井上尚弥の次戦は、来春「vs.ルイス・ネリ」が濃厚─『モンスター2024年の闘い』はこうなる！
「苦戦」ではなく「圧勝」
「また4本のベルトを集められたことには達成感があります。嬉しいですけど、まだここは通過点。今日は嬉しさを噛みしめながら過ごし、また次戦に向けて頑張っていこうと思います」
勝利した直後、井上尚弥（大橋）は傷一つない爽やかな顔でリング上からファンに向けてそう話した。
12月26日、東京・有明アリーナで行われた「WBA、WBC、IBF、WBO世界スーパーバンタム級王座統一戦」で井上は、マーロン・タパレス（フィリピン）を10ラウンドKOで下した。これによりバンタム、スーパーバンタムの2階級で「4団体世界王座統一」を果たしたことになる。これは、スーパーライト、ウェルター級を制したテレンス・クロフォード（米国）に次ぐ史上2人目の快挙─。
「今回は、井上も苦戦した」
そんな声もある。
4ラウンドにダウンを奪いながら一気には攻めきれず、10ラウンドまで至ったことを指すのだろうが、ちょっと違うと思う。
タパレスは格下の相手ではない。バンタム級でWBOのベルトを腰に巻き、スーパーバンタム級でもムロジョン・アフマダリエフ（ウズベキスタン）に勝利しWBA、IBF王座に就いた強者。そんな彼に対しワンサイドで試合を進め、最後は倒したのだから「圧勝」と言うべきだ。
序盤から果敢に打って出ると思われたタパレスが、そうはしなかった。慎重に井上の出方を見て闘う作戦を立てていたのか？
そうではないだろう。
いざ「モンスター」と呼ばれる男と対峙してみると、予想以上のスピードを有していることをタパレスは感じた。だから、自らがカウンターを合わせるどころか、打ち終わりに放たれる井上の強打を恐れ見合うしかなかったのだ。
4ラウンドにダウンを奪われた後は、その傾向がさらに顕著になる。タパレスは、右肩を前に出し半身に構え重心を後方に置く。結局のところ「イノウエのスピードには対応できない」との思いを抱きながら闘い続けるしかなかった。
ダメージの蓄積で立ち上がれなくなるまで勝負を諦めなかったのだから、タパレスは気持ちの強いボクサーではあった。ただ、両者の実力差は明白。やはり今回の試合は井上の「苦戦」ではなく「圧勝」と評すべきだろう。
「2年間で6試合したい」
さて、2階級で「4団体世界王座統一」を果たした井上は来年、何を目指すのか？
階級をフェザーに上げて5階級世界王座制覇、さらには3階級での「4団体世界王座統一」を期待する向きもあるが、本人にまだそのつもりはない。
「いまの階級（スーパーバンタム級）が自分にとって適正。来年、再来年はスーパーバンタムで闘い、さらに強さを見せていきたい」と話している。
さらに「これからの2年間で6試合を闘いたい」とも。
ならば来る2024年は、3度リングに上がるつもりなのだろう。
その初戦の計画は、すでに水面下で進んでいる。
「来年5月に東京ドームでルイス・ネリと対戦へ」
そう海外メディアでは報じられているが、おそらくこれが基本線だろう。
東京ドームでのボクシングイベント開催が実現すれば、1990年2月の「マイク・タイソンvs.ジェームス・バスター・ダグラス」以来、34年ぶりとなる。
昨年6月『THE MATCH 2022』で那須川天心と武尊がキックボクシングファイトを行い東京ドームに溢れんばかりのファンが詰めかけた。井上尚弥vs.ルイス・ネリがドーム開催となれば、同様の盛り上がりが期待できる。
ネリはWBCの指名挑戦者。だが過去に山中慎介（帝拳）と闘った際にドーピング陽性反応、体重超過などで物議を醸し、現在は日本での試合が禁止されている状態だが井上との試合が決まれば、それも解かれよう。
このマッチメイクは、興味深い。
ネリはさまざまな問題を起こしており”悪童”と称されているが、ボクシングの実力は本物。元WBC世界スーパーバンタム級王者で戦績35勝（27KO）1敗を誇る。パンチに威力があるだけでなく、打ち分けの精度も高いファイターで井上にとって過去最大の敵となることは間違いない。ぜひ観たいカードである。
そのネリに井上が勝利したならば、次の相手はWBAの指名挑戦者アフマダリエフで、時期は9月頃が見込まれる。そして12月にはIBFとWBOのトップランカー、サム・グッドマン（豪州）との対峙。ここまでが陣営が描く青写真だろう。
ただ、5月に闘うと見込まれるネリは簡単に勝てる相手ではない。勝利しても井上が肉体に多大なダメージを負ったなら年間3試合は難しく、2試合になるかもしれない。グッドマンと年内に闘えないとなれば、指名試合を行わなかったことでIBFとWBOが井上から王座を剥奪することもあり得よう。
そのような事態も井上陣営にとっては想定内だと思う。
すでに井上尚弥は、スーパーバンタム級において最強を証明、それどころか「パウンド・フォー・パウンド」のトクラスに位置づけられている。もはや存在がベルトの価値を超越している。
加えて彼は、2階級を制覇するに至る全試合をKOで勝った。これこそが「強さの体現」であり、多くのファンを熱狂させる最大の理由。王座剥奪劇があったとしても、それは大した問題ではない。
2024年、まずはモンスターにとって最大の試練となるであろうネリ戦が大いに楽しみだ。
