賞賛されている「ドタキャン防止システム」に、残念ながら異を唱えなければならない5つの理由

(ペイレスイメージズ/アフロ)

ドタキャン防止システム

ノーショー(無断キャンセル)やドタキャンに対する飲食店の施策で、新しい動きがありました。

<東京で貸し切り客130人の“ドタキャン事件”も…業界団体が防止システム開発で「ぜひやるべき」の声><飲食店のドタキャン履歴を電話番号で照合する「ドタキャン防止システム」 個人情報の扱いに問題はない?>でも紹介されているように、全日本飲食店協会が2018年2月19日から「ドタキャン防止システム」を始めます。

「ドタキャン防止システム」は、参加している飲食店がドタキャンを行った客の電話番号と予約した日時および人数をデータベースに登録し、検索して参照できるようにする仕組みです。

他でも話題に

これは、飲食店がドタキャンを行った客のブラックリストを作成するということです。全日本飲食店協会は「電話番号以外の個人を特定する要素がないため個人情報保護法には抵触しない」という見解を示していますが、グレーゾーンということもあり、これまでこういった試みが行われたことはありませんでした。

そのため、既に大きな話題となっています。Yahoo!ニュース 個人でも既に山本一郎氏が「<不適切な個人データ活用」VS「飲食店ドタキャン客」の不毛な戦い>という記事を執筆されており、私はほぼ全面的に賛同し、タイトルの「不毛な戦い」も言い得て妙だと思っています。

ノーショーだけなのか

山本氏が追記とお詫びをされていることに関連して、言及したいことがあります。

「ドタキャン防止システム」はノーショーのみを対象としていると指摘されたようですが、公式サイトには、以下のように「直前の団体様の予約キャンセル」とも記載されているのです。

・「連絡なし、電話も出ない・・・」

 来るのか来ないのかわからない予約のすっぽかし

・「コースの仕込みもしてるのに・・・」

 直前の団体様の予約キャンセル

出典:ドタキャン防止システム

この文面によればノーショーだけではなくドタキャンも対象にしていると受け取ってよいでしょう。そもそも、もしも本当にノーショーだけを対象にしているのであれば、名称を「ノーショー防止システム」「無断キャンセル防止システム」に変更するべきです。

また、参加する飲食店がどのような時に電話番号を登録するのかに依存するので、当記事ではノーショーとドタキャンのどちらとも対象であるとみなします。

賛同できない理由

私はノーショーやドタキャンに関して、最近では以下のような記事を書いてきました。

これまでも述べたことがありますが、「ドタキャン防止システム」のような仕組みには、あまり賛成できません。

賛同できない理由を、次の点を通して説明します。

  • 情報管理
  • 規模効果
  • 訪日外国人客
  • 客からの同意
  • なりますしや番号変更

情報管理

「ドタキャン防止システム」はどのようなシステムで構築され、運営されるのでしょうか。

個人につながる電話番号を管理するので、当然のことながら流出があってはなりません。セキュリティを担保しなければなりませんが、このような仕組みをゼロから開発し、日々運営していくとなると、当然のことながら、お金がかかります。

全日本飲食店協会は昨年設立されたばかりの一般社団法人のようですが、理事会が設置されていない基本的な機構であり、会員が入会費、年会費および月会費を納めていないようなので、潤沢な開発費用や運営資金があるとは思えません。加えて、「ドタキャン防止システム」を利用するのも、今のところ無料となっています。

こういった状況で、システムの構築や運営にどれくらいお金を捻出できるのでしょうか。

もしかすると、知り合いのITエンジニアにほぼ無料で開発してもらっているのかも知れません。しかし、開発したら終わりではなく、そこから終わりのないシステム運用が始まります。会社ではなく、無料もしくは格安で請け負う個人が、多くの電話番号を管理する仕組みを開発して運営するのであれば、不安が拭えません。

技術面に関しては、老婆心ながら既に心配しています。全日本飲食店協会は、公式サイトが非常に簡易的なものです。それに加えて、公式サイトで紹介されている「ドタキャン防止システム」へのリンク先「http://ドタキャン防止lpリンク/」は、サーバーのIPアドレスが見付からずにつながりません。

ドタキャン防止システムを利用するにはどうしたらいいですか?

