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新型コロナ「都市封鎖」で次々と起こる12のこと。スペインの例に学ぶな!

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
軍医療部隊と医療バス。封鎖下では命を懸けた戦いと退屈が共存している(写真:ロイター/アフロ)

まず最初に、スペインの現状を紹介しておく。感染者数は10万2136人(4月2日午前11時現在)、死者数は9053人。感染者数は前日比7746人増で、一時40%超(3月13日)あった増加率が10%程度に下がり、ピークは近い、という希望的観測もある。それでも毎日800人以上が亡くなるという大変な事態だ。

――しかも、その数字の1つひとつが非常に残酷な死であることはここに書いた。また、サッカー界の経緯はここにまとめたので参考にしてほしい――

3月14日から非常事態宣言が出され、いわゆる「全土封鎖」がスタートした。4月11日まで続くことになっているが、あと10日足らずで日常が戻って来るわけがない。悪くて再延長、良くて段階的な封鎖解除が現実的だろう。

スペインの全土封鎖の意味を説明したい。

日本では「都市閉鎖」だの「ロックダウン」(なぜ英語なの?)だのの定義が曖昧な言葉が一人歩きしているが、スペインの場合はこうだ。

●外出禁止

近所での食料品の買い出し、犬の散歩、病院や薬局へ行くなどのみOK。必ず1人で。子供は親と同伴なら可。他国では許可されているジョギングや散歩も禁止。

●必要不可欠な活動以外の禁止

学校は休校。商業・産業活動も以下のものを除き禁止。テレワークはOK。活動を許可されているのは、役所、病院、薬局、キオスク、スーパー(食料品店、市場)、農業、漁業、畜産業、煙草屋、銀行、流通、郵便、報道、交通機関、清掃、水道、ガス、電気、通信など。

●「徴用」と「統制」の権利を国が握る

病院化のために土地やホテルを徴用したり、安定供給のために医療品や食料品の流通を統制できる。

ここで言う「禁止」は「禁止」であって「要請」とは違う。駅や主要幹線道路では警察と軍隊が違反者を見張っている。違反すれば最低でも罰金、指示に従わなかった場合は刑務所行きもある(全土封鎖以来3月31日までの累計で、逮捕者2136人、罰金を科された者25万2159人)。

以下、簡単に全土封鎖状況下(4月2日で20日目)での生活の感想を。

私は南部アンダルシア州グラナダ市(人口約24万人、アルハンブラ宮殿で有名)の中心街に住んでいる。日中はまばらだが買い物や犬の散歩で人が歩いている。パトロール中の警察や軍隊をたまに見かけるが、買い物袋を下げていれば声を掛けられることはない(万が一のために身分証明書は必ず携帯)。移動範囲の広い自転車、自家用車をより厳しくチェックしているようだ。

家に籠り続ける生活はひたすら退屈だ。私は仕事があるから気が紛れるが、同居する恋人は店が閉まって仕事を失い時間とエネルギーを持て余している。気持ちの良い春の日が差し、車が消えたせいで空気はかつてないほど澄み、街には話し声一つしない静寂が漂っているが、窓から眺めるだけで外には出られない。

日本の人に知ってもらいたいのは、全土封鎖は医療関係者とそれをサポートする人たちにとっては命を懸けた戦争だが、普通の人にとってはとてつもなく平和である、ということ。ニュースで伝えられる病院の惨状とのコントラストが物凄く大きく、実感が湧きにくい。

もっとも、その平和は極めて脆く、明日買い物に行った先で感染するかもしれないし、家族や知り合いに感染者が出るかもしれない。また、同じく家に籠ってはいても、仕事を失い収入を失って家賃やローンが払えない人や生活費にもこと欠く人は暗澹たる思いで、この沈黙の日々を過ごしているに違いない。

すなわち、今退屈であることは、これ以上無く幸せなことなのだ。

3月の失業者は30万人増で累計350万人を超えた。この中には、サッカークラブを含む大手企業も続々適用中の「ERTE」(コロナ禍による一時解雇)による数は含まれていないので、この数字がさらに膨れ上がるのは間違いない。

コロナ禍の次に大きな不況が来るのは避けられず、先はどこまでも不透明で暗い。

最後に、全土封鎖下のスペインで起こり、日本でも起こりかねないこと、大部分は起こってほしくないことを箇条書きにしておく。その各々については明日以降、順次掘り下げていくつもりだ(なるべく時系列に並べたが、順番に大きな意味は無い)。

1:遅れた非常事態宣言

政治的判断と科学的判断は違う。

2:感染危険地域からの人の流出  

都市からの避難者が地方へ感染を広げた。

3:老人ホームでの大規模感染  

過去の死亡者への検査が遅れ、予見できず。

4:医師用の防護服不足  

医者と看護師を守れず、病院が感染拠点に。

5:医療設備とベッド不足  

特に人工呼吸器。見本市会場やホテルを転用。

6:感染キット不足とデータへの疑問  

なぜスペインの死亡率は高い?

7:報道の空洞化とデマ  

取材困難。政府の会見と個人の映像頼り。

8:団結心と“バルコニーポリス”  

バルコニーからの温かいエールと冷たい監視。

9:失業者救済スタート  

封鎖は間違いなく雇用を破壊する。

10:意外な封鎖下の需要  

不謹慎ではあるが……。ストレスの逃げ道。

11:WHOとEUへの失望

助言のみで実効策は打てず。

12:緩和か? 強化か?

封鎖生活の限界はいつ?

以上、封鎖期間が長引くにつれ新しいものが出て来たら追加していきたい。それではまた明日

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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