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なぜバルサは“無冠”に終わったのか?シャビ続投の決断と経済的損失…表面化する選手マネジメント問題

森田泰史スポーツライター
選手に指示を送るシャビ監督(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

ブーストの効果は、切れてしまったのかも知れない。

リーガエスパニョーラ第34節、バルセロナはホームでジローナと対戦。同節、カディスを下してレアル ・マドリーが優勝を決めた一方で、2−4で敗れたバルセロナは3位に転落している。

ジローナに敗れたバルセロナ
ジローナに敗れたバルセロナ写真:ロイター/アフロ

「これはあり得ない、あり得ないことなんだ」とはスタジアムに姿を見せていたジョアン・ラポルタ会長の言葉だ。

カメラに抜かれていると薄々気付いていながら、発言を抑えられないほど、バルセロナの会長は狼狽していた。

■失われたポジション

バルセロナはジローナに敗れ、“カタルーニャ王者”の座を失った。シーズン前半戦(×2−4)、シーズン後半戦(×2−4)といずれも敗れており、今季ラ・リーガで躍進したミチェル監督のチームに完膚なきまでに叩きのめされた。

厳しい表情を見せるセルジ・ロベルトとラフィーニャ
厳しい表情を見せるセルジ・ロベルトとラフィーニャ写真:ロイター/アフロ

サビーニョ、ビクトル・ツィガンコフ、アルテム・ドフビック、イバン・マルティン、ヤンヘル・エレーラ、アレイシス・ガルシア…。ジローナの中盤より前目の選手たちだ。そこに、強豪国のレギュラー級の選手はいない。

他方で、ロベルト・レヴァンドフスキ、ラフィーニャ、ラミン・ヤマル、ペドリ・ゴンサレス、イルカイ・ギュンドアン、アンドレアス・クリステンセンとバルセロナにはワールドクラスのプレーヤーが揃っている。しかし、結果はシーズンダブル。バルセロナの完敗だった。

■経済的な損失

マドリーに優勝を明け渡した、というだけではない。バルセロナには、2位のポジションを守らなければいけない理由があった。

現在、スペインでは、スーパーカップに4チームが出場できる仕組みになっている。そこに出場できるのはリーガの1位・2位のチームと、コパ・デル・レイの優勝者と準優勝者だ。バルセロナは今季のコパにおいてベスト8で敗退している。つまり、リーガで2位以内に入らないと、スーパーカップに出場できないのだ。

スペインのフットボール連(RFEF)は、現在のレギュレーションを決定した折、サウジアラビアのサッカー連盟と同国開催によって年間4000万ユーロ(約64億円)を受け取ることも決められている。

RFEFが2000万ユーロ(約32億円)を得て、残りの額は参加チームで分配される。参加賞金、決勝進出、優勝とボーナス式に収入が増えるが、バルセロナはそのすべてを”放棄“することになる。

これはRFEFとしても痛手だ。彼らがサウジアラビアサッカー連盟と合意した際、マドリーあるいはバルセロナが不参加だった場合、収入が500万ユーロ(約8億円)減になるという取り決めが交わされていたためだ。

CLではパリSGがバルセロナに勝利
CLではパリSGがバルセロナに勝利写真:なかしまだいすけ/アフロ

また、バルセロナは今季のチャンピオンズリーグでベスト8敗退に終わっている。その結果、新フォーマットになる2025年のクラブ・ワールドカップ不参加が決定している。新クラブW杯では、参加チームに5000万ユーロ(約81億円)の収入がある。加えて、優勝チームには1億ユーロ(約162億円)が与えられる。その機会も失われてしまった。

■指揮官の退任宣言

バルセロナは今年1月27日にシャビ監督が”退任宣言“を行った。以降、チームは13試合で10勝3分けと調子を取り戻していた。

だがチャンピオンズリーグ準々決勝のパリ・サンジェルマン戦(2試合合計スコア4−6)、リーガ第32節のマドリー戦(2−3)と決戦で敗れ、タイトル獲得の可能性が消滅した。

そのような状況でありながら、一転してシャビ監督の続投が決まった。それはクラブ、ひいてはラポルタ会長の“2位のポジションを死守して欲しい”というメッセージに見て取れた。だがブーストは続かず、今季素晴らしいフットボールを披露してきたミチェル・ジローナの前に、バルセロナは呆気なく沈んでいる。

■問題の表面化

勝利している間は、良い。だが負けが込むと、問題というのは表面化する。最前では、ビトール・ロッキのプレータイムが話題を呼んだ。バルセロナは、今冬の移籍市場でV・ロッキを獲得した。移籍金固定額3000万ユーロ+ボーナス3100万ユーロでアトレティコ・パラナエンセと合意して、ブラジルの若きアタッカーを確保した。

しかし、V・ロッキは、ここまでリーガ11試合に出場して、プレータイム276分と伸び悩んでいる。アンドレ・クリー代理人は「ロッキには、もっとプレータイムが与えられるべきだ。シャビはロッキと話していない。この状況を理解するのは難しい」と指揮官を批判した。

「ロッキは300分のプレータイムで、2ゴールを決めている。割合で言えば、チーム内得点王だ。シャビはフェルミンやヤマル、クバルシに出場時間を与えてきた。だがロッキは違う。その理由については、説明がつかない」

ラミン・ヤマル、パウ・クバルシ、フェルミン・ロペスといったカンテラーノを、シャビ監督はうまく使ってきた。

一方でV・ロッキやオリオル・ロメウなど、補強の選手で使いこなせなかった選手がいる。そういったプレーヤーたちをどのようにマネジメントしていくか、指揮官とクラブに課題は残されている。

プレータイムを得られていないV・ロッキ
プレータイムを得られていないV・ロッキ写真:なかしまだいすけ/アフロ

「シャビがトップチームの監督として続けることを伝えられて、嬉しく思う。彼がシーズン半ばに自身の決断を発表したのは知っている。しかし、本日、我々は(シャビ続投という)良いニュースを手にしている」

「シャビは生涯のバルセロニスタだ。難しいシチュエーションだったが、彼は常にクラブのベストについて考えている。だから、これは大きなニュースだ。フロント陣は、全員、シャビを支持している」

これは指揮官続投発表の際のラポルタ会長のコメントだ。

バルセロナのラポルタ会長とシャビ監督
バルセロナのラポルタ会長とシャビ監督写真:ロイター/アフロ

バルセロナは順位を3位に落とした。残り試合は、4試合。2位ジローナを再び上回る可能性はある。

とはいえ、今季のバルセロナが無冠に終わったのは事実だ。3位でシーズンを終えた時、「退任宣言」や「監督交代」というカードは残されていない。

起伏の激しいロードが、バルセロナを待ち受けている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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