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UH60ブラックホークに起きた海外の主な事故一覧 台湾で2020年に軍トップが搭乗し8人死亡

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
陸上自衛隊の多用途ヘリコプター「UH60JA」(陸自ホームページより)

10人が搭乗した陸上自衛隊の多用途ヘリコプター「UH60JA」が6日、沖縄の宮古島周辺で消息を絶った。防衛省と陸自は現場の状況などから「航空事故」と判断した。

UH60JAは、米陸軍の汎用ヘリのUH60ブラックホークを自衛隊仕様にした機体だ。UH60は米ロッキード・マーティン傘下のシコルスキー・エアクラフト社製で、米軍のほかに世界34カ国の軍隊で使用されている。日本でも三菱重工業がシコルスキー社とのライセンス契約に基づき、国産化した。

UH60JAは同じ陸自の多用途ヘリで先行機種のUH1Jと比べ、エンジンが双発で、キャビン収容人数(12人)や飛行速度(最大速度時速259キロ)、航続距離(約470キロ)、飛行制御システムといったほとんどすべての面で優れている。しかし、その分、価格は1機当たり約37億円となり、UH1Jの約3倍に及んでいる。

UH60JAは空中機動作戦や災害派遣などに使用する高性能汎用ヘリとして、1995年度に取得に着手。航空学校での運用試験とパイロット教育を経て、1999年度末から部隊配備が始まった。過酷な状況での災害救助活動で活躍するなど高運動性と飛行安定性を兼ね備え、悪天候でも十分運用可能とみなされてきた。災害派遣ではその輸送能力の高さでも定評があった。防衛白書によると、陸自は昨年3月末時点で計40機を保有し、各地の駐屯地などに配備してきた。

具体的には配備部隊は限られており、実戦部隊(教育部隊を除く)としては、西部方面航空隊・西部方面ヘリコプター隊(佐賀県の目達原駐屯地)、第8師団・第8飛行隊(熊本県の高遊原分屯地)、第12旅団・第12ヘリコプター隊(栃木県の北宇都宮駐屯地)、第15旅団・第15ヘリコプター隊(沖縄県の那覇駐屯地)、第1ヘリコプター団(千葉県の木更津駐屯地)となっている。

そのようなUH60JAの1機にいったい何があったのか。人命救助を最優先にするとともに再発防止のために徹底した事故原因の究明と対策が求められる。原因究明のカギとなるのは、現場の事故機からの「ブラックボックス」と呼ばれるフライトレコーダー(飛行記録装置)とボイスレコーダー(音声記録装置)の回収だ。陸上幕僚監部によると、事故機にはフライトレコーダーとボイスレコーダーを1つにした、コックピットボイスフライトレコーダー(CVFDR)が据え付けられていた。事故回避措置が取られた形跡はあったのかどうか。

事故原因については予断を許さないが、参考までに過去に海外で起きた主なUH60の事故を取り上げたい。

●1994年のイラクでの撃墜事故

1994年4月、イラク北部で国連に所属する米陸軍のUH60ブラックホーク2機を米空軍F15C戦闘機が誤って撃墜。搭乗員26人が死亡。事故原因の1つとして、ヘリと戦闘機の連絡不足が指摘された。当時はブラックホークにはF15との通信を可能にする最新の無線装置が装備されていなかった。

●2015年のエグリン空軍基地の墜落事故

2015年3月、米南部フロリダ州で夜間訓練に参加していたUH60ブラックホーク1機がエグリン空軍基地付近の入り江に墜落。搭乗していた海兵隊員7人を含む計11人が死亡。事故原因は、機体の姿勢が分からなくなるパイロットの空間識失調(バーティゴ)による制御不能。

●2015年のコロンビアでの墜落事故

2015年8月、麻薬取り締まり中のUH60ブラックホーク1機が山腹に激突し、墜落。警察官16人が死亡。主な事故原因は低層雲がパイロットの視界を遮った悪天候とみられている。

●2017年のイエメンでの墜落事故

2017年8月、アラブ首長国連邦(UAE)空軍が運用するUH60Mブラックホークが、サウジアラビア主導の任務中にイエメンのシャブワで墜落。搭乗していた兵士4人が死亡。原因は技術的な不具合によるものとみられている。

●2017年のハワイでの墜落事故

2017年8月、ハワイのオアフ島沖で米陸軍のUH60ブラックホークが夜間訓練中に墜落し、5人が死亡。パイロットの空間識失調による制御不能が原因。

●2020年の台湾での墜落事故

2020年1月、中華民国空軍(ROCAF)救急隊所属のUH60Mブラックホークが北東部宜蘭県と新北市をまたぐ山中に墜落。搭乗していた台湾軍制服組トップである沈一鳴・参謀総長ら8人が死亡。墜落の原因は環境要因と人的要因の組み合わせと伝えられている。フライトレコーダーには、シコルスキー社のみがデコード(復号化処理)できるメモリカードが含まれている。このカードにはヘリコプターの機械システムとその操作に関する重要なデータが含まれているため、シコルスキー社に送られた。解析の結果、機体に異常はなかったことが確認された。台湾の国防部(国防省に相当)によると、事故機が台北を離陸した後、目的地の宜蘭県付近の山間部の天気が急変し、ヘリは一瞬にして急速に発達した雲に突入。パイロットは目視飛行で雲から抜け出そうと試みたが、高度が下がり過ぎ、間に合わず航路沿いの雲に隠れた山の峰に衝突した。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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