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なぜ朝倉未来は「平本蓮に負けたら引退する」と口にしたのか?真意を考察─。7・28『超RIZIN.3』

近藤隆夫スポーツジャーナリスト
約1年ぶりにRIZINのリングに上がる朝倉未来(写真:藤村ノゾミ)

引退をかけた闘いなのか?

「去年の年末に弟(朝倉海)から刺激をもらった。俺がRIZINのフェザー級を盛り上げてきた自負があるので、年末にトップ戦線に食い込みたい思いがある。復帰戦にラクな相手(平本蓮)を用意してもらったので、ボッコボコに痛めつけてやろうと思います」

『超RIZIN.3』(7月28日、さいたまスーパーアリーナ)で平本蓮(剛毅會)との対戦が発表された記者会見で朝倉未来(JTT)は、そう話し続けた。

「万が一、平本に負けたら俺は引退します」

すると即座に平本が口を開いた。

「俺もコイツに負けたら引退します。絶対負ける訳ないんで」

壇上の中央に座っていたRIZIN榊原信行CEOが苦笑いしながら言う。

「別に引退しなくていいんじゃないの」

(提供:RIZIN FF)
(提供:RIZIN FF)

朝倉未来vs.平本蓮のドリームマッチは、いきなり引退をかけた闘いの様相を呈したが、そういうことだろうか。

筆者は思う。

朝倉は本気で発言したが、平本はそうではないだろう、と。

つまり、朝倉は負けたら本当に引退するが、平本は負けても引退しないということだ。平本の「負けたら引退」発言は、売り言葉に対する買い言葉である。

では、なぜ朝倉は敢えて「平本に負けたら引退」と発言したのか?

(平本は格下、このレベルの選手に負けるわけがない)との単なる挑発ではなかっただろう。

おそらく朝倉は不安を抱えている。それはメンタルをかつての超戦闘モードに戻せるかどうか─。

朝倉が平本と闘う真の理由

昨年11月にオープンフィンガーグローブ着用キックボクシングマッチでYA-MAN(TARGET SHIBUYA)にKO負けを喫した後、朝倉は言った。

「相手と向かい合った時に、かつてのような『相手を殴り倒してやる!』という強い気持ちが湧いてこなかった」

フィジカル、メンタルの両面でコンディションが整わぬまま彼はリングに上がり、そして敗れた。だから、こうも言った。

「精神とカラダのダメージが抜けるまで格闘技を休憩させてください。その後に血を吐くような努力をして、来年必ず強い姿で戻ってきます。まだ心の炎は消えてない」

そして今回、7月に平本を相手に再起戦を行うことを決めた。

ファンが待ち望んだカードではあるが、考えてみると、朝倉にとってはメリットが少ない。なぜならば、格下の平本に勝ってもファイターとしての評価が上がるわけではないからだ。それどころか負けるようなことがあれば、本人が口にしている通り格闘家生命が絶たれる。

左から朝倉未来、RIZIN榊原信行CEO、平本蓮。3月16日、東京・六本木ヒルズアリーナでの対戦発表記者会見直後に撮影(写真:RIZIN FF)
左から朝倉未来、RIZIN榊原信行CEO、平本蓮。3月16日、東京・六本木ヒルズアリーナでの対戦発表記者会見直後に撮影(写真:RIZIN FF)

ノーマルに勝敗を予想すれば、朝倉が優位である。

彼のMMAプロ戦績は17勝(9KO&一本)4敗1無効試合。クレベル・コイケ(ブラジル/ボンサイ柔術)、ヴガール・ケラモフ(アゼルバイジャン)には敗れているが、元RIZINフェザー級王者の斎藤裕(パラエストラ柏)、牛久絢太郎(ATT)には勝利している。

対する平本のMMA戦績は3勝3敗で、朝倉が破った斎藤、萩原京平(SMOKER GYM)に負けているのだ。両者の間には、実績的にもまだ大きな開きがある。

それでも朝倉が平本と闘うことを決意したのは、おそらく大舞台に挑む過程での自身の気持ちを試したかったからだろう。試合までにメンタル、フィジカルの両面を完璧につくり上げられるか否かを。

朝倉がパーフェクトな状態、つまりはRIZIN参戦直後のようなアグレッシブなメンタル状態に戻せたならば、平本に圧勝するだろう。

しかし、それができなかった場合は危ない。

YA-MAN戦と同じようなコンディションでリングに上がったとしたら、MMAファイターとして急成長中であり一撃を秘める平本のパンチの餌食になるかもしれない。

もし、かつてのような闘いに向けての強い気持ちがつくれなかったなら、朝倉は闘いの舞台から去るつもりでいる。

「平本蓮に負けたら引退する」は、「闘う気持ちがつくれなかったらやめる」の意だろう。

朝倉にとっての勝負は『超RIZIN.3』のリング上ではなく、そこに至る過程にこそあるのだ─。

スポーツジャーナリスト

1967年1月26日生まれ、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から『週刊ゴング』誌の記者となり、その後『ゴング格闘技』編集長を務める。タイ、インドなどアジア諸国を放浪、米国生活を経てスポーツジャーナリストとして独立。プロスポーツから学校体育の現場まで幅広く取材・執筆活動を展開、テレビ、ラジオのコメンテーターとしても活躍している。『グレイシー一族の真実』(文藝春秋)、『プロレスが死んだ日。』(集英社インターナショナル)、『情熱のサイドスロー~小林繁物語~』(竹書房)、『伝説のオリンピックランナー”いだてん”金栗四三』、『柔道の父、体育の父  嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。

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