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【休校でも再開でも重要な問題】日本の先生は、子どもたちのやる気を高められているか?

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
(写真:アフロ)

 学校再開か、休校(臨時休業)か。前回までの記事では、考慮したいこと(3つないし4つの価値)や注意点について、お話しした。今回は、いずれの道をとっても、向き合わないといけないことについて扱う。

前回までの記事:https://news.yahoo.co.jp/byline/senoomasatoshi/

 一言で要約すると「先生たちは、子どもたちのやる気を高められているだろうか、学習への動機づけができているだろうか」という点についてだ。

 休校が長引けば、よけい、家庭学習等での動機づけは重要となる。自分で進んで勉強できる子や、自分の好きなことで時間を有効活用できる子はいいほうだ。家庭や塾などでしっかりフォローしてくれる子もまだマシだろう。だが、そうはいかない子も少なくない。いくらネット上に教材や授業動画があっても、やらない子はやらないし、続かない子も多い。

 それに、自宅や塾で多少勉強していても、ドリルや知識を問う練習問題ばかりやっていて、本当に考える力、思考力等が高まっているかは、クエスチョンだ。

■休校中、子どもたちは自ら学んだか?

 この休校中は、子どもたちが自立的(自律的に)な学習者になれているか、どうかが、如実にあらわれた、とも言える。

写真素材:photo AC
写真素材:photo AC

●学校や塾から出された宿題、課題等は最低限やった子

●上記の必要なところに加えて、自分の好きなことや課題を見つけて、進んで学習や活動ができた子 

●学校等からの課題について、やる気がおこらず(あるいはこれまで習得できていなかったので)、できなかった子 

 たとえば、こういう3タイプの子たちがいたと思う。自立的な学習者とは、2番目をイメージしている。

 以前の記事にも書いたが、筆者が教職員に緊急調査したところ、休校中の子どもたちに心配なこととして、学習習慣が離れてしまったこと、学力格差が広がったこと、ゲーム依存などが高まったことを多くの教員らがあげた

「休校ならびに春休みの児童生徒の様子として、特に心配なことはありますか」という質問への教職員の回答

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出所)妹尾昌俊「休校(臨時休業)中の教職員の仕事についての調査」

※関連記事:休校から3週間、子どもたちへの影響、何が心配か(教職員への緊急調査結果)

 ぼくも、親としてはとても悩ましい話だ(やはり、子どもたちはゲームや動画をみる時間が長くなりがち)。

■OECD調査でも判明、日本の先生たちは、子どもたちのやる気を高めることが苦手

 OECDの調査でTALIS(国際教員指導環境調査)というのがある。48にもおよぶ国・地域の中学校教員が回答した貴重な調査だ。ちなみに、この調査によると、日本の中学校教員が、世界でいちばん長時間労働であることもわかっている(TALIS2013, 2018で2回連続)。

 多忙の問題と比べると、あまり報道などでは注目されないが、この調査では、先生たちが授業や日常の指導のなかで、どんなことを工夫しているかや、授業等の手ごたえ(自己効力感との訳になっている)なども把握している。その結果のひとつが、次のデータだ。

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※OECD・TALIS2018をもとに筆者作成

 「勉強にあまり関心を示さない生徒に動機付けをする」について、「全くできていない」、「いくらかできている」、「かなりできている」、「非常に良くできている」の4択で、あとの2つにチェックした割合を示している。

 グラフは、日本と同じく、生徒の学力(同じOECD調査のPISA)が比較的高い国・地域をピックアップした。なお、アメリカはそれほど学力が高いほうではないが、経済大国なので含めた。

 教職経験が5年以下の中学校教師の場合、日本の回答はすごく低い。

 「日本の教師は控えめで、自己評価が厳しい」とも解釈できなくはないが、他の学力上位国と比べて、30~40ポイントも低いのは、謙虚という理由だけでは説明しにくいだろう。ちなみに、経験が5年を超える教員で比べても、この設問、日本は32.5%で、これらの国や調査国・地域平均より30~40ポイントも低い。

