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いざ外食へ!! 新型コロナウイルスが飲食店に与える8つの最悪な打撃

東龍グルメジャーナリスト
(写真:アフロ)

新型コロナウイルスの猛威

新型コロナウイルスが猛威を奮っており、世界各地で大きな影響を与えています。

日本でも連日、新型コロナウイルスの動向が報道されており、多くの人が不安をもち、関心を寄せているといって間違いないでしょう。

様々な業態で損害がでていますが、飲食店にも甚大な被害がでています。

少し前にYahoo!ニュースでもトピックスに取り上げられたことから、飲食店が置かれている状況が多くの人の知るところとなりました。

記事ではしゃぶしゃぶで有名な日本料理店とミシュランガイド1つ星の鉄板焼店を取材しており、中国人客が激減しているので経営が窮地に陥っているとしています。

確かに、鉄板焼をはじめとして黒毛和牛を提供するレストランに話を聞くと、神戸ビーフなどブランドの黒毛和牛をオーダーするのは中国人の方が圧倒的に多いです。

中国人客に加えて、日本人客も少なくなっているので大きな打撃となるのは想像にかたくありません。

では、飲食店全体では、どのようになっているのでしょうか。

オーナーシェフや料理人、広報、レストラン好きや食通の方から色々な話を聞きました。また、そのような方たちによるSNSの投稿も確認しています。

  • 歓送迎会
  • 団体客
  • ブッフェ
  • ファインダイニング
  • 大衆的な飲食店
  • 従業員
  • 年度末
  • メディア

新型コロナウイルスが飲食店に与える影響について憂慮しているので、以上の観点から、飲食店が置かれた状況を説明したいと思います。

歓送迎会

2020年1月28日に新型コロナウイルスが感染症法・検疫法に基づく指定感染症・検疫感染症に指定され、2月17日に天皇誕生日の一般参賀の中止、および、東京マラソンの一般ランナー参加中止が発表されました。

2月26日には安倍晋三首相が、今後2週間は全国的なスポーツや文化イベントの中止や延期、規模縮小を要請し、27日には全国全ての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校について、3月2日から春休みまで臨時休業を行うよう要請したことで、日本全土でかなり深刻な事態になってきたと感じられるようになってきたかと思います。

2月から新型コロナウイルスに対する不安がかなり募ってきましたが、その後に続く3月から4月は、送迎会や歓迎会が開催される時期であり、飲食店にとっては非常に重要な書き入れ時。

一般的に2月と11月は飲食店にとって閑散期であり、その反対に3月や4月、12月は繁忙期となります。

しかし、不特定多数の人が集まる場が好ましくないとされたり、お祝いする雰囲気ではなくなったりしているので、歓送迎会がキャンセルされ、例年に比べると極端に少なくなっているのです。

もちろん、閑散期など他の時期であれば、このような事態になってもよいということではありません。しかし、飲食店にとっては、特に悪い時期に新型コロナウイルスの問題が顕在化してしまったといってよいでしょう。

団体客

飲食店の予約のうち、4人以下となる少人数の客よりも、8人以上となるような大人数の客からキャンセルが入っています。人数が多ければ多いほど、キャンセルする傾向が強くなっているといってよいでしょう。

少人数であれば、お互いに比較的よく知った仲であり、自分たちの意志で食べに訪れたという認識があります。しかし、大人数となると、幹事や実行委員が取り仕切っているので、自分の意志で参加するというよりも、その団体への忠誠心から参加するというケースが多いでしょう。もしも何かがあった場合、幹事や実行委員の問われることは想像にかたくありません。

参加者からも開催しても大丈夫なのかと問い合わせを受けることもあります。そのため、幹事や実行委員が消極的となり、開催を中止したり、延期したりするのです。

売上が計算できる団体客からキャンセルが入ってしまうのは、飲食店にとって非常につらいところであるといえます。

ブッフェ

飲食関係で、具体的に名指しされたものといえば、ブッフェスタイルの会食。3月1日に安倍首相がアナウンスしてから、ブッフェの状況が急激に変わりました。

ブッフェを取りやめてプレートやコースだけを提供するようにしたり、自分で取り分ける形式からオーダーしてサーブするスタイルに変更したりと、本来のブッフェスタイルをとりやめるところが増えています。

