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お笑い芸人の店で60人の無断キャンセル。どうしても飲食店ができない3つの有効な対策

東龍グルメジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

お笑い芸人の飲食店でノーショー

<ジーニー堤 “ドタキャン”被害で警察に相談するも「確認を怠った店側に落ち度>という記事で、お笑い芸人のジーニー堤氏が経営する飲食店でノーショー(無断キャンセル)があり、警察に被害届を出したが、受理されなかったとあります。

受理されなかった理由は以下の通りです。

・電話番号と名前が本物か分からない。

・被害届は犯人が分からないと難しい。

・犯人が分かっていたところで故意や悪意かの立証は難しい。

・そもそも確認を怠った落ち度がある。

出典:ジーニー堤 “ドタキャン”被害で警察に相談するも「確認を怠った店側に落ち度」

今回の件を通して、ノーショーやドタキャンについて改めて知ってもらいたいことがあります。

有効な対策を取れない

<「SNSによるSOS発信からの感動話」に潜む3つの問題>でも述べましたが、ノーショーやドタキャンが起きた時に逆転満塁ホームランで九死に一生を得ることは、ほとんどありません。

奇跡的に起こる感動話を安易に広めることによって、問題を過小評価してはいけません。

ノーショーやドタキャンが起きた時に、飲食店は経済的な損害と精神的な疲弊を被ると以前から述べていますが、それは今回の件と非常に関係があります。

飲食店は以下の点に対して、有効な対策を取れないので非常に疲弊するのです。

  • 警察
  • 裁判
  • ブラックリスト

警察

まさに今回のケースです。

警察に被害届を出しても、まずほとんどの場合、被害届は受理されません。警察に相談したところで、捜査は行われず、犯罪として検挙することはほとんどないでしょう。

ノーショーやドタキャンを行ったことによって、威力業務妨害などの業務妨害で捕まったという例を、私は周りから聞いたことがありません。

飲食店における事件では、毒を混入したり、店を爆破したり、客に暴行したりするといった場合以外では、警察が動くことは難しいでしょう。

客が飲食店で食べ飲みし、その飲食代金を支払わなければ警察は動きます。しかし、実際に何かが消費される前の段階で、予約が履行されなかったからと言って警察が動くことはほとんどないのです。

現実的に考えてみても、予約がキャンセルされる度に捜査していたら、とてもではありませんが、警察は対応しきれないでしょう。

ただ、逆に捉えてみると、ノーショーやドタキャンで警察が動けないので、客があまり緊張感を持てないということもあるのかも知れません。

裁判

飲食店が、予約が履行されなかったからといって、提訴することはほとんどありません。何故ならば、裁判する費用も時間も、精神的な負担も大きいので、提訴することよりも、泣き寝入りすることを選ぶからです。

これは消極的な選択であると言えるでしょう。

ノーショーやドタキャンが起きたとしても、それによって無駄となった数万円のために、弁護士を擁立して、訴状を提出し、裁判所に出廷して、判決を出してもらうのは、割に合いません。

たとえ勝訴したとしても、そのお金を確実に回収できる保証もありませんし、回収できたとしても、かかった費用によっては赤字となってしまいます。

また、ノーショーやドタキャンのために裁判まで行ったと知れ渡ったら、集客に影響するのではないかと考える飲食店が多いので、提訴になかなか踏み切れません。飲食店がせいぜいすることと言えば、TwitterやFacebookなどのSNSへ投稿して、周知するくらいでしょうか。

飲食店は客商売であり、日々忙しいので、ノーショーやドタキャンがあれば提訴すればよいという考え方は、飲食店の実情に即していません。

ブラックリスト

ノーショーやドタキャンを起こした客をブラックリストにしてしまえばよいというアイデアもあるでしょう。しかし実際には、非常に厳しいキャンセルポリシーを掲げている飲食店以外で、ブラックリストを作成したり、運用したりしているところはありません。

飲食店は客商売なので、特定の客を出入り禁止することに抵抗があるからです。1人でも多く集客したいという考え方もありますし、出入り禁止は聞こえが悪いので集客に影響するのではないかと考えるからです。

ノーショーやドタキャンが問題になった時期に、ノーショーやドタキャンをした客の携帯電話番号を共有するサービスが立ち上がりましたが、私はあまり賛成できません。

ほぼボランティアのような方が人の信用を決定するサイトを運用することに懸念がもたれますし、携帯電話番号を登録する際にしっかりとした検証がされているかどうかも不明だからです。

いたずらや怨恨で携帯電話番号が登録されたり、携帯電話を交換して番号が変わったりした場合にはどうするのでしょうか。

ノーショーやドタキャンがいくら悪いとはいえ、家族の体調不良など仕方なくドタキャンとなった場合でも携帯電話番号が登録されるとなれば、少しやり過ぎという気がします。

個人情報の取り扱いが難しい現代において、安易な思いつきでブラックリストの運用を行うものではありません。もしもそのリストが流出してしまったら、どうやって責任をとるのでしょうか。

ブラックリストは本当に最終的な手段です。予約台帳が事前決済の仕組みを構築したり、ノーショーやドタキャンの補償制度を設けたりしているので、ブラックリストを運用するのではなく、こちらを用いた方がよほどスマートではないでしょうか。

飲食店に対する酷い行い

以上みてきたように、ノーショーやドタキャンの被害に遭っても、いちいち警察が対応してくれなかったり、コストがかかるので提訴できなかったり、ブラックリストを運用したくても現実的に難しかったりと、飲食店が事後に打てる手はほとんどありません。

加えて、準備に要した時間や費用、楽しんでもらいたかったという想いもあるので、ノーショーやドタキャンの被害に遭った飲食店は精神的に大きなダメージを受けるのです。

予約台帳のFoodTechによる素晴らしいソリューションも紹介しましたが、ノーショーやドタキャンが起きないことが、最もよいに間違いありません。

ノーショーはドタキャンが飲食店に対して極めて酷い行いであることを、改めて多くの方に知っていただきたいです。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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