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【休校中の宿題問題(4)】なんのために宿題、出してるの? 効果のほど、いかに?

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 休校(臨時休業)中にドッサリ宿題がわたされて、子どもも、保護者も悲鳴を上げている今週アップした拙稿では、この問題について、独自調査したデータをもとに見てきた。保護者から学校への不信感が広がりつつある側面もある。

 そもそも、宿題はなんのために課しているのか?

 なんのためにやっているのか?

 やったところで、どれほどの効果があるのか?

 これらは、新型コロナのずっと前、古くからある問いで、海外も含めて相当論争になってきたことだ。みなさんなら、どう答えるだろうか?

 きょうはこのことについて、考えてみたい。学校が再開している地域、あるいは再開したあとも、重要になってくるテーマだと思う。

(写真素材:photoAC)
(写真素材:photoAC)

■宿題はなんのため?

 宿題はなんのためにやっているのだろう?とりわけ、長引く休校期間中の家庭学習の意味については、少なくとも、次の5点は考えられると思う(次の図も参照)。

※なお、わたしは学習理論や心理学の専門家ではないので、専門家等からのご批判、ご意見も頂戴できるとありがたい。

 この記事では、調べたことや論理的に考察したことを申し上げる。

(筆者作成)
(筆者作成)

 第一に、学習習慣を身につけるためだ。言い換えると、学校が休みだからといって、おうちでダラダラしてばかりだと、どんどん学習習慣がなくなってしまう。たとえるなら、スポーツ好きな方が、筋トレやジョギングを続けるようなもの。

 第二に、基礎的な知識や技能を磨く(身につける)ため。たとえば、小学3年生が、2年生で習った九九の復習をやっておかないと、これだけ学校に行けない日が続くなか、忘れちゃう子もいるよね、という話。

 第三に、考える力、思考力等を高めるため。これは1点目、2点目と一部重複はするが、脳みそを鍛え続けておくことが大切ということでもある。

 以上3点は、おもには子ども目線、学習者起点で考えた。ほかにも「受験対策のため」などの理由もあると思うが、すべての子が受験勉強しているわけではないし、本稿ではいったん置いておく。さて、次からは少し子ども目線からは離れる部分も出てくる。

(写真素材:photoAC)
(写真素材:photoAC)

 第四に、カリキュラム、教科書を少しでも前に進めておくため、という事情もあるかもしれない。つまり、一部分、対面の授業の代替的な意味合いがある、というわけだ。

 新学期からの休校が2ヶ月にも及ぶと、今年度予定していた内容を終えるためには、時間がショートしてくる。焦っている教育関係者は多い。夏休みを大幅に短縮しようという動きなども、そのひとつだろう(わたしはこれには反対だが)。

 家庭学習を課すことに拍車をかけたのが、文部科学省の4月10日の通知で、「児童生徒の学習状況及び成果を確認した結果、十分な学習内容の定着が見られ、再度指導する必要がないものと学校長が判断したときには、学校の再開後等に、当該内容を再度学校における対面指導で取り扱わないこととすることができる」とした。

「新型コロナウイルス感染症対策のための臨時休業等に伴い 学校に登校できない児童生徒の学習指導について(通知) 」

 つまり、家庭学習でしっかりやれている箇所は、授業ではやらなくていいですよ、という話。(そんなのムリがあるという疑問や批判は、教員からも保護者からも多々出ているし、わたしもそう思っているが。)

データ:公立小学校では4月に比べて、5月の宿題の量が増加傾向にある(保護者向け調査)。

出所)妹尾昌俊「休校中の家庭学習について、保護者向けアンケート調査」
出所)妹尾昌俊「休校中の家庭学習について、保護者向けアンケート調査」

 そして、第五に、(たくさんの宿題を)出してないと、クレームがくるからという事情もあるかもしれない。すべての地域、学校でそうとは言わないが。

 拙稿「宿題わたして、あとはよろしく 休校中の学校に高まる保護者の不満、悲鳴」には、学校の先生と思われる方から多くのご批判をいただいた。そのなかには「宿題が少ないと文句を言われ、多いと多すぎるとクレームがくる。」、「教育委員会が(あるいは校長同士が協議した結果)たくさん宿題を出せ、と言ってくる。細かい時間割も示せと指示が来ている。教師だけ責めるな。」というものもあった。

 各学校、教師には、いろいろな事情やもどかしい環境(たとえばICTの整備不足)、制約があるのは確かだ。とはいえ、宿題の内容を考え、児童生徒と接する一番大きな役割を果たしているのは、文科省でも教育委員会でもなく、個々の先生のはずだ。具体的な宿題の量や質、フォローの仕方まで教育委員会が決めて管理するなら、個々の校長や教員は(その部分については)要らない、という話に発展しかねない。