オペレーションを変更するといっても、そもそもブッフェをメインに据えた業態なので、イレギュラーな業務による負担は大きいです。

ブッフェスタイルを続けられたとしても、従前通りではありません。

従業員の体調を厳しく管理したり、従業員にマスクを着用させたり、トングや皿をこまめに交換したり、店内のアルコール消毒を徹底的に行なったり、アルコール薬剤を置いて客に消毒を促したりしています。

ブッフェという業態は人件費を食材費に回すというビジネスモデルですが、現在は人的コストが多くなっている状況なので、ビジネスとしては非常に厳しいところです。

また、この時期は1年の中でも、最も人気のあるストロベリーデザートブッフェが至るところで開催されています。本来は数カ月先も予約で満席といった状況ですが、通常よりもはるかに予約は取りやすいです。

ドル箱のプロモーションが行われる時期であるだけに、ブッフェは大きな損害を被っているといえます。

ファインダイニング

ファインダイニングではどのような状況でしょうか。

平均客単価がランチで1人6000円、ディナーで1人1万2千円を超えるようなレストランでは、重要な接待や大切なお祝い、ここぞというデートなどで利用されます。

予約困難となっている20席以下の小さいレストランでは、コアなファンで埋められているので、まだ大きな影響を受けていないようです。しかし、そのようなレストランはかなり稀であり、ほとんどのファインダイニングはかなり苦戦しています。

ミシュランガイドで星を獲得していたり、食べログで高得点をとっていたり、Rettyで評判がよかったりするレストランでも、閑古鳥となっている様子です。海外からのゲストが訪れるような先進的なレストランも同じような状況となっています。

レストランの利用は、接待であれば会社から禁止されていたり、お祝いであれば世間の自粛ムードを無視してまで開催していいのかと延期したり、デートであればパートナーに配慮して予定を変更したりしています。

そもそもファインダイニングのような高級な飲食店は、気軽に訪れるようなところではありません。ある程度の気持ちの準備が必要であり、景気も含めた世の中の空気に左右されがち。

新型コロナウイルスに感染する不安がある状況では、気持ちが盛り上がらなかったり、後ろめたさがあったりして、レストランに訪れづらくなっています。

大衆的な飲食店

では、ファインダイニングではなく、大衆的な飲食店はどうなっているのでしょうか。

多くの方が外出を控えているので、軽く一杯飲んで帰ったり、少しつまんで行ったりということが少なくなっています。

閉鎖した狭い空間がよくないとされているので、テーブル間隔が狭い大衆的な飲食店もやはり敬遠されているのが実情です。人々が密集している空間が敬遠されているということでは、カフェやファストフードも客足が遠のいています。

もともとウォークインの客(予約していない客)が多い業態なので、人々が外出を控えている状況は逆風でしょう。

その一方で、食べ物を購入して帰って食べた方がいいということで、中食が増えているのです。特に、安全性が高くて日持ちもする冷凍食品が人気となっており、品切れが続く商品もあります。

大衆的な飲食店は、「せっかく予約が取れたので今訪れなければ」というモチベーションがあまりもてないので、ファインダイニングとは異なる理由で、激しい厳しさに直面しています。

従業員

飲食店の従業員にはどのような影響があるのでしょうか。

客が少ないことから、シフトに多くの変更が生じています。月給制であれば出勤日数が減ってもまだよいかもしれませんが、そうでなければ休んでいる分だけ収入が少なくなるので、非常に深刻です。

働くことができたとしても、新型コロナウイルスへの対策で衛生面への対策が増えており、通常よりもずっと業務が増えています。業務の負荷が増しているだけではなく、不特定多数の客に対応することから心理的な不安も少なくありません。

