稀代の職人「ミスターラーメン」が 敢えて「家系ラーメン」に挑む理由とは?
人気ラーメン店『せたが屋』の新ブランド店がオープン
約250店舗を擁する商店街「武蔵小山商店街パルム」は、1956(昭和31)年にオープンした日本初の大型アーケード街。東急武蔵小山駅から中原街道までを繋ぐアーケードは、全長約800mと東京で最も長いアーケード商店街だ。
そんな商店街に9月7日、新しいラーメン店がオープンした。真っ赤な看板に染め抜かれた店名は『ラーメン家 がんくろ』(東京都品川区荏原3-3-20)。今ブームとなっている豚骨醤油ラーメン、いわゆる「家系ラーメン」を提供する新店だが、手掛けるのは煮干醤油ラーメンの人気店『せたが屋』(本店:東京都世田谷区野沢2-1-2)だ。
『せたが屋』は2000年に東京駒沢の環状7号線沿いに創業。2001年には昼と夜で屋号を変える「二毛作営業」を行い、2007年にはいち早くニューヨークにも出店するなど、長年ラーメン界を牽引してきたトップランナー。店主の前島司さんは業界では「ミスターラーメン」と呼ばれる人物で、独学ながらもこれまでに様々なラーメンを作り続けてきた稀代のラーメン職人だ。
煮干醤油ラーメンの『せたが屋』をはじめ、塩ラーメンの『ひるがお』、濃厚煮干ラーメンの『ふくもり』など数々のブランドを展開し、いずれも人気店に育て上げてきた前島さん。すでに数々の人気ブランドを持っている前島さんが、なぜ今回敢えて「家系ラーメン」をやろうと思ったのだろうか。
家系という大きな「山」を越えてみたくなった
「元々、家系ラーメンは大好きだったのですが、自分でやろうとは思いませんでした。しかし、最近家系ラーメンがブームになってきて、家系で修業していない人も家系を作り始めてきました。家系ラーメンをやる人の裾野が広がって、その山が大きくなっていく中で、その山を越えてみたいという職人魂に火がついて、家系にチャレンジしようと思いました」(ラーメン家 がんくろ 店主 前島司さん)
前島さんは1年以上にわたり人気の家系ラーメン店を食べ歩き、そして自分なりの家系ラーメンを目指して試作を重ねていった。しかし、これまで数々のラーメンを作ってきた前島さんでさえも、実際に作り始めてみると家系ラーメンの大変さを痛感したという。
「家系ラーメンを作るのは大変だと自分なりに思っていましたが、こんなに大変だとは思いませんでした。特にスープの『ブレ』をどう抑えるか、いかにスープの良い状態を維持し続けるかが大変です。材料もたくさん使うので原価もかなりかかりますし、スープの仕込みも体力勝負。それをやり続けている家系ラーメンの方たちは凄いなとあらためて思いましたね」(前島さん)
「正統」の醤油と「革新」の塩の二枚看板
基本の「ラーメン」は家系ラーメンの正統派という仕上がりの一杯。骨感と出汁感のバランス良いスープに、鶏油の甘みとコク、醤油ダレの味わいと香りは、家系そのものだ。一般的な家系ラーメンと異なるのはチャーシューと麺で、チャーシューはスチームコンベクションで焼き上げ、出来るだけ焼きたてのものを乗せる。麺は自家製の太麺でモチモチとした食感の啜り心地が良い麺だ。
「家系ラーメンを色々と食べ歩く中で、自分だったらこうするな、というものを表現したのが今回のラーメンです。ただ家系の真似をするだけでは面白くないので、自分なりのアイディアも入れています。僕は家系ラーメン店で修業をしたわけでもないですし、スープなどの作り方も家系とは違う部分が多いです。だから僕が作るラーメンは家系ラーメンとは言えない。あくまでも『家系風』なんです」(前島さん)
そして前島さんの創作魂が全注入されているのが、通常家系ラーメンでは見られない「塩ラーメン」。スープと麺は同じだがタレを塩ダレに変えて、チャーシューは塩麹に漬けた豚肉を焼いたものが100gも乗る。さらに湯がいたレタスと蒸し焼きにした笹掻きネギのシャキシャキとした食感がアクセントになっている。しかし食べていると家系らしさも残っている。家系ラーメンの新たな表現とも言える、オリジナリティある一杯が完成した。
「ラーメン屋としてあらゆるラーメンを作っていきたい」
煮干醤油ラーメンで一世を風靡し、塩ラーメンでもつけ麺でも、鶏清湯ラーメンでもハイレベルなラーメンを世に出し、ファンを魅了し続けてきた前島さん。そんな「ミスターラーメン」が家系ラーメンに挑む店。それがこの『ラーメン家 がんくろ』なのだ。
「豚骨なら豚骨、煮干なら煮干と、一つの味を突き詰めていくのも立派で凄いと思うのですが、僕はラーメン屋として一つの味にこだわるのではなく、色んな味を作りたいんです。そしてやるからにはそれぞれの味で良いところまで突き詰めて高めていきたい。今回の家系に関しても、頑張って家系ラーメン店に負けないものを出していきたい。今、自分が一番ワクワクしているんです」(前島さん)
※写真は筆者によるものです。
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