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本当に子ども目線、学習者起点で考え抜いているか? 夏休みカット、フォローなき宿題

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

 教育政策や学校の取り組みを考えるとき、大事にしないといけないことはなんでしょう?

 もちろん、いろいろなことを考慮していく必要がありますが、もっとも大切なことのひとつが、子どもたちへの影響でしょう。いい、悪いをそう簡単に評価できないときも多いですし、教育の世界では、評価するには何年もかけないとわからないことも多々ありますが、子どもたちへの好影響が大きくて、悪影響や副作用がなるべく小さい選択肢を選ぶ必要がある。このことに異論をはさむ人は少ないと思います。ほかにも、コストや実現可能性など、考慮することはありますがね。

 平たくいえば、「すべては子どもたちの笑顔のために!」ということかなと思います。

 もちろん、もっと本当は複雑で、子どもたちには未熟なところもありますから、子どもが望んでいないことであっても、有益なことなどで進めるべきときもあります(=何が真に「子どもたちのため」になるかをよく考える必要があるわけです)。

(写真素材:photoAC)
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 さて、なんで、こんな基本的なことを書いたかと言うと、最近、子どもたちのことを本当によく考えているのか、ギモンに感じる教育政策等が幅をきかせているんじゃないか、と感じるからです。「ちょっと待ってよ、それで本当に子どもたちの笑顔につながりますか?」と聞きたくなることを、たいした説明もなく、実行しようとしている大人たちがいるように思えるのです。

 妹尾の見立てがまちがっていて、杞憂ならばいいのですが、きょうは、子ども目線、学習者目線で考えることについての話をします。

■子どもたちの学習意欲や自由時間はそっちのけ?夏休み大幅短縮

 例1。夏休みの大幅な短縮が進められようとしています。朝日新聞の調査(同紙5/13)によると、9割を超す自治体が夏休みの短縮を検討しています。(調査対象は都道府県・道府県庁所在市・政令指定市・東京23区の計121自治体の教育委員会ですが、都道府県の動きを参照して、市町村も動くケースもあります。)

 わたしは拙著『教師崩壊』で夏休みの多少の短縮は提案していますが、これは別の理由からです。平日の授業を小学生にほぼ毎日6時間もやって疲れさせるよりは、平日の授業時間を削って(=4~5時間までの日を増やす)、その代わり、夏休みが30日も40日も本当に必要なのかは考えていく必要があるという主張です。また、今年はたしかに休校(臨時休業)が長引きましたので、多少の短縮は理解できる話ではあります。

 ですが、なかには、すごく短くしちゃう自治体もあります。お盆を除き、夏休みゼロに近い方針を打ち出した自治体もありますし、30日以上あったものが一気に数日~10日程度になった自治体もあります。また、夏休みの短縮とともに、小学生にも平日7時間目まで授業をしようという自治体も出始めているようです。

(写真素材:photoAC)
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 もちろん、夏休みの大幅短縮は、まったく効果やメリットがない政策ではありません。授業時間を確保して、じっくり子どもたちが学習に取り組むことができる、という効果は期待できます。

 ですが、以下の6つの点で、副作用も大きい政策です。

 第一に、熱中症のリスクが高まります。登下校時は特にそう。また、室内にいても、安心できるとは限りません。

 第二に、新型コロナの状況次第ですが、感染リスクです。感染リスクを低減するなら、換気しておく必要がありますが、そうするとエアコンがついていても、教室はかなり暑くなるかもしれません。1点目とトレードオフになります(あちらを立てれば、こちらが立たず)。真夏にマスクなんてしていられないと思います。

 しかも、日本の学校は、他の先進国にはない水準で、1教室あたりの児童生徒数が多いです。最大40人ギュウギュウ詰め。

 第三に、子どもたちが暑い中、登校してきて、本当に集中して勉強できるでしょうか。また、楽しみにしていた夏休みが大きく減って、モチベーション高く授業にのぞめる子ばかりではないと思います。つまり、子どもたちの学習上の定着という意味でも、プラスとは言えない可能性があります。これでは、夏休みの活用は、授業時数をこなすことになっても、学びを習得させることには十分つながらないかもしれません。

 第四に、子どもたちの自由な時間が犠牲になりかねません。たとえば、私事ですが、子どものころ、徳島のいなかで、虫取りに熱中していました。段ボールで工作もしまくっていました。子どもの過ごし方はいろいろあって、さまざまなことが学びになるわけですね。コロナが落ち着いていれば、旅行に行ってもいいでしょう。ステイホームなら、Minecraftなどのゲームで遊びつつ、プログラミングの動画で学んでみてもいいでしょう。自治体によっては、サイエンススクールなどのかたちで、プロから学ぶ課外学習などを夏休み中に実施している例もあります。

