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北朝鮮強制収容所に中国出身の華僑がいた 脱北者が証言 中国人拉致被害者か? アムネスティ日本記者会見

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
記者会見するアムネスティ韓国の崔在勳さん(左)と脱北者の安明哲さん(筆者撮影)

韓国の民間団体による北朝鮮体制批判のビラ散布に反発し、韓国に向けて汚物風船を大量に飛ばす北朝鮮。今、北朝鮮ではいったい何が起きているのかーー。アムネスティ韓国の北朝鮮問題担当者の崔在勳(チェ・ジェフン)さん(38)と、脱北者で人権NGO団体「North Korea Watch」事務総長の安明哲(アン・ミョンチョル)さん(55)が緊急来日し、6月10日に東京・神田にあるアムネスティ日本事務所で記者会見を開いた。安さんは北朝鮮の強制収容所の元警備兵で、1994年に脱北した。

2人は2023年に約60人の脱北者からの証言をまとめた最新証言集をもとに北朝鮮の現状を詳しく解説した。今回の来日中に、神奈川、東京、愛知、大阪で講演会を開催するほか、外務省北朝鮮問題担当、大使館人権担当、アムネステイ日本議員連盟、北朝鮮関連団体と意見交換などを行う予定だ。

●中国人拉致被害者

筆者は5月下旬に中国を訪問し、「北朝鮮に拉致された中国人はかなりいる。昔、中国朝鮮族の友人からそう聞いたことがある」との情報を改めて得た。

中国人拉致被害者が多数いるのであれば、日本は中国とともに北朝鮮に拉致問題で圧力を掛けられるのではないか。筆者はこの点について、崔さんと安さんに質問した。

中国との国境に近い北朝鮮咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)にある政治犯強制収容所で警備員をした経験を持つ安さんは、次のように述べた。

「私は会寧にあった大規模収容所である『22号管理所』にいた。その中に中国出身の華僑がいた。在日コリアン出身の者もいたし、その在日コリアンと一緒に北朝鮮に渡ってきた日本人妻もいた。私の当時の役職からして、この人たちがなぜ捕まって収容所に送り込まれたのかについての具体的な原因は分からなかった。北朝鮮で捕まって収容所に送り込まれている中国人がいるということについては中国当局も把握はしていたと思う。しかし、中国はそれを放置している。北朝鮮がその中国人の行為を犯罪とみなしたからだと思う。北朝鮮の主権を尊重するということだ。中国としても北朝鮮に捕らわれている中国人よりも、中国内で捕らわれている脱北者の方がはるかに多いこともあり、そうした材料を持ち出すということは中国にとっても得なことではない」

この質疑応答は、以下の動画のタイムスタンプの43:15辺りから観ることができる。

日中両国による拉致問題の解決に向けては、日本の拉致被害者の家族会と支援組織「救う会」の訪中団が2006年8月末に、北京で当時の中日友好協会の袁敏道・副秘書長と会談し、中国人拉致被害者などの情報を提供するとともに、問題解決への協力を呼びかけた経緯がある。日本の拉致被害者側が中国側と拉致問題について話し合うのはこの時が初めてだった。

また、1987年の大韓航空機爆破事件の実行犯である金賢姫(キム・ヒョンヒ)・元工作員は2010年夏、北朝鮮の工作員が中国人拉致被害者から中国語を学んだことを証言した。北朝鮮による中国人拉致被害者が180人ほど存在すると指摘した日本人学者もいる。

●北朝鮮の汚物風船 VS 韓国の反体制ビラ

今回の記者会見では、北朝鮮が韓国の民間団体によるビラ散布に強く反発し、5月下旬以降、韓国に向けて汚物風船を大量に飛ばしている問題についても質問があった。

安さんは「北朝鮮から送りつけられているのが汚物であれ、何であれ、非常にやることが下劣」と指摘したうえで、「韓国では脱北者団体と市民が思うところがあっていろいろな物を北朝鮮に送っている。北朝鮮側では民間団体というものがないので、国家として韓国側に送り出している。韓国から送り出されるビラやチラシの効果については、韓国に逃れてきた脱北者の話を聞くと、そのビラやチラシを目にしたのがきっかけとなり、いろいろと思うところがあり、逃げてきたという人もいることはいる。逆に、韓国が送り込んできたビラのせいで当局からの監視をひどく受けるようになり、ビラのせいで迷惑したと訴える人もいる」と述べた。

このほか、崔さんと安さんは北朝鮮国内のインターネット普及状況や携帯電話事業などについての質問にも丁寧に答えていた。ぜひ動画を初めからご覧いただきたい。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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