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防衛省、米空軍CV22オスプレイの国内訓練ルートを把握せず

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
米空軍CV22オスプレイ(写真:米空軍)

防衛省は4日、鹿児島県屋久島沖で起きた米空軍CV22オスプレイの墜落事故に関連するメディアの質問に回答し、CV22の国内訓練ルートについて把握していないことを明らかにした。オスプレイは近年、米国以外でもノルウェーやオーストラリアで重大事故を相次いで起こしている。陸上自衛隊V22の配備計画が進む佐賀県をはじめ、各地の地方自治体でオスプレイの安全性への不安や懸念が強まっている中、日本政府は米国にもっと情報を公開するよう毅然たる姿勢で対応していくことが必要だ。

●防衛省「米軍の運用に関することで承知していない」

「防衛省は現時点において、米軍が日本国内にどれくらいのCV22の訓練飛行ルートを有しているのか把握しているか。訓練飛行ルートについて、北は北海道、南は沖縄まで行っているのか」との筆者の質問に対しては、「米軍の運用に関することであり、承知していない」と回答した。

米空軍は実際これまでも防衛省を通じて、日本の地方自治体にその時々の大まかな訓練エリアを示したことはあるが、具体的な飛行ルートや訓練時期についての情報を提供していない。

在日米軍のオスプレイは現在、横田基地に空軍仕様のCV22が6機、普天間飛行場(沖縄県)に海兵隊仕様のMV22が24機それぞれ配備されている。CV22とMV22は機体構造が約9割共通する。CV22は米空軍特殊作戦コマンド(AFSOC)に属している。

防衛省の2018年時点での説明によると、横田基地には2018年10月からCV22が配備された。そして、2024年ごろまでに段階的に計10機のCV22と約450人の人員が配備される予定だ。

一方、MV22は2012年10月に普天間基地への配備が開始された。これに先立ち、米海兵隊は環境審査報告書で低空飛行訓練の想定として日本国内での6ルートを明らかにした。以下のように「色」で命名されていた。

グリーン(青森―福島)▽ピンク(青森―山形)▽ブルー(新潟―岐阜)▽オレンジ(和歌山―愛媛)▽イエロー(九州中部付近を周回)▽パープル(奄美諸島―トカラ列島)

米軍は2012年に環境審査報告書で日本国内での低空飛行訓練の想定として青森―福島、青森―山形、新潟―岐阜、和歌山―愛媛、九州中部付近周回、奄美諸島―トカラ列島の6ルートを明かした。(図:長周新聞提供)
米軍は2012年に環境審査報告書で日本国内での低空飛行訓練の想定として青森―福島、青森―山形、新潟―岐阜、和歌山―愛媛、九州中部付近周回、奄美諸島―トカラ列島の6ルートを明かした。(図:長周新聞提供)

このほかにも上図で示されたように、北海道内に「北方ルート」、中国地方に「ブラウンルート」がそれぞれ存在するとの見方が根強い。いずれにせよ、MV22の詳しい運用実態は依然明らかになっていない。

2018年のCV22の横田基地配備後は、関東周辺の群馬や長野、新潟などの各県上空が範囲とみられるMV22の「ブルールート」が使われるとみられていた。しかし、今回、鹿児島屋久島沖で墜落したCV22が山口県の米軍岩国基地を出発し、沖縄県の米軍嘉手納基地に向かっていたことから、上図の「イエロールート」や「パープルルート」なども使用されている可能性がある。あるいは、米空軍のCV22は前述のように特殊作戦コマンドに属しており、米海兵隊とはまったく別の訓練ルートを使用している可能性もある。

●防衛省、過去最多の死者数を出したオスプレイ墜落死亡事故も把握せず

防衛省はまた、「過去、オスプレイの事故により無くなった最大人数は把握しているか。また、過去のオスプレイの事故で8人以上亡くなった例はあるか」との質問に対し、「防衛省において把握している限りにおいて、オスプレイの事故により亡くなった最大人数は、2022年6月のカリフォルニアで起きた事故における5名であると承知している」と回答した。

しかし、実際には2000年4月にMV22が米アリゾナ州で夜間試験飛行中に墜落し、搭乗していた海兵隊員19人全員が死亡する痛ましい事故が起きている。

(関連記事:米軍オスプレイに起きた内外の主な事故一覧 今年8月に豪州で演習中に墜落、乗員3人死亡、5人重傷

今回の屋久島沖での墜落は、8人全員の死亡が確認されれば過去2番目に多い死者数を出したオスプレイの事故になる。

オスプレイの墜落死亡事故を含めた過去の事故の一覧は、アメリカの航空安全財団のサイトに掲載されている。

●日米地位協定の壁

今回の屋久島沖での墜落事故をめぐっては、米軍の法的な特権を認めた日米地位協定の壁を背景に第10管区海上保安本部(鹿児島市)も調査や捜索などの面で手探りの対応を迫られている。情報不足の中、事故機の搭乗員の発表でも8人→6人→8人と二度も訂正した。

日米地位協定に基づき、在日米軍基地の外で米軍機の事故が起きた際、たとえ日本の領土・領海であっても米軍機などは米軍の「財産」とされ、米側の同意がなければ日本側は捜索や差し押さえができない。事故原因の認定など調査の中心は米国が担い、米軍最優先だ。そもそも日米地位協定の特例法で日本の航空法が米軍機には適用されない。重大事故が民有地で起きて住民が危険性を訴えても、米軍機の飛行を止められず、事故原因の究明さえできない。このため、地位協定の見直しを求める声は依然として強い。

ただ、米軍は重大事故が起きれば、事故原因を究明して、必ず事故報告書をまとめて公開する。これまでのオスプレイの事故報告書もネットで公開されている。日本としては、それを丹念に読んで分析し、十分な情報や知識、判断力を得ておくべきだ。でないと、「傾向と対策」も立てられず、米国相手にしっかりと言うべきことも言えなくなるだろう。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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