Yahoo!ニュース

保険会社の支払い拒否でバレたアンバー・ハードの新たな嘘。同罪の弁護士の責任は

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 6週間に及んだジョニー・デップとの名誉毀損裁判が終わって、1ヶ月半。あの裁判では、冒頭陳述のコスメに始まり、アンバー・ハードがついた多くの嘘がばれたが、今になってまた新たな嘘が発覚した。

 きっかけは、先週、ハードの加入する保険会社ニューヨーク・マリン&ジェネラルが、ハードは意図的にデップの名誉を毀損したとして保険金支払いを拒否する訴状をカリフォルニア州の裁判所に出したこと。これによって、弁護士代にまつわる、隠されてきた事実が浮上してきたのだ。

 ハードの弁護士代が、一戸建てやコンドミニアムを所有する人、あるいは家を借りる人が加入できるホームオーナーズ保険から出ているのではないかとの憶測は、裁判の間から出ていた。アメリカの大手保険会社トラベラーズの重役が、ハードに付き添ってヴァージニア州の裁判所を訪れる姿が何度か目撃されたことも、人々を確信させている。だが、ハードがニューヨーク・マリンの賠償保険にも入っていたこと、そして、この2社の間でハードへの支払いをめぐる争いがあったことは、誰も知らなかった。表に出なかったのは、保険会社がお互いを訴訟する上で、ハードの名前を出さないよう注意していたことが大きい。

 DV被害者としてハードが「Washington Post」に寄稿した記事をめぐり、デップがハードを訴訟したのは、2019年3月。名誉毀損で訴訟された場合の弁護士代をカバーするトラベラーズとニューヨーク・マリンは、ハードから要求を受け、それぞれに違う弁護士を承認したが、紆余曲折を経て、2020年6月、トラベラーズが承認するイレーン・ブレデホフトに落ち着いた。

 だが、その時、トラベラーズは、250万ドルの上限を与えたものの、ブレデホフトが1時間あたりいくらチャージするのかについては決めなかった。そのせいで、裁判が始まる1年以上前の2021年2月には、もう上限に達してしまう。そこで、上限をなくす代わりに1時間あたりのレートをやや下げてもらうことになったのだが、裁判が始まった2022年4月までに、弁護士代は500万ドルにも膨れ上がってしまった。

法廷でブレデホフトもはっきりと嘘をついた

 本題はここからだ。上記の流れからも、弁護士代がハードではなく保険会社から支払われていることは、ハードも、ブレデホフトも、十分知っていたことがわかる。にもかかわらず、ハードは裁判で、約束した寄付ができなかったのはデップが自分を訴訟してきて、その弁護士代が必要になったからだと言い訳をしているのだ。しかも、彼女は、これを一度だけでなく繰り返して言っている。自分の弁護士ブレデホフトからの尋問で、「2019年3月にジョニーが訴訟してきて、これまでに私は600万ドルもお金を費やしてきました」と具体的な数字を出し、デップの弁護士カミール・ヴァスケスから「異議あり!」と制止される場面も見られた。

 もちろん、裁判の中でこの嘘はデップの弁護士チームによってばらされている。デップは2018年2月1日に、離婚時にハードに約束した700万ドルの支払いを終えていた。デップがハードを訴訟したのは2019年3月だ。本当に寄付をするつもりであれば、1年以上も時間があったのである。その間、ハードはデンマークのテレビに出て「全部寄付した」「私はお金なんか欲しくない」と豪語してもいる。そもそも弁護士代が保険会社から出ていたという事実がわかった今、彼女は二重に嘘をついていたことになる。

 もっと大きな問題は、ブレデホフトも同じ嘘をついたことだ。最終弁論で、彼女は陪審員に向けて、「(ハードは)寄付をすると約束しましたが、訴訟されてここに来ることになり、寄付ができなくなりました。彼女は弁護士代に600万ドルも使うことになってしまったからです。彼女に寄付するつもりは十分あるのです」と言ったのである。自分にお金を払ってくれているのが誰かを、ブレデホフトが忘れるわけはない。そもそも彼女は保険会社によってこの仕事をもらっているのだ。彼女は、裁判で意図的に虚偽の発言をしたのである。

 これは弁護士としての規定に十分引っかかる行動だ。弁護士が、自分が弁護するクライアントにとって不利になることを「黙っている」のは許されても、あえて口を開き、嘘を言うのは、倫理ガイドラインの違反に当たる。これを知ったヴァージニア州の法廷から、ブレデホフトがなんらかの懲戒を受けることも考えられる。

ハードが保険に入ったタイミングの謎

 この保険に関しては、もうひとつ気になることがある。ハードがカリフォルニア州ヤッカバレーに一軒家を購入したのは、2019年。だが、ハードは、2018年に、トラベラーズのホームオーナーズ保険に加入しているのだ。もちろん、先に述べたように、ホームオーナーズ保険は借家の場合でも加入できる。だが、なぜこのタイミングだったのだろう。また、彼女は、それからまもない2019年、ニューヨーク・マリンの保険にも入っている。ひとつではなく、ふたつも賠償保険をかけているのだ。

 ハードが「Washington Post」に記事を書いたのはその後。だが、その記事は弁護士に目を通してもらっていたし、まさかデップが訴訟してくると、彼女はまったく予想していなかったようだ。だから、これに備えて入ったとは思えない。しかし、デップは、2018年6月、自分をDV男と呼んだイギリスのタブロイドを訴訟している。賠償保険に入ったのがその後だったということは、それをきっかけに、ハードは自分にも何かが起こる危険を感じるようになったのかもしれない。でも、だとしたら、なぜあんな記事を書くというリスクをあえて冒したのか。エゴは理性よりも大きかったということなのか。

 ハードについての謎はまだまだ絶えない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事