『不適切にも』不良少女役・河合優実、売春を12歳から毒親に強いられる悲痛な少女役の『あんのこと』
冬ドラマNo.1の注目作であり、昭和世代から大絶賛を受けている宮藤官九郎オリジナル脚本の『不適切にもほどがある！』（TBS系）。本作で性に開放的な昭和の不良少女を演じる河合優実だが、公開待機作の主演映画『あんのこと』（6月7日公開）では、毒親に12歳から売春を強いられ、薬物中毒になる主人公の壮絶な人生を、身も心も挺して体現している。
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DV家庭で育ち、12歳で母親が斡旋して売春
『不適切にもほどがある！』での河合優実は、マッチのポスターを部屋に貼り、セーラー服のスカートを長くして上にスタジャンを羽織り、前髪は中森明菜（「DESIRE -情熱-」を歌う当時）。思春期まっただなかの昭和の不良少女役を好演し、ドラマNo.1の人気キャラクターになっている。
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そんな彼女の公開待機作のなかで注目したいのが、オリジナル脚本で入江悠監督が描く衝撃の人間ドラマ『あんのこと』。2020年に現実に起きた事件をモチーフにする本作で、河合優実は底辺から抜け出そうともがく主人公・杏を演じる。
21歳の杏は、売春で生活費を稼ぐ薬物中毒者。ホステスの母親と足の悪い祖母と3人で暮らすなか、子どもの頃から酔った母親に殴られるDV家庭で育ち、小学4年生から不登校。初めて体を売ったのは12歳で、母親が相手を斡旋した。
希望はおろか絶望すら知らず、ただ繰り返されるだけの毎日を過ごす人生を送っていた。そんな暗闇の世界が、ある出会いをきっかけに少しずつ変わりはじめる。
杏を取り巻くリアルな現実社会の厳しさを映す
本作がフィーチャーするのは、現代社会のなかで「見えない存在」にされてしまった人々。そのなかのひとりである杏は、人情味あふれる刑事に支えられ、薬物中毒から抜け出し、夜間学校で再び学び、仕事を見つけて、底辺の生活しかなかった人生を自ら変えようとする。
しかし、それは簡単なことではない。もがき苦しみ、それでもなんとか生きる道筋を見つけたときに、ある出来事が起こり、彼女を取り巻く環境は一変する。生きる希望を持ちかけていたところから、人生の歯車は悪い方へと回り続ける。
入江監督が紡ぐストーリーと映し出す社会は、まさに現実社会そのもの。杏の人生に起こる出来事の数々は、直視できないほど辛く悲しく、ときにどうしようもなく切なくなるほど厳しい。一方、彼女が前を向くと心から応援したくなる。気づくと、いつの間にか杏の人生をともに生きている。
現実とタイムリーにマッチする社会性
そこまで杏に共感させられるのは、杏になった河合優実が目の前で生きているから。これまでにも映画賞で評価されている河合優実の芝居は折り紙付きだが、技術的な面だけではない心の部分での役への向き合い方や覚悟から杏に成り切ったことで、その生き様が見るものの心をふるわせるのだろう。
公式サイトで河合優実は「杏のことを演じるということで、何ができるのか、何をすべきなのか、何がしたいのか。繰り返し問いながら、でも彼女と心の中でしっかりと手を繋いで、絶対に離さずに、毎朝、今日もよろしく、いってきますとお祈りして撮影に向かっていました。強く信じながら作った映画です」と語っている。
杏は、そこまでの気持ちを作って臨まなければなし得なかった役柄なのだ。物語のラストは、想像したくない悪い予感がよぎるなか、結末に向かって話が進んでいく。
そして、言葉ではいい表せないほどの余韻に襲われる。そこには、現実と奇妙かつタイムリーにマッチする社会性をはらんだ事象があり、善悪の尺度では測れない問いかけがある。
本作は24年度の映画賞で高く評価されることが予想される。入江監督と河合優実のタッグでなければ成立しなかったであろう本作において、河合優実の芝居がフィーチャーされるのは間違いない。彼女の代表作のひとつになり、女優としてのさらなる飛躍につながる作品になることだろう。
公開後の反響が待ち遠しい。
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