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アンバー・ハードが控訴を告知。保証金の出どころと弁護士代の謎

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 アンバー・ハードが、“有言実行”した。現地時間21日、ヴァージニア州フェアファックスの裁判所に、控訴の告知を提出したのだ。

 これは正式な控訴ではなく、控訴をしますという通告で、書類はたった3ページ。控訴に当たっては、判決でジョニー・デップへの支払いを命じられた賠償金全額と、年に6%の利子1年分を保証金として納めなければならないが、本日ハードは500ドルを納めただけだという。しかし、控訴に上記のお金が必要なことに変わりはなく、払わなければ先に進めない。

 そこで気になるのは、そのお金がどこから来るのかである。500ドルでとりあえず時間稼ぎはできても、まるで当てがないのであれば、この行動自体が無駄となる。

 一番考えられるのは、ハードの元恋人イーロン・マスクだ。ハードが寄付を約束しつつほとんど払っていなかったアメリカ自由人権協会(ACLU)にも、マスクはハードに代わって寄付をしたことがあった。交際中、ふたりは受精卵を凍結しており、ハードが代理母を使って産んだ娘はマスクの子供かもしれない。もしそうであれば、いくら過去に受精卵の破棄を要求したとはいっても、生まれてきた自分の子供の母親を助けないわけにはいかないのではないか。それに、ビリオネアのマスクにとって、1,000万ドル前後のお金はたいしたことはないだろう。

アンバー・ハードとイーロン・マスク
アンバー・ハードとイーロン・マスク写真:Splash/アフロ

 もうひとつ不思議なのは、弁護士代だ。デップとの名誉毀損裁判にかかった弁護士代は、保険会社トラベラーズのホームオーナーズ保険から出たことがわかっている。金額はすでに600万ドルに達しており、トラベラーズは、やはりハードが賠償保険に加入しているニューヨーク・マリン&ジェネラルも半分払うべきだと訴訟を起こした。そのニューヨーク・マリンは、ハードは意図的にデップの名誉を毀損したため保険の対象外だと、ハードへの支払いを拒否している。

 つまり、控訴の弁護士代を保険会社が出すのだとすれば、トラベラーズだ。だが、トラベラーズは、ニューヨーク・マリンのようにハードが意図的にデップの名誉を毀損したと思っていないのか。そもそも、保険会社が自分たちの支払う金額に上限をもうけていないというのも不自然に感じる。控訴には最低でも1年がかかるということで、その間、弁護士代はますます膨らんでいく。いったいトラベラーズはどこまで許容するつもりなのだろうか。

 いずれにしても、法律に詳しい人たちによれば、一般的に控訴の壁はきわめて高く、ハードの望むとおり控訴が実現する可能性はかなり低い。そう考えれば、ハードがどこからか保証金を手配して正式に控訴を要求するのは、デップにとって悪いことではないかもしれない。それはつまり賠償金がもう確保されたということで、控訴が却下されれば、そのままもらえばいいのだ。お金の出どころがハードではないのはわかっているのだし、気にせず堂々と受け取ればいい。

 ハードのスポークスパーソンは、またもや「言論の自由」を表に出して、ハードが受けた判決は不当だったと主張している。しかし、嘘をついて誰かの名誉を毀損することが「言論の自由」の範疇ではないことは、ハードがその言い訳を使うたびに指摘されてきた。正式な控訴の書類でも、ハードの弁護士はその使い古された主張を貫くのだろうか。彼らの戦略もまた、気になるところだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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