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オンライン授業絶賛も、プリント渡すだけも疑問 【休校が長引くなか学校にできること(1)】

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

■プリント渡して、あとはよろしく!?

 学校不信、教育不信が高まっている。このところ、よく見聞きするのが、休校(臨時休業)がこのまま長引けば、「子どもたちの学びの遅れが心配だ、取り戻せないことになりかねない」という論調だ。急に浮上したかに見える9月入学、9月新学期の主張も、ここ1、2ヶ月の学校、とりわけ公立校の対応が満足できない、ふがいない、という認識が背景にあるように思う。

 テレビでも新聞でもネット記事でも、いわゆる「オンライン授業」の取り組みがたびたび紹介され、もてはやされている。国立・私立の一部の学校や、岐阜県や熊本市など一部の公立学校では、ウェブでの双方向性のある授業や先生と児童生徒とのやりとりを行っている。そういう事例が報道されるにつれ、「なぜ、うちの公立校は動きがこんなにも鈍いんだ!」、「プリント渡して、あとはよろしく的な対応でいいの!?」と、保護者の不満は高まっているのではないか。

 しかも、休校が長引くにつれ、保護者の育児・家事のストレスも溜まっていく。わたし自身、小学生から高校生までの4人の子育てをしながらなので、多少なりとも実感しているのだが、育児をしながら在宅勤務など、そうスムーズに進むものではない。Zoomで会議中に子どもが大声を出して駆け込んでくるなんて日常茶飯事だし、原稿など書いていても度々中断される。しかも、新型コロナの影響で、収入が激減したり、不安定になったりしている家庭も多い。

 そんなテンパっているさなかに、かなり大量の宿題プリントだけ渡されて、保護者が丸付けをしたり、「子どもがわからないところは、できるだけ見てあげてください」などと学校から言われたりするから、保護者の不満、ストレスに火に油を注ぐかたちとなっている。

 もちろん、十把一絡げに論じるつもりはないし、わたしの経験を他のかた一般に当てはめたいわけでもない。また、教育基本法を持ち出すまでもなく、子どもの教育に保護者の責任、役割が重いのも、承知している。だが、それにしても、3月の急な一斉休校のころならまだしも、「この4月、5月の学校の対応は、どうなのか」と思っている保護者は少なくないのではないか、と思う。

学校から出されたプリント学習の例(筆者撮影)
学校から出されたプリント学習の例(筆者撮影)

■ウェブ活用に公立が出遅れているのは事実だが、私立も必ずしも進んでいるわけではない

 少しデータでも確認しておこう。よく紹介されるのが、4月16日時点の文科省調査だ。休校中の公立学校で、どのような家庭学習が行われているか都道府県、市区町村に聞いたところ、「同時双方向型のオンライン指導を通じた家庭学習」という自治体は5%だった(次の図)。案外テレビの活用もあるが、大半は「教科書や紙の教材を活用した家庭学習」、つまり多くがプリント学習やドリル類であることが示唆される。

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出所)文部科学省「新型コロナウイルス感染症対策のための学校の臨時休業に関連した公立学校における学習指導等の取組状況について」

 この調査のあとの動きとして、たとえば、広島県では、県と市町村の教育委員会が連携して、すべての児童生徒にGoogleのアカウントを配布し、ウェブを通じた授業や交流を進めようとしている。

 が、動きが鈍い自治体も依然として多いのも事実だ。セキュリティ上、禁止している、端末やネット環境がない家庭もいる、そもそも活用する意思やスキルが教育委員会の担当に不足しているなど、背景、理由はさまざまだが、わたしの以前の記事でも指摘したように、できない理由ばかり並べているのは違和感がある。たとえば、先ほどの岐阜県の県立学校では、通信環境のない家庭にはDVDを貸し出すなど、他の方法も併用して進めている(岐阜新聞4/16)。

参考:【休校中、広がる地域間格差】教育委員会、校長はどっちを向いて仕事しているのか?

 では、私立学校では進んでいるのか、と言われると、これも差があるようだ。LINEリサーチが高校生に調査した結果(4月15日時点)によると、オンライン授業(※)との回答は、私立でも26%である(次の図)。たしかに国公立よりも私立のほうが割合は高いし、4月中旬以降、もっと進んでいる学校もあるだろうが、必ずしも大半で進んでいるというわけではないようだ。

 

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出所)LINEリサーチの調査

※オンライン授業といっても、双方向性のある授業をウェブで行っている場合もあれば、YouTubeなどに動画をアップして好きなときに視聴してもらうもの(非同期)もあり、さまざまだが。

■「オンライン授業」絶賛も疑問

 さて、Googleの教育支援サービスやZoom、Microsoft Teamsなどを使って授業をしていると、いかにも最先端をいっているように見えるかもしれないし、テレビ映えなどはいいのだろうが、限界もあるし、注意が必要だ

 ここでは4点指摘したい。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授の豊福晋平さんの記事「#4 オンラインに何を求めるのか」なども参考にした。

 第一に、通常の授業のときほど、長時間、大量の内容を扱うことは難しい。自宅というプライベート空間は、教室のように半ば強制的に学習する空間になっているわけではない。動画視聴(あるいはウェブ会議の参加)は、子どもたちの注意力が必要で、長時間はもたない子もいる。

