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10代で体験した性的な絶頂が忘れられないヒロインを演じたのは彼女。実はプロデューサーの二刀流!

水上賢治映画ライター
「あらののはて」の舞木(まき)ひと美  筆者撮影

 高校2年生の冬、クラスメイトで美術部の大谷荒野に頼まれ、絵画モデルをしたところ、理由のわからない絶頂感に襲われ、失神した野々宮風子。

 以来、風子はその絶頂感が忘れらないまま。ただ、担任のあらぬ誤解で退学となってしまった荒野とはそのときから会っていない。

 25歳になった彼女は、あの絶頂の真意を追い求め、荒野のもとに押しかける!

 こんなこじらせ女性の恋愛の行方を描く映画「あらののはて」。

 この風子役で、モラトリアムに陥った女性の心情を見事に体現しているのが主演の舞木(まき)ひと美だ。

 女優・ダンサー・振り付け師としての顔をもつ彼女は、プロデューサーとしても活躍。「あらののはて」では、主演女優であるとともに、プロデューサーとしても手腕を振るっている。

 先日届けたしゅはまはるみのインタビュー(前編後編)に続き、いまどきの言葉で表せば、二刀流で本作に挑んだ彼女に訊く。(全三回)

ワークショップで初対面、そこからいきなり主演とプロデューサーに

 はじめに今回、主演とプロデューサーを務めることになった経緯をこう明かす。

「長谷川監督とはじめてお会いしたのは、ほんとうに『あらののはて』を撮るだいたい4カ月前ぐらい前のこと。

 ちょうど長谷川監督は『かぞくあわせ』の公開に向けて動いているときで、その関連企画でワークショップが開かれていました。

 そのことを人づてに聞いて、わたしは興味があったので受けることにしたんです。ですから、長谷川監督は講師、わたしはひとりの演者として出会いました。

 それで、なぜ、そのワークショップの出会いから、いきなり4カ月後に撮影に入ることになるかといいますと…。

 コロナ禍の前ですから、ワークショップの終わりに打ち上げがあって、そこで長谷川監督は参加者のひとりひとりと少しお話する時間をとってくださった。

 そのとき、わたしは、俳優業もやりながら、振付の仕事も20代半ばぐらいからやっていて、キャスティングをはじめとした制作の裏方業もしていることをお伝えしたんです。

 そのとき、長谷川監督の頭の中で、『今後も一緒にやっていける仲間になるんじゃないか』というアンテナがピピッと張ったらしくて(笑)。

 すぐに、『演者としてやりたいのであれば主演として1本作品を撮りたいから出てくれないですか』と切り出されて、数日後にはプロットをいただいたんです。

 読んでみたら、ひじょうにおもしろい。すぐに『やりたいです』とお伝えしたら、長谷川監督から『それはうれしいのだけれど、プロデューサーもお願いしていい?』と切り出されて、『わかりました』といって引き受けた。

