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ブッフェなのに取りに行かない? 「新しい生活様式」に適応したホテル有名6店の工夫

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

緊急事態宣言の解除から2ヶ月

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、安倍晋三首相が4月7日に発令した緊急事態宣言が、2020年5月25日に日本全国の都道府県で解除されました。

そこから2ヶ月が経過し、ほぼ全ての飲食店が通常営業を再開しています。ただ、落ち込んでいる外食需要や「新しい生活様式」への対応コストによって、通常営業だけでは経営が厳しい飲食店がほとんど。テイクアウトやデリバリーを組み合わせて何とかしようとしています。

多くの飲食店が動き始めていますが、ホテルのレストランやバーは再開に時間がかかりました。というのも、特に高級ホテルでは、ゲストに何かあっては大変であるからと慎重になっていたからです。

中でもホテルで人気となっているブッフェは「ダイヤモンド・プリンセス」のイメージもあって、再開までに時間を要しました。

7月に入ってからようやく、ほとんどのホテルがブッフェを再開しましたが、これまでと同じスタイルではありません。

中長期的なコロナ禍の対策として政府の専門家会議が提言した「新しい生活様式」に適応したブッフェになっているのです。

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ブッフェの醍醐味

まずブッフェについて改めて説明しておきましょう。

ブッフェとは、アラカルトやコースなどと同じように食事スタイルのひとつです。

アラカルトとは、自ら好きなものを選んで食事内容を決める方式で、選び方に特に決まりはありません。コースは、おまかせコースの場合には品数から内容まで全て料理人に委ね、プリフィックスコースであればおおまかな皿数は決まっているものの、その中でチョイスできる裁量があるスタイル。

そしてブッフェは、用意されているものを、ゲストが好きな時に好きなものを好きなように選んで食べられる形式です。

どれも食事の方法なので、どれがよいかは人によって好みが分かれるところ。

ブッフェの魅力は自分らしく食べられることです。おまかせコースのように料理人が自身のポテンシャルを最大限に発揮したクリエーションを一皿ずつ賞味していくのも楽しみであれば、自分のペースで選んで食べ進めていくのもまた一興となります。

ブッフェの本質とは、つまり、自身が主体となって能動的に食事をとることなのです。

感染の危険性

新型コロナウイルスの感染に関して、ブッフェで危惧されていることは大きく分けて次の通り。

料理やデザートを取るために、トングや菜箸、レードルやサーバが置かれています。他の料理と味が混ざらないようにするため、それぞれの料理やデザートごとに1つずつ用意されているものです。

同じ料理を取った人は同じトングを使うことになるので、多くの人が同じものに触れるということで感染が心配されます。

次に心配されているのが飛沫。ブッフェ台に様々なものが並べられていますが、ここに飛沫が飛んだらどうなるのか、という不安です。

温かいものは温かく、冷たいものは冷たくといった温度管理は、これまでも行われていました。これに加えて、蓋が付いた什器を使用するなどして飛沫を防止。ただ、サラダバーのような細かいアイテムを取るものになると、さすがに蓋を付けるのは難しくなってしまいます。

ただ補足しておくと、食べ物から感染したという例はまだありません。

最後はソーシャルディスタンス。ブッフェでは、歩いて料理を取りに行きます。通路ではまだしも、ブッフェ台には人が集まり、密接する可能性が生じるのです。人気の料理であれば、なおさらのこと。

ブッフェはいくつか不安をもたれています。しかし、それを払拭するべく「新しい生活様式」に対応した新しいブッフェが始まっているのです。

ヒルトン東京

撮影用のブッフェ台も用意して写真を撮る楽しさも/著者撮影
撮影用のブッフェ台も用意して写真を撮る楽しさも/著者撮影

ヒルトン東京「マーブルラウンジ」はデザートブッフェの先駆けで、大きな行列ができることで有名。

7月1日から9月30日まで行われている「マリー・アントワネット スイーツ・オートクチュール 」で「新しい生活様式」に対応しました。

最初にアフタヌーンティースタンドがテーブルに配され、その後にワゴンでデザートが運ばれて来るという流れ。実演も行われており、ソーシャルディスタンスを守りながら並び、デザートを目の前で作ってもらえます。