ホテルであれば、宴会がほとんどキャンセルされているので、宴会部のスタッフが一時的に料飲部へ移っていることもあり、慣れない部門で業務を遂行することとなります。

飲食店の従業員は、収入低下や業務の変更や増加、心理的な不安、さらには先行きが全くみえないことから、大きなストレスを宿しているのです。

年度末

個人事業主の事業年度は1月から12月となっていますが、法人化しているのであれば、日本では事業年度が4月から3月という事業主が一般的でしょう。

事業年度が4月から3月であれば、今はちょうど決算発表に向けて準備しているところであり、大幅に着地見込みが変わることになります。決算の帳尻合わせだけでも大変だというのに、新型コロナウイルスのピークや収束具合が全く予想できないため、翌年度の予算を組むのも困難になっているのです。

新型コロナウイルスのような理不尽な被害は、いつ降りかかってきても迷惑であることに違いはありません。

しかし、年度末であれば余計に対応することが多くなり、業務が増えてしまうのです。

メディア

食を取り上げるメディアの動きにも変化が起きています。

メディアが発信する情報は、消費者が外食する動機、および、どういった飲食店に訪れるかに大きく影響するので、外食産業にとっては非常に重要です。

普段であれば、ある飲食店が新しくオープンしたので訪れてみよう、こういったジャンルが人気なので食べに行ってみよう、といった論調で、コンテンツが作成されます。

しかし、安倍首相から自粛要請を呼びかけられている状況では、宴会を促進したり、ブッフェを取り上げたり、みんなで集まるのによい飲食店を特集したり、素晴らしい食体験の世界を全面的に押し出したりすることが難しくなっているのです。

そのため、本来は飲食店に訪れることを応援するメディアであっても、控えめなコンテンツとなっています。

ただでさえ、沈んだ雰囲気となっているだけに、メディアがいつもより遠慮がちになっていれば、飲食店に訪れたいという気持ちが高まりづらくなるのではないでしょうか。

農林水産省のアナウンス

ここまで、新型コロナウイルスによる飲食店の実情を説明してきました。

私は医療の専門家ではないので、何が安全であるか、どうすればリスクを軽減できるか、といったことはわかりません。

ただ、それでもいえることは、ほとんどの飲食店は混雑しているどころか閑散としていること、そして、混雑していないので人が密集していないことです。飲食店だけではなく、普段は人々で賑わう高級ホテルのロビーでさえ、人がほぼ見当たりません。

農林水産省は以下のような周知を行っています。

  • 食料品は不足していません!
  • 牛乳乳製品の消費にご協力ください
  • お手頃価格の野菜で健康維持を!
  • ハレの日には国産牛肉を!
  • 食品を介して新型コロナウイルス感染症に感染したとされる報告はありません

出典:新型コロナウイルス感染症について

農林水産省のアナウンスはあまりメディアで紹介されていないので、知らないという方も多いのではないでしょうか。

消極的に訪れる

国も新型コロナウイルスによる損害への支援を発表していますが、最終的にはやはり客が戻らなければ事業を継続することはできません。

飲食店には個人事業主が多く、資本面で体力が弱いところが多いです。平常時に比べれば、飲食店に訪れる機会は激減しています。訪れる回数が少なくなっている分だけ、訪れた時にはいつもより自由に食べ飲みして楽しんでもらえれば、飲食店も非常に助かることでしょう。

積極的に外食しないのは仕方ありませんが、全く外食しないのではなく、消極的に外食してみるのはどうでしょうか。普段は予約がとれない飲食店も、かなり簡単に予約が取れるはずです。

飲食店が疲弊している

東京は世界で最も多くミシュランガイドで星を獲得している都市であり、ありとあらゆる世界の料理があり、10万以上を誇る飲食店が存在しています。

新型コロナウイルスに対策するのは十分に理解できますが、その一方で、日本が世界に誇る飲食店が疲弊したり、潰れたりしていくのを、座視するのは忍びなりません。

ほとんどの飲食店は、新型コロナウイルスが感染しやすい要件を満たしていないほど、本当に客が少なく、なおかつ、最善の対策を施していることだけは、多くの方に知っていただきたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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