こちらからお申し込みください。

出典:よくある質問

電話番号だけであれば個人情報保護法に抵触しないと判断しているとはいえ、個人との結びつきが強い電話番号をもとにしてブラックリストを管理するシステムです。それだけに、しっかり開発して運営されるのかどうかと不安を感じます。

規模効果

2014年時点で全国に72万もある飲食店において、ブラックリストが意味を持つためには、最低でも何千、できれば何万件もの情報が必要になるでしょう。

では、電話番号はどれくらい登録されそうでしょうか。

全日本飲食店協会は個人飲食店オーナーが集まった協会であり、理事3人と会員8人の全11人という組織になっています。理事と会員の11店舗が「ドタキャン防止システム」に参加するのは当然としても、他にどれくらいの飲食店が参加するでしょうか。

先の11店舗の所在地は大阪と名古屋と熊本になっているので、特に飲食店の数や外食の頻度が高い東京の飲食店がたくさん参加する必要があります。

そして、飲食店の数がある一定数に達したら、いきなりドタキャンに対して有効になるわけではありません。そこから電話番号が蓄積され始めるので、さらに何ヶ月か何年も要するでしょう。

具体的に考えてみるため、シンプルな仮定で計算してみます。

日本人のうち0.5%くらいは気軽にドタキャンするとして、その人数は約35万4千人。「ドタキャン防止システム」に参加する飲食店が1000店あり、週に1回ドタキャンを登録して重複がなかったとすれば、1年間で約4万8千の電話番号が蓄積されることになります。つまり、この前提では、1年かけてようやく、全ドタキャン客の約13.6%をカバーできることになるのです。

参加する飲食店が1000店に達するまでにも時間がかかるので、電話番号が蓄積されるまでにはもっと時間を要するでしょう。また、収集された電話番号の所有者が住む地域に偏りが生じれば、全国規模で有効となるにはさらに時間がかかります。

訪日外国人客

以前に、インバウンドの訪日外国人客によるノーショーやドタキャンが問題となりましたが、訪日外国人客の場合には「ドタキャン防止システム」はあまり役に立ちません。

何故ならば、訪日外国人客はホテルの電話番号やレンタルした携帯電話番号で予約していたり、本人の電話番号であってもまだデータがなかったりするため、あまり有効とならないからです。

ミシュランガイドで星を獲得していたり、海外から評価が高かったりしているなど、訪日外国人客が食べに訪れる飲食店では、あまり効果は現れません。

客からの同意

以下で述べられていますが、ドタキャンしたら電話番号をブラックリストに登録することを客に隠しておいて同意をとらないのは、商業的な契約という観点において本当に問題がないのでしょうか。

ただ、協会によると、電話番号をデータベースに入れることに関して、お客さんから同意を得る予定はないと言う。「予約するときに、あなたはドタキャンするかもしれないから番号を教えてくださいなんて、お客さんに言えません。ドタキャンされた場合は連絡が取れなくなることがほとんどなので、お店が被害を受けた時に番号を追加するようになります」というのが協会の答えだ。

出典:飲食店のドタキャン履歴を電話番号で照合する「ドタキャン防止システム」 個人情報の扱いに問題はない?

電話番号を予約の用途とは関係のない「ドタキャン防止システム」に登録する可能性があることを伝えるのは、道義的には必要であると感じます。

仮に、自身がインフルエンザに羅患したり、家族が病気になって看病する必要が生じたりし、申し訳ないと思いながらも仕方なくドタキャンした場合、知らない間にブラックリストへ追加されていたとしたら、飲食店に対してネガティブな感情を抱くのではないでしょうか。

確かに、客は決して神様ではありません。しかし、飲食店は客がお金を支払うことによって成り立っているのです。

飲食店が客を選ぶのは自由ですが、客にとって不都合があることを事前に伝えないのは、不誠実でしょう。客が喜ぶことをしたいというのが飲食業の基本であるだけに、客が負うかも知れないリスクを事前に説明することさえできないのであれば、飲食店の発展はありえません。