■宿題の効果はあるのか?海外では否定的な研究も多数

 以上5つほど、家庭学習、宿題の理由とねらいについてリストアップしたが、相互に関係していることでもあるし、目的、理由はひとつだけでなくていい。だが、次の2点はよく考えておきたい。

●その目的、ねらいが真に重要なのか、どうか。

●その目的、ねらいに照らして、適切な(妥当な)家庭学習の進ちょく、実態になっているか、どうか。

 いずれの問いも、宿題は効果があるのかという論点にも関わってくる。

 海外ではさまざまな研究があるようだ(文章末、参考文献のハッティ2018など)。

★小学生の場合には、宿題に費やした時間と学習成果の相関はほぼゼロ、という研究もある。

保護者の関わりは、学習者が自律的に行動できるようになることとは負の相関も見られる、という研究もある。

★宿題を大量に与えた場合や教師が宿題を点検しない場合、学力に対する効果はなかった、という研究もある。

★学習者の能力が低いほど、また年齢が低いほうが、宿題の効果は薄い傾向がある。

 宿題は動機付けを低減させ、誤った学習行動を定着させ、効果的でない学習習慣を身につけさせることにつながりうる

 このことは特に小学生にとって当てはまる。

(保護者も仕事等もあり、付きっきりになれる家庭ばかりではない。写真素材:photoAC)
(保護者も仕事等もあり、付きっきりになれる家庭ばかりではない。写真素材:photoAC)

 もちろん、海外の先行研究が、日本の、しかも、これほど休校が長期化した状況下でも言えるのかどうかは、慎重に考える必要がある。だが、こうしたエビデンスもあるなかで、大量とも思われる宿題を、たいした事前説明や事後のフォローアップもなく課している学校も少なくないとすれば、それは、問題意識を高めたほうが賢明だろう。

 しかも、平時の宿題ならば、翌日などに多かれ、少なかれ、授業中や放課後に、先生から何らかの反応、励ましやフィードバックは得られる。だが、この休校中は、オンライン上や分散登校などで、先生と児童生徒との接点、交流がない学校も多いのだから、よけい、宿題で効果を上げることは平時よりも難易度が高い、と認識するべきだろう。

■日本のエビデンス:全国学テの結果から

 日本での研究はどうか。わたしが知るかぎり、先行研究のひとつは、お茶の水女子大学「平成25年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究」(平成26年3月28日)だ。

 この分析によると、全国学力テスト(全国学力・学習状況調査)の国語と算数・数学の得点率について、宿題をしているかどうかは、一定の影響が観察された。ただし、たとえば、小6の国語A問題の結果について言うと、宿題をしていない児童と比べて、「している」児童のほうが統計的に有意に高いというだけで、「あまりしていない」、「どちらかといえば、している」という子との統計的な有意差はなかった。詳細は報告書をご覧いただきたいが、しかも、重回帰分析の決定係数(R-squared)は0.171なので、説明力の強いモデルとも言えない。

 この調査を見ると、宿題には意味がないという分析結果では決してないのだが、報告書では、事例研究なども踏まえて「単に宿題を多く出したりすれば良いということではない。宿題や家庭学習の重要性を教員団が共通に理解し、また適切なフィードバックを児童生徒に返すという一連の実践により、効果を発揮すると考えられる」と述べている。

 むしろ、子どもたちの学力に強い影響があるのは、家庭の状況である。家庭の社会経済的背景(SES)について、上記の調査では、3つの変数(家庭の所得、父親学歴、母親学歴)を合成し、得点化して、全国学テの結果を比べている。

出所)お茶の水女子大学、前掲報告書
出所)お茶の水女子大学、前掲報告書

 この結果は、いささかショッキングだ。親の所得・学歴など社会経済的背景(SES)の最も高い層の6年生で、まったく家庭学習していない子の国語Aの得点率のほうが、SESが最も低くて、1日3時間以上家庭学習している子の得点率より高いのだから。詳しくはこの報告書の4章をご確認いただきたいが、小6の算数や中3の国語、数学でも、SESの高い子ほど、学力が高い傾向は如実に出ている。

 しかも、この休校で考えないといけないのは、家庭がしんどいほど(SESが低いほど)、家庭学習の環境や保護者の支援・ケアも弱い傾向が一層強まっているであろうことだ。SESが低いことは、自宅ではネット環境やパソコンはない、参考にする本もないというところと重なる話であることは容易に想像できよう。