 日本の先生たち、若手も中堅・ベテランも、勉強にあまり関心を示さない生徒を引き上げることには苦手意識があるようだ。

 次のデータは、先ほどと同じ4択で、「生徒に勉強ができると自信を持たせる」について。

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※OECD・TALIS2018をもとに筆者作成

 こちらも、他の国よりも70ポイント前後も低い。逆に外国の教員は、なぜ、これほど自信にあふれているのかが不思議ではあるが・・・。経験5年を超える教員についても、日本では27.1%で、やはり他国と比べて、とても低い。

■日ごろ、日本の学校では、思考力等を高める授業になっていない?

 あとひとつだけ、関連データを紹介しておこう。中学校教員の指導方法について、以下の設問について「しばしば」、または「いつも」行っていると回答した割合を比べたものだ。

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※OECD・TALIS2018をもとに筆者作成

 「明らかな解決方法が存在しない課題を提示する」、「批判的に考える必要がある課題を与える」、「完成までに少なくとも一週間を必要とする課題を生徒に与える」などは、比べる国によっては、日本は20ポイント前後もビハインドしている。

 こうしたデータは、子どもたちの思考力を高め、自ら考え、取り組むことが、日本の中学校では弱いことを示唆している。

 また、「生徒に課題や学級での活動にICT(情報通信技術)を活用させる」も日本は最弱だ。

 なお、小学校教員向けのTALISは、中学校向けと比べて参加国が少ないが、日本は外国と比べて、上記の指摘と似た傾向があった。たとえば、「批判的に考える必要がある課題を与える」を「しばしば」または「いつも」行っているのは、日本は11.6%であるのに対して、韓国47.1%、オランダ58.3%などと大差がある。

■休校になっても、子どもたちの思考力等が高まる課題を出せていないのでは?

 休校の話と何が関係するんだ?という疑問をもった方もいると思う。以上のデータを踏まえて、ぼくが問題意識をもっているのは、次のことだ。

●平時の日ごろの授業において、日本の小中学校の先生たちは、児童生徒の考える力を鍛える課題を出したり、ICTを活用した学びをしたりすることが少なかった。また、苦手意識のある人が多い。(もちろん、一概に言えることではなく、教師間で差もある話だが。)

休校になって、急に、「子どもたちがじっくり取り組める、よく考えた課題を先生たち、考えて出してね」とか「子どもたちの好奇心を高める授業動画をアップしてください」などと言われても、困るのではないか?

●結果として、ドリルなど、基礎基本は大事ではあるけれども、AI(人工知能)や機械が得意なスキルを磨く課題(宿題)を出している学校が少なくないのではないか。

●また、学校が再開となった地域においても、授業の遅れを取り戻すことや、大学受験、高校受験にしっかり対応できるようにという気持ちが先行して、子どもたちの思考力等を高める「深い学び」になる授業がどれほどできるだろうか

 もちろん、TALISの結果だけで、こう断言するのは乱暴だと思う。だが、大きな心配がある、と問題提起することはできよう。

 4月も休校になった学校の職員室では、「遅れたぶん、どう教科書を終えようか」とか「行事をどうしようか」、「入試対策は大丈夫か?」といった話ばかりになる可能性が高いと思う(既にそうなっている学校も多いようだ・・・)。そうしたことも大事ではない、とは言わない。だが、そうした議論だけでは教育、授業のプロとしてダメだと思う。

 「せっかく、授業や部活動の負担がなくなるなら、なおさら、もっと先生たちにはアタマを使っていただきたいことがある」ということを、この記事では述べてきた。学校が再開しても、休校になっても、いずれにしても、このことには、しっかりと向き合ってほしい。

★この記事は、妹尾の新刊『教師崩壊』(PHP新書、4月中旬発売予定)を再構成、加筆してアップしました。

◎妹尾の記事一覧

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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