 また、4~5人相手ならまだしも、通常は40人ひとクラスなので、画面の向こうで生徒がサボっていても、教師にはわかりづらい。ビジネスパーソンも、Web会議だと、対面のときよりもサボりやすい(聴いているふりして別の作業を行う、いわゆる”内職”もしやすい)ことを実感しているのではないか?ちゃんと最後まで動画を見てくれたかどうかなども教師は確認しづらい(動画を見させること自体が大事とは限らないが)。

 第二に、本当に子どもたちの興味・関心、知的好奇心等を高める授業内容になっているかどうか。要するに、子どもたちにとって、退屈な内容になっていないか、授業の質の問題である。これは、動画をアップして後で見てもらう、非同期の場合により問題だろう。多くの先生たちは、授業動画の制作は素人だし、それほど作り込めるわけではない。

 民間などでの既存の動画、教材もたくさんあるので、果たして、各教師のオリジナル動画が優位性をもつかどうかは、クエスチョンだ。知っている先生が熱をこめて語ってくれるほうが、興味をもてる子もいるだろうし、その点では個々の教師が優位ではあるのだが、退屈な授業の場合、「別の動画や参考書で自分で勉強したほうがいいや」と思う生徒もいることだろう。

 また、双方向性のあるライブ配信の授業で、児童生徒間の発言や掛け合いなどもあって、見かけ上はうまい授業のように見えても、内容はたいして深まっていないといったケースもある。いわゆる「活動あって学びなし」などと揶揄される、リアルな授業で言われていたことは、ウェブ上でも起こりうる。

 メディアが褒めそやす実践であっても、素人には、授業の質や深い学びになっているかどうかは、なかなかわからないので、注意が必要だ。

(写真素材:photoAC)
(写真素材:photoAC)

 第三に、学校、教師側に時間や負担がかかっている問題だ。休校中は、通常の授業や部活動指導などがないので、動画づくりで多少負担がかかってもいいだろう、という考え方もできるとは思うが、休校中も教員の業務は多種、雑多にある。

 たとえば、川崎北高校の柴田功校長がYouTubeで解説しているように、編集はしない、1回(テイクワン)で済ませるなど、なるべく教員側の負担が重くならないようにしないと、持続可能なものにはなりにくい。

 児童生徒の状況にもよるので、一概には言えないが(たとえば、小学校低学年と高校生を同じようには語れない)、たとえば、次のような検討はしたがよいだろう。

●オンラインでやるなら、児童生徒を励ましたり、わからないところをケアしたりすること(質問を受け付けるなど)を優先させる。

●民間サービスやNHK for Schoolなどを含めて、既存コンテンツで良質なものがあるなら、自前動画、自前授業にこだわらなくていいかもしれない。ただし、子どもたちの動機付けは必要なので、既存コンテンツがなぜ魅力的なのか、オススメをしっかりする(動画で語りかけてもいいし、プリントなどオフラインでもいい)。

●各学校、各教師がやる必要が本当にあるのか。たとえば、県や市で連携して進められないかなども検討する。

 第四に、2点目とも一部重なるが、知識伝達型(知識注入型)の授業内容に偏っているのではないか、という疑問だ。これは、いわゆるオンライン授業にかぎった問題ではない。通常の対面での授業であってもそうだし、プリント学習などもそうだ。

 3月の状況についてだが、わたしの独自調査でも、先生方が課した課題、宿題として、多くの小中高では、基礎的な知識等の定着を図るものが主体で、子どもたちの思考力や探究的な学びを促すものにはなっていないことが判明した(「学校に「あれやれ、これやれ」と細かく注文を付ける文科省の矛盾【後半】」)。

 わたしが心配しているのは、次のことだ。休校中の先生たちは「授業の遅れを取り戻そう、このままでは再開されたあとも授業時間が足りない」と考えるあまり、教科書の内容を少しでも進めよう、というほうに目が行きがちではないか。子どもたちの好奇心や探究心を高める働きかけをすることが、疎かになっているのではないか。

 3点目とも関連するが、既存サービスや広域な連携などである程度代替できるものはお願いして、各学校の先生たちに時間と知恵をかけてほしいのは、休校中であっても、子どもたちが熱中できるような、わくわくできるようなテーマ、課題を考えていくことだ(高校生などなら、自分で課題設定できる子もいるだろうが、教師からの働きかけや助言は有用だろう)。

 こうして検討すると、プリント学習主体で家庭任せばかりでも問題があるし、一方で、授業配信しているからといって、見栄えはよいかもしれないが、安心もできない。いずれの方法であっても、学習者本位になっているか、子どもたちのために本当になっているだろうか、という点が問われている

 誤解しないでほしい。わたしはICT活用を否定しているのではない。時間も有限だし、どんな取り組みにも限界もあるから、賢く、必要なところに使っていこうと言っている。また、見方を変えると、オンラインかどうかは手段に過ぎないので、オンライン、オフライン問わず、さまざまな選択肢のなかから優先順位を考え、実行していくことが肝要だろう。こうした点については、次回の記事でも解説したいと思う。立ち止まってばかりでは、教育不信、学校不信は高まるばかりだ。

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◎妹尾の記事一覧

https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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