208席から160席に縮小し、スタッフはマスクと 手袋を着用。入店時に消毒を促したり、スイーツの詳細を確認できるQRコードが用意されたりしています。

撮影用のブッフェ台もあるので写真を撮る楽しみも失われていません。

ホテルニューオータニ

ブッフェ台は一方通行。トングやスプーンは1人1つを使用/著者撮影
ブッフェ台は一方通行。トングやスプーンは1人1つを使用/著者撮影

高級ブッフェのホテルニューオータニ「VIEW & DINING THE SKY」は7月10日ディナーから営業を再開しました。テーマの「Design your own buffet」通り、ブッフェの醍醐味を残しながら「新しい生活様式」に適応。

186席から109席に縮小し、ランチとディナーは30分ずつずらした4部制になりました。入店時に検温や手指の消毒を行い、テーブル以外でのマスク着用を促して紙製のマスクケースも用意。スタッフを配置し一方通行となるよう誘導しています。

大皿から取り分けるスプーンやトングは1人につき1つが渡され、寿司や鉄板焼は従来通り実演で、できたてを食べられます。個室の人数を制限し、ドリンクメニューはQRコードで読み取るようになっています。

ANAインターコンチネンタルホテル東京

最初にティースタンドで全体の半数のスイーツが運ばれて来る(写真は全種類)/著者撮影
最初にティースタンドで全体の半数のスイーツが運ばれて来る(写真は全種類)/著者撮影

ANAインターコンチネンタルホテル東京「シャンパン・バー」では7月1日から10月31日まで毎年好評の抹茶スイーツブッフェが行われています。

今年は「抹茶プライベートブッフェ」と題して「新しい生活様式」に対応。席数は約半数に減らして距離を保つようにしました。

最初に全体の半数に当たる12種類のスイーツが1つずつ盛り付けられたティースタンドが提供されます。その後はスタッフが各テーブルを回り、セイボリーやその他のスイーツを順番に運んで来てくれるので、好きなものを選べばよいです。ドリンクも自由に飲め、スタッフに伝えればサーブしてもらえます。

品川プリンスホテル

名物のカニもワゴンによるサービスに/著者撮影
名物のカニもワゴンによるサービスに/著者撮影

品川プリンスホテル「リュクス ダイニング ハプナ」は1994年のオープンから累計約2000万人が訪れたブッフェレストラン。7月15日からディナー営業を再開しました。

403席から270席へと減らしてテーブル間隔を保ち、ゲストの入店時に検温と手指の消毒を実施。テーブルに消毒液を設置し、ゲストの入れ替え時にはテーブル、イス、備品を消毒します。

料理の提供スタイルは全てワゴンでのサービスに。オードブル、和食、洋食、中国料理、カニ、スイーツといったワゴンがテーブルを回り、食べたいものをサーブしてもらえます。

和食であれば着物、中国料理であればチャイナドレスというように、コスチュームを着用しているので、遠くからでも何のワゴンであるかわかるようになっているのはユニークです。

ホテルメトロポリタン川崎

店内の席数をあえて半分しか使用していない/ホテル提供
店内の席数をあえて半分しか使用していない/ホテル提供

5月18日にオープンしたホテルメトロポリタン川崎の「Terrace and Table」は早速話題となっているブッフェレストラン。

空気循環システムで店内の空気を1時間で3.6回入れ替えたり、ロールスクリーンやスニーズガードといった飛沫感染防止什器を設置したりと、新レストランならではの対策が目を引くところ。

「新しい生活様式」に適した取り方を提唱し、ビニール手袋とマスクを着用して料理を取り、取り終えたらビニール手袋を捨てるようになっています。

ブッフェ台は一方通行で、トングは定期的に交換。総席数の半数だけ使用するようにし、マスクホルダーも用意しています。

大江戸温泉物語

個々盛りにしてスタッフはビニール手袋を着用/ホテル提供
個々盛りにしてスタッフはビニール手袋を着用/ホテル提供

日本全国に温泉ホテルを展開し、特産物を生かしたバイキングに定評がある大江戸温泉物語も「新しい生活様式」に対応しました。

一度の入店人数を少なくし、列には2メートル間隔の足跡ステッカーを設置。手指の消毒も行っています。テーブルは1.5メートル以上の間隔を確保し、より背丈が高いパーティションに変更。