 こういう、正規の授業を詰め込まないなかで、子どもたちの学びを豊かにしていく発想も大切だと思います。

 ただし、家庭の経済力・教育力などによって、夏休みの過ごし方や充実には差も生まれてきやすいので、一定の配慮や支援策は考えていく必要はあります。

■教員の自己投資を減らす政策は悪手

 第五に、授業がない日は、教職員にとっては貴重な「投資」の時間です。どういう意味かと言うと、研修や授業準備などにじっくり取り組めます。また、リフレッシュしたり、自己研鑽なども進められます。

 新型コロナの影響で、学校再開後は、先生たちは一層多忙になることが心配です。消毒など感染症対策の業務も追加されていますし、従来は児童生徒がトイレ掃除をしていましたが、教職員でやるようになったという例もあります(子どもたちに掃除をやらせるのをどう考えるかという別の問題はありますが)。

 教員数が増えないなか、少人数クラスにして、なるべく密を避けた授業をしようとすると、おのずと、先生たちの空きコマはなくなり、ずっと授業に出ずっぱりになります。

(写真素材:photoAC)
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 こうして、学校再開後は先生たちの研修や自由時間がただでさえ、激減しているのに、8月も授業日を多くしては、先生たちの授業準備や勉強時間はますます減るでしょう。あなたが児童生徒なら、たいして授業準備や勉強ができていない先生に教わりたいですか?

 授業の質や子ども理解などの点でも、夏休みの大幅短縮はマイナスに作用します。

 最後に6点目ですが、教員採用上、マイナスです。想像してみてくださいよ~。この休校中はゆとりがあった先生も多いとは思いますが、学校再開後は、過労死ライン超えの人がたくさん出てくる職場です。それで年間で唯一と言ってもいいくらい、有給休暇が取りやすかった8月もほとんど休めない。世間では週休3日の企業や副業(復業)・大歓迎という企業まで出てきているのに、教員は土曜授業で出勤。

 コロナで民間企業が未曾有の不況、採用減になるかもしれませんが、だからといって、こんな状態で、教員に優秀な人材がたくさん応募しようとしますかね?

 わたしが仮に都道府県か政令市の教育長だったら、夏休みは大幅には短縮せず、教職員が有休取得しやすい環境づくり、支援策を進め、PRします。自己研鑽補助ということで、図書券を配ってもいい。そのほうが、採用上プラスですし、いい人材が来てくれれば、結果的には、子どもたちのためになるからです。こういうのが戦略的な思考です。

 以上の少なくとも6つの問題がありますが、教育委員会等はどこまで考えているのでしょうか。少なくとも、保護者を含めて、よく説明していくべきです。似た問題は、少し述べましたが、土曜授業の増加についても言える問題です。プラスの効果、効用よりもマイナスや副作用のほうが大きいとわたしは見ています。

参考記事:夏休みゼロ、大幅短縮の大問題 ― 本当に子どものためを考えてのことか?

 わたしが小中学生をもつ保護者に先日緊急調査をしたところ、夏休みの大幅短縮には賛否拮抗しています(次の図)。やや賛成が多いですが、大きくは変わりません。これほど賛否がある話題なのに、かなり多くの教育委員会は、保護者にも教職員にも、ほとんど何も相談も説明もなく、決めているように見えますが、本当にそれでいいのでしょうか?

出所)妹尾昌俊「休校中の家庭学習について、保護者向けアンケート調査」
出所)妹尾昌俊「休校中の家庭学習について、保護者向けアンケート調査」

■大量の宿題を与えて、趣旨説明も事後フォローもほとんどない

 例2。休校中にはたくさんの宿題、家庭学習課題が出ているところが増えています。さまざまな学力や個性の子がいるのに、一律の宿題をかなりの量、課していることが多いようです。しかも、なぜこの宿題が重要なのか、学ぶ意味があるのか、ねらいや趣旨(趣意)をしっかり説明できていない学校や、わたしたきりでフォローが少ない例もあります。「ともかく教科書のこのページを写しなさい」といった指示をする例もありますが、写経ですか?

