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10代で体験した性的な絶頂が忘れられないヒロイン役は彼女。実はプロデューサーでお弁当の発注も!

水上賢治映画ライター
「あらののはて」で主演とプロデュースを務めた舞木ひと美 筆者撮影

 高校2年生の冬、クラスメイトで美術部の大谷荒野に頼まれ、絵画モデルをしたところ、理由のわからない絶頂感に襲われ、失神した野々宮風子。

 以来、風子はその絶頂感が忘れらないまま。ただ、担任のあらぬ誤解で退学となってしまった荒野とはそのときから会っていない。

 25歳になった彼女は、あの絶頂の真意を追い求め、荒野のもとに押しかける!

 こんなこじらせ女性の恋愛の行方を描く映画「あらののはて」。

 しゅはまはるみのインタビュー(前編後編)に続き、主演の風子役で、モラトリアムに陥った女性の心情を見事に体現し実はプロデューサーも務めている舞木(まき)ひと美に訊くインタビューの第二回へ。

異色のヒロイン、風子を演じる上で大切にしたことは?

 前回のインタビューから引き続き、風子役についての話から。

 風変りな風子を演じる上でどういうことを考えたのだろうか?

「こうした取材を受けることで、気づかされることも多々あって、わたしの中で、風子は日々刷新されているところがあります。

 最初に演じる上で、わたしが気づいたのは、この子には他人には絶対にみせない頑固さがあるなと。

 人にそういうふうに思わせるような態度も別にとることもなければ、そういうことをにおわす発言もまったくしていない。

 でも、誰になんと言われようと曲げることのない頑固さがある。それが周りを振り回してしまう要因なのではないかと思いました。

 そこはきちんと踏まえる必要はあるなと思いました。

 もうひとつ課題としては、高校生のころと成人したころを演じること。これは大きな壁で。でも、乗り越えなければいけない重要なことでした。

 8年の月日を感じさせなければいけない一方で、きちんとつながっていることも示さないといけない。

 それをどう表現するのか悩みましたけど、自分の中で大切にしたのは、歩き方やしゃべり方といったその人の持つ所作。

 人って歩き方やしゃべり方って、8年経っても変わらない。

 たとえば、相手への目線の送り方もかわらないと思うんです。そこにその人の性質が出ている。

 だから、風子という人物を考えて、歩き方や姿勢は固めて、その固めたもので通したところがあります」

体にビビッとくるものがあっても不思議ではないなと思いました

 では、風子の中で大きな問題となっている、性の目覚めであり、性の絶頂を感じてしまった体験というのはどう受け止めただろうか?

「これは性に限ったことではないと思うんですけど、わかります。

 思春期のころというのは、多感でその瞬間がすべてのように思うときがありますよね。

 風子はいままでまったく体験したことのない、衝撃的な体の変化をたまたまモデルをしているときに感じてしまった。

 風子のように引きずることはないと思いますけど、わたしにもこのころ体験してずーっと刻まれたまま残ってる感覚っていうのはあります。

 特に小学校、中学校の、ちょっと大人になる手前ぐらいに差し掛かったときの記憶で、いまも鮮明に残っていることは多いです。

 だから、風子の気持ちはすべてがわかるとは言い切れないですけど、分かる部分もありますね。

 あと、この役をやるとなったときに、たまたま友人に居酒屋で(苦笑)、タッチペンでわたしのイラストを描いてもらう機会があったんですよ。

 で、1時間半ぐらいだったかな。その人はずっと私の顔を見ながら真剣に描くわけです。

 このとき、わたしはもう酔っぱらっていたんですけど、なんかドキドキしてきたんですよ。

 ふだん人にまじまじとしかも長時間見られることってないじゃないですか。

 撮影でカメラの前に立つ感覚とは全然違う。なにか毛穴までみられているような気分で。人に見続けられるとこんな感覚になるんだと思ったんです。

 この経験は大きくて、風子のモデルをしているときの感覚が少しわかった気がしました。

 風子は荒野のことを少し異性として意識していた。

 その人にじっと見られるというのは、やっぱりゾクゾクするところがあるし、ましてやまだうぶな思春期だったら、何か体にビビッとくるものがあっても不思議ではないなと思いました」

「あらののはて」より
「あらののはて」より

眞嶋さんとのケンカシーンは、フレームの外で実際にバトルしています(笑)

 長谷川監督は独特の映像のこだわりの持ち主。

 逆光を多く取り入れ、意図してシーンによっては黒くつぶれているとまではいわないが、風子の顔がよく見えないようになっているところもある。

 また、ひとつの目玉のシーンといっていい、眞嶋優が演じている8年後の荒野の恋人、マリアと、風子のケンカシーンは、フレームの外で起きていて、そこが映されることはない。

 こうした大胆な演出が随所にあるが演じて戸惑いはなかったか。

「『人が見たいと思うところはあえて見せない』といったことを長谷川監督から事前に聞いていたので、戸惑いはなかったですね。

 眞嶋さんとのケンカシーンは、あれはフレームの外で実際にバトルしています(笑)。

 撮られていないのでなんともいえないですけど、眞嶋さんは一般社団法人日本フリースタイルフットボール協会公認の『フリースタイルフットボールアンバサダー』だったりして実際に運動能力が高い。

 わたしもダンサーでそれなりに動けますから、けっこうハードないいシーンになっていたんじゃないかなと。

 演者としては撮ってほしいし、見せたい欲求はありましたけど、長谷川監督の作品ですし、長谷川監督が望むショットがそうであれば仕方がない。

 なので、もう信頼して演じるだけでしたね」

「あらののはて」より
「あらののはて」より

主演女優に、お弁当が届くというのはなかなかないかもしれません

 主演女優にしてプロデューサーも務めたわけでが、いまその日々をこう振り返る。

「異例なことなんでしょうね(笑)。

 わたしお弁当の発注もしていて。演じながら、現場でお弁当を受け取ったりしてたんですよね。

 主演女優に、お弁当が届くというのはなかなかないかもしれません」

 完成した作品の感想をこう語る。

「何回も見ているんですけど、見れば見るほど、印象が変化するというか。

 この作品にキーアイテムとして出てくるガムのように、かみ続けていると味が変わってくる。

 見るたびに風子の気持ちだったり、彼女に関わる人の心情だったりと、なにかしらの発見がある。

 そういう何度見ても味わいのある作品になったのではと思っています」

(※第三回に続く)

「あらののはて」で主演とプロデュースを務めた舞木ひと美 筆者撮影
「あらののはて」で主演とプロデュースを務めた舞木ひと美 筆者撮影

「あらののはて」

監督・脚本:長谷川朋史

出演:舞木ひと美、髙橋雄祐、眞嶋優、成瀬美希、藤田健彦、しゅはまはるみ

横浜シネマリンにて公開中。

長野千石劇場にて10/8(金)〜10/21(木)

大分シネマ5にて10/13(水)〜10/15(金)

名古屋シネマスコーレにて10/16(土)〜10/22(金)

広島・福山駅前シネマモードにて10/22(金)〜10/28(木)公開

場面写真は(c)ルネシネマ

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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