 これがわたしが主演とプロデューサーを兼務するにいたった簡単な経緯です(笑)」

 そこから4か月後のクランクインまで怒涛の準備が始まった。

「たぶん通常の役者さんならば、監督と共有すべきは役のこと。

 でも、わたしはプロデューサーでもあるので、まず長谷川監督と共有したのは、どう動いて、『あらののはて』をクランクインに漕ぎつけて成立させられるかということでした。

 クランクインの目安を出して、じゃあどうすれば間に合うという話から始まり、スタッフィング、キャスティングと進めていきました。

 たとえば、キャスティングでいえば、実はわたしは自分でワークショップを主催しているんです。

 開催してわかるのは、いまほんとうにすばらしい才能をもった俳優さんがいっぱいいらっしゃること。

 そういうワークショップで出会った俳優さんに、『あらののはて』のオーディションがあるとSNSで情報を流しました。

 そうしたら、ほんとうにいろいろな俳優さんたちが興味を示してくださった。

 後日、オーディションを開催しました。

 こういうことをわたしが主体になってやっていった。

 スタッフィングとキャスティングとロケ地探しはわたしが取り仕切って進めていきました。

 そういうと『大変』と思われるんですけど、そこまででもなかったといいますか。

 この作品は、意外とシチュエーションが多くない。主な舞台が学校と家なので、撮影場所はさほど多くないんですよ。

 だから、楽とはいいませんけど、主演も務めながら、つつがなくこなせたところはあります」

「あらののはて」より
「あらののはて」より

性の目覚めを8年もひっぱり続けてしまうヒロインはあまりみたことがない

 先にプロットを読んで「おもしろい」と思ったというが、演者としてどういうところが琴線に触れたのだろうか?

「設定がまずおもしろいですよね。

 わたしが演じた風子は、高校生のときに同級生の男の子からモデルを頼まれて、デッサンで描かれていたら、そのときに性的な絶頂を味わってしまう。

 しかも、そのときの感覚を忘れられずに、8年も抱えたまま。そこから恋愛に関しては一歩も先に進めていない。

 この発想と設定がほんとにユニークだと思いました。

 確かに学園ドラマは数多く存在する。でも、こういう性の目覚めがあって、それを8年もひっぱり続けてしまったヒロインはあまりみたことがない。

 良くも悪くも、10代でどこか時間が止まってしまっている風子がすごく興味深くて、俳優として演じたいと思いました。

 あと、長谷川監督が、わたしを想定してあてがきした部分があるとおっしゃっていた。

 で、脚本の初稿を読んだときに、風子って自分の意図してないところで周りを振り回してるところがある。

 『ああ、わたしもそういうところあるな』と思って、自分自身を見つめ直す1つの作品になるんじゃないかと思ったんです。

 役作りする上で、己と向き合うことってそうあることではない。あてがきしていただくことも、そうそうあるわけではない。

 そのめったにない機会にもなるなとおもって、演じたいと思いました」

風子は、他人とは思えなかったですね

 なんともいえないモラトリアムにはまってしまう風子は、ひとことで言えば、不思議ちゃんというか。

 いわゆる天然タイプの女の子。舞木は、その不思議キャラさを絶妙に醸し出している。

「当然、自分ではわからないんですけど、長谷川監督は、わたしと初めてワークショップで会ったときに、その不思議要素の匂いを芝居から感じとったそうです(笑)。

 風子を演じてから、自分自身についていろいろと考えるようになったんですけど、確かに今まで思い起こすと、『ちょっと変だよね』って言われることがよくあったなと。

 風子という役を通して、彼女の不思議さに気づいて、それが自分にも重なってはじめて、『ああ、確かにこういう行動とると、変と思われるよね』と気づきました(笑)。

 風子のように恋愛面ではさすがにないですけど、日常的なことで、人を混乱させることをしてしまうことが多々ある。ほんとうに悪気はないんですけど。

 共演者の成瀬(美希)さんにあることで、『たぶん、20代前半だったら<かわいい>とか<天然>みたいなことで収まる。けど、舞木さんはそこの部分だけ成長しないで、ずっと10代のままでこの年齢まできてるから、年齢として見たときに変なんじゃない?』って言われました、こないだ。

 だから、風子は、他人とは思えなかったですね」

(※第二回に続く)

「あらののはて」の舞木(まき)ひと美  筆者撮影
「あらののはて」の舞木(まき)ひと美  筆者撮影

「あらののはて」

監督・脚本:長谷川朋史

出演:舞木ひと美、髙橋雄祐、眞嶋優、成瀬美希、藤田健彦、しゅはまはるみ

横浜シネマリンにて9/25(土)〜

長野千石劇場にて10/8(金)〜10/21(木)

大分シネマ5にて10/13(水)〜10/15(金)

名古屋シネマスコーレにて10/16(土)〜10/22(金)

広島・福山駅前シネマモードにて10/22(金)〜10/28(木)公開

場面写真は(c)ルネシネマ

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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