢献 <HPIファーム>~
岩ガキは大きくてクリーミー。食べやすくするため、小分けにカットされていました。トマトとマンゴー、根セロリ、豆板醤のソースは、フレッシュでありながらもピリッとしており、岩ガキの滋味に抑揚を与えています。
五島産地鶏<しまさざなみ>のコンポジション 万願寺唐辛子のピペラード スモモとレバーペーストのアクセント
~飼育する農家が一軒のみとなってしまい、その存続への願いをこめて <五島しまさざなみ農園>~
五島の地鶏である「しまさざなみ」の魅力を伝える一皿。しっとりとした胸肉はテリーヌにし、適度な脂のある腿肉は炭火で焼いて柚子胡椒を加え、濃厚なレバーはスモモと合わせてペーストに。焼いたプラム、万願寺唐辛子のピペラードも添えました。
五島産椿かぼちゃのクレーム トリュフとポルチーニのアイスクリーム フルムダンヴェールのクロックムッシュー
~農業の達人から若手まで コミュニティの力で販路を広げ、価値連鎖を生む <いきいきファーム>~
追加料金(2,400円)で味わえる、椿かぼちゃを主役に据えたスープです。冷たいトリュフとポルチーニのアイスクリームが出色。底にはパンチェッタがあり、心地よい塩味となっています。上にはフルムダンヴェールを挟んだサクサクのクロックムッシュ。
五島美豚フィレ肉の炭火焼 実山椒のコンディメント レモングラスの香る発酵いくりのキャラメルエピス 長崎こがねとタンカのピュレ
~循環する環境にやさしい農業と畜産 耕作放棄地の再生 <グリーンティー五島>~
おいしい脂身をもつ美豚のフィレ肉をラードで巻き、じっくりと炭火で焼きました。やわらかな食感とジューシーな妙味に仕上がっており、香ばしいです。レモングラスが主張するキャラメルエピスは力強く、実山椒のコンディメントが心地よい刺激。串焼は南仏のつくねをイメージしており、しっかりとカラメリゼされていました。季節野菜も炭火で焼かれていて燻香が豊か。
五島産安納芋のロワイヤル カフェのムース 焼き芋のアイスクリーム かんころ餅へのオマージュ
~地方の魅力を発信 ビーチクリーン活動も盛ん <ごと株式会社>~
安納芋のブリュレとアイスクリームは優しい甘味を携えています。ナスのクランブル、長野パープル、コーヒーのエスプーマにチュイールを合わせて、様々な食味と食感。
ワインも充実
ひらまつグループはワインにも定評があります。鴨田氏の料理をより楽しむには、ワインペアリングを注文するとよいでしょう。
「ドゥラモット・ブリュット ロゼ」はひらまつオリジナルラベルのシャンパーニュ。ピノ・ノワール80%、シャルドネ20%と、黒ブドウ主体です。しっかりとした骨格があり、繊細なアミューズとよいコントラスト。
「シャサーニュ モンラッシェ プルミエ・クリュ モルジョ 2015」は品のある果実味とやわらかなミネラルがあるので、魚介類との相性が抜群です。「ファミーユ・ペラン シャトー・ド・ボーカステル シャトーヌフ・デュ・パプ 2009」は深みのある赤色で、複雑なアロマが炭火の香りをさらに高めています。
五島食材の印象
五島食材が生かされた素晴らしいコースでした。鴨田氏は、五島の食材について、どのような印象をもっているのでしょうか。
「それぞれの生産者がつながっていて、海の食材から山の食材まで揃っている印象がありますね。好きな食材は色々ありますが、一番のお気に入りは魚醤です。五島の魚と、椿から取れた五島つばき酵母を使った天然の物で、旨味がありながら、従来の魚醤の臭みを抑えたすっきりとした味わいが、料理にいいアクセントになります。これからもずっと使っていくと思います」
どのメニューにもこだわっていますが、こだわりの一品として強いて挙げるとすれば、「しまさざなみ」の料理であるといいます。
「飼育する農家が一軒のみとなり、存続の危機を迎えているしまさざなみの魅力を是非味わっていただきたいと思い、選びました。軍鶏の血統なので、凝縮されたような濃い肉の味わいが楽しめます。腿肉は味わいをダイレクトに表現するため炭火焼きにしました。手羽元やせせりなどの部位はテリーヌにして、低音で保湿しながら仕上げた胸肉と合わせています。レバーはペースト状にして添えました。私たち料理人ができる仕事は、食材を余すところなく使い、その魅力を生かし切って伝えることです」
普段のコースとは違い、意識していることがあるといいます。
「お客様に食材を楽しんでいただきながら、ただ“おいしかった”で終わらないようにしています。自然環境の保護に対して行動を起こしている生産者がいることを伝えられたらいいですね」
このように考えたからこそ、コース名にSDGsの意識へとつながるサブタイトルを付け、サービススタッフがゲストとの会話で話題にできるようにしました。メニューにはQRコードも掲載し、食材や生産者について、より深く知りたいゲストをナビゲートする工夫も行っています。
五島フェアの集大成
「『サンス・エ・サヴール』が今年の五島フェアを締めくくる、いわば集大成という意気込みで挑みました。改めて五島の生産者を知ってもらいたいという気持ちでお客様をお迎えしたいですね」
鴨田氏は自身も五島が大好きです。フェアを開催していない時でも五島食材を用いており、五島への愛が感じられます。
「SDGsフェアの時だけ、その地域の食材を使うのではなく、日常的に素晴らしい取り組みをしている生産者の食材を使うことが、レストランができるSDGsです。多くの人に発信することが、東京・丸の内にあるレストランでフェアを行う意義だと思います。五島を知ってもらうきっかけになるので、是非またフェアを開催したいですね」