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店舗消失から奇跡の復活 お笑い芸人が本気で作る塩ラーメンとは?

山路力也フードジャーナリスト
『鬼そば藤谷』の「鬼塩ラーメン」。

火災を受け閉店した『鬼そば藤谷』が浅草で復活

新たな『鬼そば藤谷』は浅草へ。浅草雷門通りと国際通りの角に建つビルの2階に移転した。
新たな『鬼そば藤谷』は浅草へ。浅草雷門通りと国際通りの角に建つビルの2階に移転した。

 2023年12月5日、東京・浅草に新たなラーメン店がオープンした。『鬼そば藤谷』(東京都台東区浅草1-10-2 YNビル2F)は、2012年に渋谷センター街で創業した人気ラーメン店。繊細ながらも力強い塩ラーメンや数々の創作ラーメンで人気を博していたが、不測の事態が生じて閉店せざるを得なくなってしまった。

 長年愛されてきた渋谷の地を離れた理由は、店舗が入店していたテナントビルの火災事故。3階と5階の2フロアを借りて営業してきたが、2023年9月に1階の別テナントから発生した火災に巻き込まれ、同地での営業継続が困難となってしまった。クラウドファンディングなどの支援も経て、今回新たに浅草という地で新たなスタートを切った。

 「可能であれば同じ場所で再開したかったのですが、営業再開の目処が全くつかなかったこともあり移転を決意しました。渋谷と浅草ではお客様のイメージが違う印象がありましたが、どちらもキャリーバッグを持ったインバウンドや観光客の方が多い街で、意外と似ているころがある気がしています。店舗も渋谷時代と同じくビルの中でイメージも近いと思います」(鬼そば藤谷 店主 藤谷拓廊さん)

人気お笑い芸人が本物のラーメン職人に

お笑い芸人『HEY!たくちゃん』こと、店主の藤谷拓廊さん。
お笑い芸人『HEY!たくちゃん』こと、店主の藤谷拓廊さん。

 店主の藤谷拓廊さんのもう一つの顔。それはお笑い芸人『HEY!たくちゃん』としての活動だ。物真似やオリジナルの「アゴものまね」などで活躍していた藤谷さんだが、人気ラーメン店主の物真似をしていたことから、2011年に「東京ラーメンショー」で行われたラーメンコンテストに素人ながら出場し優勝。2012年に『鬼そば藤谷』を創業し、本格的にラーメンの世界へと足を踏み入れた。

 その後も2016年には「大つけ麺博」で優勝を果たすなど、芸人としての人気や知名度に頼ることなく、実力勝負の味で着実に評価を上げていった藤谷さん。2019年にはアメリカ・ニューヨークで開催されたラーメンコンテストにも出場し初優勝。その後も優勝を重ねて、2023年10月には3連覇を果たしている。

 他の飲食店同様にコロナ禍は客足が激減したが、そのタイミングで今一度料理人としての基礎を学び直そうと、芸人活動や日々のラーメン店営業の合間を縫って『服部栄養専門学校』で学び、料理人としての知識と技術を取得した。ラーメンの世界に入って12年が経ち、今では立派なラーメン職人としてラーメン業界でも認められる存在になっている。

驚くほどに進化を遂げた「鬼塩ラーメン」

『鬼そば藤谷』の看板メニュー「鬼塩ラーメン」と、数量限定の「昆布水の醤油つけ麺」。
『鬼そば藤谷』の看板メニュー「鬼塩ラーメン」と、数量限定の「昆布水の醤油つけ麺」。

 今回浅草へ移転するにあたり、ラーメンの設計も一から見直して一新。看板メニューの「鬼塩ラーメン」は、使用する鶏の銘柄も上げて量も増やし圧倒的に旨味が強化された。丼から立ち上がる豊かな香りの鶏油も、鶏皮から出る油とブレンドすることで深みが増した。塩も産地やブレンドを変えた。チャーシューなど具材の調理も、専門学校で学んだ技術でレベルが上がった。

 麺は地元浅草の老舗でラーメン業界でも熱い支持を受ける『浅草開化楼』の特製麺を使用。しっかりと茹で切ることで麺のポテンシャルを最大限まで引き出した。さらに一日10食限定の「昆布水の醤油つけ麺」は、尊敬するラーメン店主から手ほどきを受けた自信作。キレのある醤油味のつけダレにとろみのある昆布水をまとった麺が見事に一体感を演出している。

「浅草らしい味を表現していきたい」

浅草という地で新たなスタートを切る『鬼そば藤谷』店主の藤谷拓廊さん。
浅草という地で新たなスタートを切る『鬼そば藤谷』店主の藤谷拓廊さん。

 未経験でラーメンコンテストで優勝して早12年。店の前には人気ラーメン店主からの開店祝いの花が並んだ。店には渋谷時代の常連さんや芸人仲間なども次々と訪れた。芸人の片手間ではない、藤谷さんが本気でラーメンに挑む姿勢とラーメンの味が、多くの人に愛されている理由だ。

 「今回の火事を貰って相当に落ち込みましたが、自分がラーメンを始めた時の気持ちに返って、もっと美味しいラーメンを作っていこうと決意しました。地元浅草の人や観光客の人にも愛されるように、今回のラーメンは僕なりに浅草らしさを表現してみようと思っているんです。そしていずれは近くにもう1店舗構えてみたいですね」(藤谷さん)

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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