(写真素材:photoAC)
(写真素材:photoAC)

 だから、繰り返しいろいろな記事でわたしも書いてきたが、いくら学校は臨時休業で、通常の授業はできないからといって、家庭任せ、子どもたち任せで放ったらかしでは、問題が大きくなる。このことは、当の現場の先生たちが一番実感していることではないか。

 文科省も、教育委員会も、学校も、やらないといけないことは、たくさんのプリントや細かい時間割などをつくって、家庭に配布することよりも、経済的な状況だったり、保護者が働き続けていてケアできなかったりする家庭の子ども、あるいは家に居づらい子どもたちに、居場所や勉強しようと思える環境をつくることではないか。図書館も自習室も開放していない地域で、宿題を出したあとのフォローが少ない学校などは、よくそのことを考えてほしい。

■もう一度問う、宿題に意味はあるのか?

 データを確認しよう。実際、わたしの調査でも、この休校中、公立の小中学生の約半数はイヤイヤ宿題をしており、一部の子は答えを丸写ししている(保護者調査)。また、一部の学校の例ではあるが、「ともかく教科書や参考書の一部をノートに転記しなさい」などの効果がよくわからない宿題も課されている。

 学校によっては、「宿題の結果は1学期の成績や内申書に響きます」といって、見方によっては、子どもや保護者を半ば脅しているような例もあると聞く。それでいて、学校ビジョンには「子どもたちの主体性、自主性を育みます」などと書いているのだから、ワケがわからない。

 ここで、もう一度、休校中の家庭学習、宿題のねらい、目的に立ち帰って考えてみよう。

1.学習習慣を身につけるため

⇒ 

その効果が出ている子どももいるだろうが、一方で、イヤイヤ机に向かわせて、誤った学習習慣を習得している危険性もある。

2.基礎的な知識や技能を磨くため + 3.考える力、思考力等を高めるため

⇒ 

小学生らの場合、かけた時間のわりには、効果が薄い可能性もある。十分にケアできない家庭ではその傾向がおそらく顕著。

大量の宿題を強要された場合、低学力層等ではむしろ学習上マイナスとなっている可能性もある。

加えて、とりわけ、教師からのフィードバックがない状態では、学習効果が薄い可能性がある。

4.カリキュラム、教科書を少しでも前に進めておくため

⇒ 

仮に上記1.~3.のねらいが十分には達成できていない場合、教科書などを形式的に前に進めることはできるが、内実は乏しいものとなる。

むしろ、家庭学習に期待しすぎる文科省や教育委員会、学校の対応のままでは、学校再開後、学習に取り残される子、落ちこぼれを増やすリスクも高まる

 5.は置いておくが、上記1.~4.を検討すると、当初の意図、目論みは十分には達成、進ちょくできていないかもしれない。むしろ、保護者にたびたび怒られたような子どもは、学習意欲や好奇心を低下させてしまっている可能性もある

 データも再掲しておく。公立小の保護者では半数近くが「ついイライラしたり、子どもに怒ったりするときもあった」と回答している。わたしも4人の子育て中なので、そうなる気持ち、状況はとてもよく理解できる。だが、こういう状態では、おそらく子どもが主体的に学んだり、好奇心を高めたりすることにはマイナスとなっている可能性もある。

出所)妹尾昌俊「休校中の家庭学習について、保護者向けアンケート調査」
出所)妹尾昌俊「休校中の家庭学習について、保護者向けアンケート調査」

 誤解しないでほしいが、全部の学校やあらゆる家庭で、宿題がムダだとか、ダメな内容ばっかりだ、などと申し上げているわけではない。しかし、以上解説したように、非常に多くの問題を含んでいる可能性があり、「これでは、いったい、なんのための宿題なのかが、わからなくなってきていませんか?」、「宿題を出そう、出そうとするよりも、もっとリスクやマイナス影響にも配慮しないといけないんじゃないですか?」ということを共有したい。

 確かな事実認識のないところに、効果的な対策は生まれない。もちろん、それは子どもたちのためにならない。

参考文献

ジョン・ハッティ(2018)山森光陽監訳『教育の効果』図書文化

森俊郎・江澤隆輔(2019)『学校の時間対効果を見直す!エビデンスで効果が上がる16の教育事例』学事出版

伊藤敏雄(2020)『子どもがつまずかない教師の教え方 10の「原則・原則」』東洋館出版社

妹尾昌俊(2020)『教師崩壊』PHP新書

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https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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