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わが子がケガをした〜動画による発信の重要性と「市民科学」のすすめ #こどもをまもる

山中龍宏小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長
写真はイメージであり、記事の内容とは関係ありません。(写真:イメージマート)

 先日、下記「事例1」について、Safe Kids Japanにメディアから取材依頼があった。

■事例1:商業施設に設置された大型滑り台からこどもが滑ろうとしたところ、台の上部に吊るされていたロープに首が引っかかって首つり状態になった。それを見ていた保護者は「死んだかもしれない」と思って夜も眠れず、ツイッターで発信された。

昨日行った飲食店のキッズスペースで娘が死にかけた風景が頭から離れず、夜も眠れません。3メートル程の高さからこどもが簡単に首を吊れてしまうロープが2箇所あり、監視カメラは止まったまま…店の対応も許せません。本当に生きた心地がしませんでした。二度と娘と同じ事故が起こらないよう願いたい!!

 投稿されたのは、わずか10秒足らずの動画である。3〜4歳と思われる幼児が、3メートルくらいの高さの滑り台の上から滑り始める。滑り台の上からロープが垂れ下がっている。滑り始めた直後、1本と思われたロープがほどけてループができて幼児の首に引っかかり、足は宙ぶらりんで首つり状態になっている。その直後に映像が乱れて途切れた。突然のことにびっくりして、保護者の方はスマホを放り出し、すぐに現場に駆け付けたと思われる。

 この映像を見て、すぐに思いつくことは、

1.商業施設の滑り台にロープがついている状況はあり得ない。この施設で、ロープを後付けしたとしか考えられない。キッズスペースと銘打っている以上、専門家による遊具の定期的な点検が不可欠である

2.1本のロープが、なぜループができる状態になったのか精査する必要がある

3.このロープは、即刻、取り去る必要がある

4.他施設の同じ遊具にロープがつけられていないか、調査する必要がある

ということだ。

 また、下記ケースも報道されていた。

■事例2:4歳児があわや窒息 リビングの“落とし穴”に注意喚起 「小学生くらいの子でも危ない」の声も

(Yahoo!ニュース 2023年6月9日配信 ENCOUNT編集部)

 4歳のこどもがリビングで遊んでいた。ソファに登って、高い位置にある窓のロールスクリーンのチェーンで遊んでいたらしく、足を踏み外して一瞬完全な首つり状態になった。保護者は、すぐ近くで下の子のおむつを替えていたのですぐに気づいて救出した。

 このことを投稿すると、「我が家でも同じことが起こった」という反応が寄せられた。高窓のため、このロールチェーンのループの下端は、床からの高さが150センチメートルくらいと4歳児には届かない距離にあったが、ソファが置かれていた。ソファの手すりの上に立ってチェーンで遊んでいて、足を踏み外した。保護者は、それまでに何度も「ソファの上に登らないで!」と声掛けしていたという。チェーンが首にかかった時間は3〜4秒で、すぐに救出された。

ツイッターでの発信が大切!

 今回、「事例1」では、見ている目の前で首つり状態になったので、すぐに保護者が現場に駆け付けることができたが、こどもだけで遊んでいる状態でこれが起こり、首を吊った状態が5分以上続けば窒息死する可能性が高い。こどもの首に擦り傷があったとのことで、ロープは首に食い込んでいたようだ。「5分間、誰も見ていない」という状況は十分にあり得る。

 今回の投稿がなければ、この滑り台はロープを設置したまま使い続けられ、また同じ首つりが発生し、窒息死が発生する可能性もある。

 動画で発信していただいたことは、とても大切である。文章だけでは状況はよくわからない。「百聞は一見に如かず」と言われるが、この数秒の動画を見ることができたので、何が起こったかがわかり、予防策を考えることができるのだ。ケガをした瞬間の動画は、めったに撮れるものではない。たまたま遊んでいる状況を撮っている時に首つりが発生したもので、大変貴重な資料である。一部の商業施設では、遊具の脇にモニターを設置して常時監視をし、同時に記録しているが、その場合もケガをした瞬間の映像を得ることができる。

