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「井上尚弥の弱点を見つけた!」と自信を漂わすルイス・ネリのファイトプランとは?『5・6東京ドーム』

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
3月の記者会見で視線を交わした井上(左)とネリ(写真:東京スポーツ/アフロ)

「井上尚弥優位」の声が圧倒的

「イノウエの実力は過大評価されている。私は彼の弱点を複数見つけた。それが何であるかを試合で暴くよ。楽しみにしていて欲しい」

ルイス・ネリ(メキシコ)は、落ち着いた口調でそう話した。4月23日に帝拳ジムで行われた公開練習でのことだ。

5月6日、東京ドーム『Prime Video Presents Live Boxing 8』が刻一刻と近づいている。この大会では4大世界タイトルマッチが行われるが、最注目は4団体(WBA、WBC、IBF、WBO)統一世界スーパーバンタム級タイトルマッチ、井上尚弥(王者/大橋)vs.ルイス・ネリ。

両者はすでにスパーリングを打ち上げ、最終調整に入っている。好コンディションを互いにキープしており減量も順調のようだ。

さて、この試合の予想だが「井上優位」の声が圧倒的だ。

戦績26勝(23KO)無敗、これまでにライトフライ、スーパーフライ、バンタム、スーパーバンタムと「世界4階級制覇」、そしてバンタム、スーパーバンタムの2階級で「4団体世界王座統一」を果たしてきた”モンスター”井上尚弥は、いまや孤高の存在である。

過去にWBCで世界2階級制覇(バンタム&スーパーバンタム級)を果たし35勝(27KO)1敗の戦績を誇るネリであっても直近の闘いぶりを見る限り、実力的に井上には及ばない。

スピード、テクニック、パワー、メンタルのすべてにおいて井上が上位だろう。「井上優位」の予想は私も同じだ。

だが、ネリは強気な姿勢を崩さずに言う。

「イノウエの弱点を見つけている。(日本のファンは)これまでに見たことのない光景を目にすることになるだろう」と。

ファイターが試合前に強気に振舞うのは常套手段。つまり「イノウエの弱点を見つけた」発言はフェイクである。

「イノウエのスパーリングパートナーを務めていたメキシコ人選手から情報収集もしている」

ネリのチーフトレーナー、サニール・ロサーナ氏がそんな発言もしていたが、その真偽も定かではない。おそらくはネリ陣営の陽動作戦だろう。

2017年8月15日、山中慎介(右)に強打を浴びせ2ラウンドTKO勝利でWBC世界バンタム級王座を獲得したルイス・ネリ。だが直後にドーピング検査陽性反応が明らかになる(写真:山口裕朗/アフロ)
2017年8月15日、山中慎介(右)に強打を浴びせ2ラウンドTKO勝利でWBC世界バンタム級王座を獲得したルイス・ネリ。だが直後にドーピング検査陽性反応が明らかになる(写真:山口裕朗/アフロ)

ネリが抱く作戦とは

それでも、気になることがないわけではない。

来日以降、ネリが妙に落ち着いていることだ。何かを悟ったような目をしている。

クレバーな彼は自分が置かれている状況を理解し、すでにファイトプランを明確にしているのだろう。

(モンスター相手に、真面に対峙したならば勝機はない)

強気な発言をしながらも、その現実を受け容れている。

ならば、勝機を見出すためにいかに闘うのか?

ネリのファイトプランは、一つしかないように思う。

これまで井上尚弥に負けた数多くの相手は、何が足らなかったと思うか?

そう問われて彼は、次のように答えている。

「決心と意欲、そこには恐怖が関係していたかもしれない」

おそらくネリは、試合序盤に勝負をかけるつもりだ。

井上に自らのペースを刻まれた後には、勝機がないとわかっている。その前、つまりは井上がまだ手探り段階にある時に”一撃”をヒットさせることに賭けようとしている。

マーロン・タパレス(フィリピン)、スティーブン・フルトン(米国)をはじめ井上に倒されたチャンピオンたちには、前に出る決心と意欲がなかった。それは井上から受けるプレッシャーを恐怖と感じ過ぎたからだろう。

(倒されてもいい、玉砕覚悟で刺し違える)

その作戦をネリが遂行できるか否か。可能性は低いが、ネリが井上が距離感を把握しリズムを掴む前に一撃を見舞えたなら戦況は大きく変わる。

井上優位は変わらない。それでもネリの決意と意欲が本物で策が嵌ったなら、34年前のマイク・タイソンvs.ジェームス・ダグラス同様のスーパー・アップセット(大番狂わせ)が生じるのかもしれない。

GWの最終日、東京ドームのリングで何が起こるのか─。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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