 もちろん、なかにはたいへん工夫をなさっている先生もいますので、すべてがそうとは申し上げません。

(写真素材:photoAC)
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 宿題の問題は、先週のわたしの記事でなんども取り上げたので、繰り返しませんが、保護者から「宿題やりなさい」とガミガミ言われ、子どもたちの学習意欲がむしろ下がったり、その教科のことを嫌いになったりしている可能性もあります。先行研究のエビデンスもそのことを示唆します。また、ともかく宿題を与えよう、与えようとし、フォローも十分にない状態では、子どもたちの自律的な学び、主体性は育たないかもしれません。

 こうした点で、本当に子ども目線、学習者起点で考えられているのか、ギモンなのです。

■宿題のプレッシャーを強めることは、一部の子の学習機会を奪いかねない

 また、おそらく、学校再開後は、不登校が増えるだろうと思います。それは長引いた休校のために、ひきこもり状態になったからという理由がひとつ。もうひとつは、宿題をやっていなくて先生から(あるいは親から)怒られるということが、子ども(小学生等)にとって大きなストレスになるからです。

 もちろん、いろいろな子がいますので、一概に言える話ではありません。喜んで宿題に取り組んでいる子もいます。が、学校側は、休校中でも学びの機会を確保しようとして、よかれと思って宿題を出したのでしょうが、結果的には、一部の子どもを学びから遠ざけてしまっているかもしれないのです。逆効果です。

 このように、教育に関わる政策や取り組みというのは、副作用のほうが大きくなってしまうケースが多々あります。医療のように、しっかり副作用等が検証された世界ではないですし、子どもはさまざまだからです。ですから、こうした繊細なところ、かゆいところに配慮するように、子ども目線、学習者起点になっているか、考えて、考えて、考え抜かないといけないと思います。

 わたしのSNS等では、個々の教師は大量の宿題を出したくないのだが、教育委員会から「この課題学習はやらせてください」という指示が飛んでくる、という例も聞きました。

 本来、子どもたちへの影響を深く、あるいは多面的に考えられるプロであるはずの教育委員会は、なにをしているのでしょうか?「勉強の遅れが心配」という保護者の声を拡大解釈して、結果的には一部の子の学びを取りこぼしていることに思いがいたっていないのでしょうか?

 そんな教育委員会からの指示に従順すぎる校長、校長会はどうかと思います。かなり乱暴に申し上げますが、逐一、教育委員会の指示に従っておけばよいだけなら、個々の学校に校長を置く必要はありませんし、それなりの給与(公立の場合、もちろん税金)で処遇する意味はありません。

 個々の先生だって、もう少しやりようはあるだろうとは思います。たとえば、「この課題はわたすけど、どうしてもやりたくない子はやらなくていいよ」、「別の自学自習ができるなら先生に見せてね」と働きかければいいのではないでしょうか?「のちのち内申書にも響くから、やっておくように」といった強制(脅し?)しかできない人は、教師の専門性としてクエスチョンがつくと思います。

■ステイホームがつらい子はどうなっていたか?

 例3。新型コロナの影響で、感染防止のために休校にする。これは理解できることでした。しかし、おそらくほとんどの自治体が、公立図書館や児童館なども軒並みクローズしました。ステイホームはたしかにそれが一番感染リスクを下げられる方策だったかもしれませんが、自宅はつらい、とても学習できる環境ではないといった児童生徒は、どうだったのでしょうか?大人のわたしたちが、そうした子の居場所をどんどん奪ってしまいました。

 実際、たとえば、札幌市の児童相談所によると、3月にあった警察や近隣住民などからの児童虐待の通告件数は146件で前年同月の約1・5倍でした(朝日新聞5/12)。

(写真素材:photoAC)
(写真素材:photoAC)

 電話やLINEなどで相談を受ける取り組みは多く行われましたが、つらい子どもが、逃げこむ先にはなりません。児童相談所もコロナ前からパンク状態が続いている地域も多くありましたから、児相だけに頼るのも危険です。

 学校を再開する見通しがたちつつある地域が増えていますが、いつまたコロナが襲うかもしれません。今回の休校中、家庭がしんどい子どもの居場所をもっと設けるべきだったのではないか、検証が必要だと思います。英国などでは学校などで受け入れ先を確保したそうです。

 以上、3つの例から、本当に子どもたちのことを考え抜いているか、副作用にも十分配慮できているか、お話ししました。ほかの例もたくさんあると思いますし、一度こうした思考の軸ができると、応用、活用できる余地は広いと思います。一見簡単なようですが、ときとして忘れかけてしまいます。「それで本当に子どもたちの笑顔につながりますか?」と問いなおしていくことが肝要です。

 今回のは、わたし自身への自戒も込めての記事です。多くの大人たち、とりわけ教育委員会や教職員の方には、プロ意識を高めて考え抜いて、行動に移してほしいと思います。

(参考文献)

妹尾昌俊(2020)『教師崩壊』(PHP新書)

妹尾昌俊(2019)『こうすれば、学校は変わる! 「忙しいのは当たり前」への挑戦』(教育開発研究所)

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◎妹尾の記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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