また、ノーショーの定義は明確なのでよいですが、ドタキャンの定義はどうなっているのでしょうか。つまり、ブラックリストに登録する基準はどうなっているのでしょう。予約日時の当日であればドタキャンになるのか、もしくは前日でもドタキャンとなるのかなど、登録される基準は重要です。

全日本飲食店協会が何かしらのキャンセルポリシーを提示しておく必要があるのではないでしょうか。

なりすましや番号変更

多くの人は予約する際に、固定電話ではなく携帯電話の番号を伝えるでしょう。以前にも述べたことがありますが、ブラックリストに登録されている人の携帯電話番号が変わったり、携帯電話番号を変更したらブラックリスに登録されている番号になったりすることも十分に考えられます。また、予約時に自分自身の電話番号を伝えずに、他人の電話番号を伝える場合もあるかも知れません。

その場合、どのように対応するのかは、以下のように説明されています。

電話番号のなりすましや、番号の持ち主が変わった場合の対処法としては「お客様から申請をしてもらって、こちらで確認が取れ次第削除手続きをする方針」だと言う。

出典:飲食店のドタキャン履歴を電話番号で照合する「ドタキャン防止システム」 個人情報の扱いに問題はない?

このように回答されていますが、そもそも、なりすまされて自分の電話番号をブラックリストに登録されてしまった人は、そのことを知る術がないので申請することができないのではないでしょうか。

予約時にすら同意を取らない方針であれば、ブラックリストに登録されている人が予約する際に、飲食店から「あなたはブラックリストに載っています」とあえて伝えられるとは思えません。

つまり、なりすましで電話番号を登録された人は、不便を被りながらも、ブラックリストに登録されていることを知る機会が全くないのです。

なりすましを防いだり、番号の変更を察知したりするために、せめて折り返しの電話確認をしたり、SMSを送ったりする必要はあるのではないでしょうか。個人の信用問題を扱うシステムを運用する以上、全日本飲食店協会には、より慎重に電話番号を扱う責務があると考えます。

性急さが心配

全日本飲食店協会は「求人」「ドタキャン」「顧客の管理」を飲食店における大きな問題であると捉えており、これを打破するために「社会貢献」「業界発展」「経営支援」を3本の柱として掲げて活動しているとしています。

これらの問題は私も大きな問題であると考えており、「コックさんの子供食堂」といった活動も素晴らしいと思っています。

ただ、「ドタキャン防止システム」に関しては、客に対する不信感や怒りが勝ってしまい、本来は慎重に進めなければならないのに、物事を性急に運び過ぎているように感じるのです。

私もノーショーやドタキャンを撲滅したいと考えており、冒頭で紹介したように多くの記事を書いてきました。しかし、中長期的な視点から飲食業界の発展を望むのであれば、客と飲食店が互いに疑心暗鬼となり、どっちがどう得したか損したかと奪い合う関係ではなく、客と飲食店が信頼し合い、リスペクトし合う関係を築いていくことが必要であると考えます。

着実かつ確実に

「ドタキャン防止システム」はそもそも防止にはなっていません。何故ならば、防止とは防ぎ止めることを意味しますが、電話番号の扱いにはなりすましや番号変更、同意の有無やキャンセルポリシーの案内など色々な課題があり、とても防ぎ止めるように思えないからです。

予約台帳を始めとするFoodTech(フードテック=食のテクノロジー)が進化したり、多くの方がノーショーやドタキャンに関心を持つようになったりするなど、近年では局面が変わってきています。一方で飲食店はITや決済が遅れている業界であり、全日本飲食店協会もまだ小さくて若い組織であるだけに、「ドタキャン防止システム」を心配しているのです。

「ドタキャン防止システム」を広めていくにあたり、予約台帳を巻き込んでITのプロフェッショナルのテクノロジーを取り入れたり、識者を入れて意見交換を行って客観的な視点も加えたりするなどし、着実かつ確実に進めてもらえることを心より願っています。

関連リンク

よろしければ、続編の<大絶賛されている「ドタキャン防止システム」を運営する全日本飲食店協会への拭いきれぬ4つの疑念>もご覧ください。