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井上尚弥vs.ルイス・ネリ「5・6東京ドーム」が、いまだ正式発表されない理由─。

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
5月6日、東京ドームでルイス・ネリの挑戦を受ける井上尚弥(写真:藤村ノゾミ)

34年ぶりの東京ドーム興行

5月6日、東京ドームで「4団体(WAB、WBC、IBF、WBO)世界スーパーバンタム級タイトルマッチ」井上尚弥(王者/大橋)vs.ルイス・ネリ(メキシコ)が行われることは、すでに決定事項である。

米国でこの一戦を放送する『ESPN』を始め海外の複数メディアがすでに「決定」と報じており、大橋ジムも「調整中」としながら否定はしていない。

ならば、開催地となる日本において正式発表が行われていないのは何故か?

考えられるのは、次の2点である。

まずは、イベントの全容が煮詰まっていないため。

東京ドームでのプロボクシング興行といえば、1990年2月11日の世界ヘビー級タイトルマッチ、マイク・タイソン(米国)vs.ジェームス・バスター・ダグラス(米国)。歴代最強との呼び声もあった無敵のタイソンがKOで敗れた衝撃シーンは忘れ難い。

その東京ドームで34年ぶりイベント開催となれば、アンダーカードも充実させねばならない。この調整がまだできていないのではないか。

総合格闘技『RIZIN』、キックボクシングの『K-1』『RISE』等では先にメインカード、追って追加対戦カードが発表されることが多々ある。だがボクシングでは、主要カードをひと通り揃えてから発表会見を行うのが通例となっている。

バンタムに続きスーパーバンタムでも「4団体世界王座統一」を果たした井上尚弥。左は父・井上真吾トレーナー、右は大橋秀行会長(写真:藤村ノゾミ)
バンタムに続きスーパーバンタムでも「4団体世界王座統一」を果たした井上尚弥。左は父・井上真吾トレーナー、右は大橋秀行会長(写真:藤村ノゾミ)

ネリの日本国内活動停止処分

2つ目は、ネリの問題だ。

現時点で彼は日本のリングで試合ができないことになっている。

2017年8月、山中慎介(帝拳)をKOで下しネリはWBC世界バンタム級王座を獲得した。しかし、その後に薬物検査で陽性反応。翌18年3月には王者として山中の挑戦を受けることになるも前日計量で大幅な体重オーバー、王座を剝奪された。不祥事が続いたことでネリは、JBC(日本ボクシングコミッション)から無期限の日本国内活動停止処分を受けているのだ。

だが、この件に関してJBCの安河内 剛本部事務局長は言う。

「昨年のJBC規定改定で、処分開始日から無期限(活動停止)は3年、(資格)取り消しは5年が経過すれば再申請が可能になりました。だから、永遠に活動停止ということではない。申請があれば資格審査委員会で検討します。ネリ選手は米国などで試合をしており、ずっと日本で試合ができないというのは常識的ではない」

すでにネリ本人、またはプロモーター側から出場申請は行われているはず。活動停止処分は解かれることになろうがファンに対して納得のいく説明も必要となる。

この辺りの調整にも時間がかかっているのではないか。

WBCからの指名挑戦者であり実力は確かなルイス・ネリ。戦績35勝(27KO)1敗、過去にWBC世界バンタム&スーパーバンタム級のベルトを腰に巻いている2階級制覇王者だ。ニックネームは「悪童」
WBCからの指名挑戦者であり実力は確かなルイス・ネリ。戦績35勝(27KO)1敗、過去にWBC世界バンタム&スーパーバンタム級のベルトを腰に巻いている2階級制覇王者だ。ニックネームは「悪童」写真:REX/アフロ

ネリが契約体重を守らなかったら

さらに踏み込めば、ネリ陣営との細かな契約内容を詰める作業にも時間を要しよう。大枠で両陣営は契約合意に至っているようだが、まだ残されている部分もあるのではないか。

ネリに対しては油断ができない。

それは「契約体重を守らないのではないか」との疑念が消えないからだ。

2018年3月、山中との再戦時の体重オーバーは意図的だったとの見方もある。

もちろん試合決定当初はウェイトコントロールに取り組むつもりだったろうが、調整段階で上手くいかなくなった。そのためネリは王座剥奪を覚悟で減量を諦め、最高のコンディションをつくることのみに専念した、と。

(ベルトは失ってもいい。結果的に試合で勝てば自らの商品価値は保てる)

そんな考えからである。

実際、ネリは再計量1.3キロの体重オーバーの状態でリングに立ち、山中から4度のダウンを奪い2ラウンドTKOで勝った。

もちろん山中には「試合をしない」選択肢もあったが、そうはしなかった。いや、できなかったのだろう。

日本テレビ系列での全国生中継が決まっていた。会場となった東京・両国国技館のチケットもほぼ完売状態だったのである。帝拳プロモーションに多額の損失を負わせるわけにはいかなかった。この試合を最後に山中は引退している。

5月の井上戦でネリが同様の不祥事を起こさぬとも限らない。ならば、そうなった場合にネリ側に金銭的に重いペナルティを盛り込む必要もあるだろう。シビアな交渉が続いているのではないか。

近日中に正式に対戦決定の記者会見が行われる。楽しみに待ちたい。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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