 現在では、誰でもその場で簡単に動画を撮ることができ、それをすぐに発信することができる。保護者の方が、滑り台があるお店の人に危ないことを伝えることも重要だが、それだけでは予防策にはつながらない場合がある。今回は、ツイッターで発信された情報をメディアの人が見つけて問題意識を持ち、遊具の設置者や我々に問い合わせ、問題点を明確にすることができたので予防策が明らかになった。

ケガの情報提供を「市民科学」として位置付ける

 一般市民が参加・協力して、専門家や研究機関と一緒に進める研究のことを「市民科学(シチズンサイエンス)」という。例えば、渡り鳥を見た場所や日時、モンシロチョウを初めて見た場所や日付の情報を市民が提供し、集められたデータを専門家が分析することによって実態を明らかにすることができる。こどものケガも、同じ手法を使って情報収集することができるはずだ。自分のこどもが経験した、あるいは身近なところで見たこどものケガを積極的に情報発信していただきたい。その場合、文章だけではなく、できるだけ現場写真やケガを負った時の動画を提供していただくことが望ましい。

 メディアは、投稿した保護者や、ケガに関与した製品を作った企業、ときには製品や環境を管轄している行政に取材することができる。ケガが起こった状況、その原因、予防策の各段階を取材し、社会に対して問題提起することができる。今後、メディアの方は、一般市民からのこどものケガの情報発信にアンテナを張り、積極的に取り上げていただきたい。

バッシングへの対応

 また、これはよくあることだが、こどものケガの発信に対して「親が見ていればそんなことは起こらない」、「滑り台が悪いのではなく、こどもの遊び方が悪い」、「こんなことを指摘して安全対策ばかり力を入れると、遊具がなくなり、こどもが遊ぶところがなくなって本末転倒」などの意見が出る。今回も、テレビでこの件が報道された直後、Safe Kids Japanの投稿欄に「ほとんどの親子は安全に遊んでいる。動画を送りつけるような親1人のために多くの人に愛されているお店を委縮させないでほしい」という投稿があった。

 遊具の存在の大前提は「安全性が確保されていること」であり、そのために遊具の安全基準が厳密に定められているのである。この遊具に取り付けられたループになったロープは絶対に設置されてはならないものである。この大前提に立って意見を述べる必要がある。保護者の方はバッシングの意見に委縮することなく、こどもの安全のためにケガの情報を発信し続けていっていただきたい。

 SNSなどで動画を公開することがためらわれる場合は、Safe Kids Japanが運営しているプラットフォーム「Safe Kids」の「みんなの声」に情報を寄せていただきたい。寄せられた情報はSafe Kids Japanで精査し、予防策を検討し、企業や行政などに協力を求めて再発予防につなげている。

当事者の体験談が最も響く

 こどものケガのほとんどは、これまでに知られているケガである。いろいろなところから、ケガの実態や予防策が報告されているが、それらの報告や啓発記事を読む人はほとんどいない。筆者自身、今回の「事例1」のロープの危険性について1か月前にこのYahoo!ニュース(個人)で「ロープやひもによる窒息を予防するために」として報告した。また、「事例2」については、「ブラインド等のひもの事故に気を付けて!―平成 22 年から 26 年までに3件の死亡事故」という報告が2016年に出ている。

 「事例2」の投稿では、消費者庁が出している予防策なども述べられている。この投稿は、2700件のいいね、1300件のリツイート、52万回の閲覧回数を記録したとのこと。日常生活の場面が細かく記載され、こどもの行動も日常的によく見る行動で、それを読む人に「うちのこどもにも起こるかもしれない」という実感がわきやすかったのではないか。行政からの情報や、専門家の意見より共感することができ、自分の問題として認識する確率が高くなったのではないかと思われる。

 今後、保護者の方には、日常生活の中で起こったこどものケガをツイッターなどのSNSで積極的に発信していただきたい。「二度と同じケガを起こさないでほしい」という気持ちを表すためには、あなたが経験したケガの発生状況を詳細に伝えることが必要なのである。

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特集ページ「子どもをめぐる課題」(Yahoo!ニュース)

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小児科医/NPO法人 Safe Kids Japan 理事長

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長、こども家庭庁教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議委員、国民生活センター商品テスト分析・評価委員会委員、日本スポーツ振興センター学校災害防止調査研究委員会委員。

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