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井上尚弥陣営が、ネリの体重超過に備えリザーバーに元世界王者を用意─その真意とは?『5・6東京ドーム』

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
5・6東京ドームで統一王座初防衛戦に挑む井上尚弥(写真:日刊スポーツ/アフロ)

「イノウエは過大評価されている」

日本国内における今世紀最大のボクシングイベント5・6東京ドーム『Prime Video Presents Live Boxing 8』が目前に迫っている、決戦まで3週間を切った。

同大会では、4大世界タイトルマッチが行われる。

<WBA、WBC、IBF、WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチ>

井上尚弥(王者/大橋)vs.ルイス・ネリ(メキシコ)

<WBA世界バンタム級タイトルマッチ>

井上拓真(王者/大橋)vs.石田匠(井岡)

<WBA世界フライ級タイトルマッチ>

ユーリ阿久井政悟(王者/倉敷守安)vs.桑原拓(大橋)

<WBO世界バンタム級タイトルマッチ>

ジェイソン・マロニー(王者/オーストラリア)vs.武居由樹(大橋)

いずれも興味深いカードだが、やはり最注目は井上vs.ネリである。

4月10日に所属する大橋ジムで公開練習を行った井上尚弥(大橋)は、こう話した。

「(世界王者になって)10年目に東京ドームで試合ができるのは何かの縁、大橋ジム30周年でできるのも感慨深い。絶対に成功させなければいけないという思いはいつも以上に強く、高いモチベーションで闘えます。自分に期待したい」

一方のネリは舌好調だ。

日本での対戦発表記者会見の際は謙虚だったが、トレーニング地の米国に戻ると態度が一変。強気な発言を繰り返している。

「イノウエは強いが特別な選手ではない、周囲が過大評価しているだけ。俺と闘うことでみんながそれを知ることになる」

「確かに私は(契約体重オーバーの)過ちを犯した。だが、その後は相手と合意の上で試合をしたんだ。そのことまで批判するのはフェアじゃない。まあ、次の試合は完璧に仕上げた状態でリングに上がり勝利して、俺を悪く言ってきた奴らを黙らせてやるさ!」

リザーバーは元世界王者ドヘニー

井上、ネリともに、調整は順調のようである。

それでも、どうしても消えない不安がある。ネリが契約体重を守るかどうか。

2018年3月の山中慎介(帝拳)戦、翌19年11月のエマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ)戦の前日計量でネリは契約体重をオーバーした。今回も同様の失態を犯す可能性もある。

もし、ネリが契約体重を守らなかったらどうなるか?

「(ネリが)1ポンドでも体重オーバーしたら試合はしない」

そう大橋ジムの大橋秀行会長は明言している。

ならば、試合は中止されイベント自体もなくなるのか。そんなことになれば主催者の損失額は計り知れない。

最悪の事態は避けねばならない。ゆえにリスクマネジメントにも怠りはないようだ。

大橋会長は言った。

「ネリが契約体重を守れなかった時に備えてリザーバー(代役)を用意する」と。

すでにリザーバーは決定している。

元IBF世界スーパーバンタム級王者で、現在はWBO世界同級王者のT・J・ドへニー(アイルランド)。現在も彼はWBO3位、IBF7位、WBCでも11位にランクされており王座挑戦権は有している。そして、ネリと同じサウスポー。

ドへニーは、『5・6東京ドーム』でも第1試合でフィリピンの22歳のホープ、ブリル・バヨネスとの試合が決まっており「ネリの体重超過」が生じた場合のみ井上と闘うことになる。

昨年6月、中嶋一輝(右)を4ラウンドTKOで下しWBOアジアパシフィック・スーパーバンタム級王座に就いたT・J・ドヘニー。25勝(19KO)4敗の戦績を誇る(写真:山口フィニート裕朗/アフロ)
昨年6月、中嶋一輝(右)を4ラウンドTKOで下しWBOアジアパシフィック・スーパーバンタム級王座に就いたT・J・ドヘニー。25勝(19KO)4敗の戦績を誇る(写真:山口フィニート裕朗/アフロ)

この措置により万が一、ネリが体重オーバーをした場合でもイベントは成立する。しかし、ファンは納得しないだろう。観たいのは「井上vs.ネリ」であって「井上vs.ドヘニー」ではない。そのことを主催者も十分に理解している。

今回、リザーバーの準備を発表したのには別の意味がある。

それは、ネリにプレッシャーをかけること。

「体重超過をしても試合ができるとは思うな!」とのメッセージを悪童に送ったのだ。

これが、リザーバーを用意した真意─。

おそらく今回、ネリが体重オーバーをすることはない。キャリア最高額のファイトマネーをフイにするとは思えないからだ。そして、井上との対峙を自身のボクシングキャリアの集大成と位置付けてもいる。

ネリは万全のコンディションで番狂わせを目論みリングに上がるはずだ。

GW最終日の夜、東京ドームで何が起こるのか。歴史的一戦を見逃すな!

なお今回もテレビでの生中継はなく、試合の模様は「Prime Video」で生配信される。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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