空調設備を常時稼働させて換気も強化しました。各所に消毒液や飛沫防止シールドを設置し、ブッフェ台や食器やトングを15分ごとに消毒。飲食時以外のマスク着用や使い捨てビニール手袋の装着も促しています。

新型コロナウイルス感染対策アドバイザーとして日本感染症学会専門医の佐藤昭裕医師が監修していることも、特筆するべきことです。

対策の特徴

ここまで紹介してきた「新しい生活様式」に適応したブッフェには、いくつかの目立った特徴があります。

最も大きな特徴は、テーブルを回ってサービスするようにし、ゲストが取りに行かないようにしているホテルが多いことです。確かに、ゲストが歩いて料理を取らなければ、密になったり、飛沫に触れたりする可能性は低くなります。ただ、ブッフェの本質のひとつである、自分で取るという要素がなくなるだけに、かなりの決断だったといえるでしょう。

次の特徴は、同じものを触れないようにしていること。トングやサーバをこまめに交換したり、料理を個々盛りにしたりしています。ゲストに手袋の着用を促しているところもあるほどです。メニューブックも不特定多数の人が触れるということで、QRでコードを読み込んでスマホで確認できるようにしています。

隣テーブルと距離を保つために、テーブル間隔を広げて席数を少なくしているところは多いです。ブッフェ台を何かで覆う施策も見かけられます。

こういった対策を鑑みると、ブッフェ台をどうしたいか、どのようにして料理を提供したいのかによって、大きな方向性が定められているといってよいでしょう。

対策が及ぼす弊害

「新しい生活様式」への対応によって、当然のことながら弊害も生じます。

第一に挙げられるのが、スタッフの負荷向上です。テーブルを回ったり、個々盛りにしたり、トングなどを頻繁に取り替えたり、備品をこまめに消毒したりするなど、作業量は増えているといってよいでしょう。

スタッフの負担が高まったにもかかわらず、席数は減っているので、これまでよりも売上は落ちています。新たに購入する備品や改装によって費用もかかることでしょう。

ブッフェ台であれば料理をたくさん用意できますが、テーブルサービスの場合には物理的な限界があるので、ブッフェ台と同じくらいの種類数を提供するのは現実的に難しいです。

「新しい生活様式」では、種類数を少なくするかわりに、質や演出を高めるといった方向にシフトしていき、ゲストの食体験の向上に合わせて、値段も上がっていくことになるのではないでしょうか。

これからのブッフェ

新型コロナウイルスの感染拡大によって、三密が避けられるようになり、働き方やライフスタイルもだいぶ見直されるようになりました。

ブッフェも同様です。

ブッフェ台に取りに行くことがなくなり、パートナーや友人、家族と訪れてブッフェ台で「あれを食べよう」「これは何だろう?」「あっちでは実演が行われているよ」といった会話がなくなります。ブッフェ台に取りに行くことがあったとしても、ソーシャルディスタンスを守り、会話も慎み、一人でさっと行って取って帰るだけになれば、選ぶ楽しみが作業的な行為に変わってしまうことでしょう。

ブッフェは基本的に、食に対して能動的な人が訪れるもの。そうでなければ、自分で取りに行って選び、テーブルに戻って来るといった面倒なことなどしたがりません。こういった要素を楽しめる人こそがブッフェを好きになるのです。

多くのレストランで「新しい生活様式」に対応したブッフェが始まりましたが、with コロナのブッフェでは、ブッフェの本質や楽しみ方も、ブッフェを好きになる人も、これまでと少し異なってくるのではないでしょうか。

自由度が高かったブッフェから制限のあるブッフェへと移行し、その制限の中で、安心かつ安全であることに加えて、どのようにして楽しい食事の時間を紡ぐことができるかが、コロナ禍のブッフェにおける大きな鍵となりそうです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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