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試合取材から非常事態宣言までたった5日間。コロナ拡大で先の見えないスペイン(サッカー)

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
ベティス対レアル・マドリーが観客入りで行われた最後の試合になった(写真:ロイター/アフロ)

先週の日曜(3月8日)までベティス対レアル・マドリーを取材していたなんて、今となっては信じられない。当時はリーガが開催されるかどうか心配していたが、今はもうサッカーなんてどうでもいい。スペインでの日常から非常事態宣言まで、わずか5日間をカウントダウン式でお伝えしたい。日本の方にも参考になれば幸いだ。

※以下、感染者数はすべて政府プレスリリースによる。8日、9日、10日が15時現在。11日、12日、13日が13時現在。14日が17時現在

DAY 5(3月8日)感染者数589人

ベティスファンの満員すし詰めバスで実感したこと

グラナダの自宅を出てセビージャ行きのバスステーションに向かう途中、大通りから鳴り物とコールが聞こえる。世界女性デーのこの日スペイン全土で数十万人参加の大規模なデモが行われていた。マチスモ(男性優位主義)がはびこるこの国で、女性の権利をアピールするこのイベントは非常に大事なものだった。デモによる感染拡大を懸念する声もあったものの、左翼政権の与党はもちろん野党の保守党からも参加者が出た。

この日以降起こったことを考えればデモは中止されるべきだったが、政治的な思惑が勝った、ということだろう。失策は右翼、左翼を問わないのだ。

21時キックオフのベティス対レアル・マドリーは約5万人の観衆を集めた。6日のアラベス対バレンシアでは、コロナ対策で握手をせず肘をぶつけ合って挨拶という“茶番”(一方でペナルティエリア内のつかみ合い、ゴールセレブレーションでの抱き締め合いは自由なのだ)があったが、この夜の試合前セレモニーは通常通り、客足もいつも通り。

試合後スタジアムから宿まで勝利に気勢を上げるベティスファンで満員すし詰めのバスに乗り、さすがに心配になる。「屋外だから感染の可能性は低い」という意見はスタジアムまでの移動を考慮していない。感染を防ぐには無観客しかない、と実感する。

DAY 4(3月9日)感染者数999人(前日比+410人)

イタリアではアウト、スペインではOKの不自然さ

15時現在の999人は18時には1204人に達し、スペイン保健省は感染者数の多いマドリッド州とバスク州2都市を「ハイレベル感染地域」に認定。その2州での大学以下の教育機関の休校を決めテレワークやフレックスタイムを推奨するとともに、スペイン全土に衛生の徹底や不要不急の旅行を控えることなどを勧告。

これまで入国者に対して、行動制限や生活上の規制はあったが、国内に居る者に対するそれは今回が初めて。外部から侵入を食い止める水際作戦のフェーズから、国内での感染を食い止めるフェーズへ上がったことが、はっきりわかった。

夜EL(ヨーロッパリーグ)セビージャ対ローマ(12日)が無観客試合になることが発表される。通常開催をここまで引っ張ったのはイタリアのハイレベル感染地域は北部だけ(当時)でローマは対象外だったから。これでセリエAが無観客なのにスペインへ旅行すれば応援OK、という不自然で危険な事態が回避されることになった。

DAY 3(3月10日)感染者数1622人(前日比+623人)

実は、無観客も感染予防にはなり得ない!

政府は新たにラ・リオハ州を「ハイレベル感染地域」に認定し、同地域での1000人以上の集会を禁止(あの8日のマドリッドだけで10万人を集めたデモは何だったんだろう……)。イタリア発スペイン着の直行便について3月11日から25日までの間イタリアの全空港からスペインの全空港への直行便の運航を禁止した。夜スペインの三大祭りの1つ、バレンシアの火祭り中止が発表される。

サッカー関係では、午後政府がすべてのプロ・アマスポーツの国内・国外での試合を無観客で開催するよう要請。これを受け、ラ・リーガ(リーガエスパニョーラを組織する団体)が、第27節と第28節の無観客開催を発表した。

今週末はセビージャダービー(セビージャ対ベティス)があり取材するつもりだったが、無観客にはジャーナリストも含まれるので断念。20時第24節から延期されていたエイバル対ソシエダが初の無観客試合として開催される。21時CL(チャンピオンズリーグ)バレンシア対アタランタが無観客でキックオフ。バレンシア州政府の要請に反して、スタジアム周辺にはファン数百人が集結し気勢を上げる事態になる。無観客も感染拡大の有効な防止策になり得ないことが露呈する。

DAY 2(3月11日)感染者数2128人(前日比+506人)

ハイレベル感染地域の2800人がリバプールへ!

WHO(世界保健機関)がパンデミック宣言。ペドロ・サンチェス首相が国民の前に初めて登場し「困難な数週間がやって来る」、「この非常事態と戦うために必要なことは何でもする」と発言。首相の登場に危機感が高まり、マドリッドなどのスーパーからトイレットペーパーが消え始める。

サッカー関係ではレアル・マドリー、バルセロナを筆頭に各クラブが記者会見を中止するなどの感染対策を採り始める。翌12日にELインテル対ヘタフェを予定しているヘタフェ会長がイタリアへの渡航を拒否、さらにELセビージャ対ローマを予定したローマがスペインへの渡航を断念(前日に直行便の運航が禁止されているのだから当然だ)し、UEFA(欧州サッカー連盟)が両試合の延期を発表。スペインサッカー連盟が4月18日に予定されていたコパ・デルレイ決勝の延期を決める。リーガエスパニョーラも無観客試合ではなく延期にすべき、という機運が高まっていく

同じ頃、政府とクラブの反対にもかかわらず、CLリバプール対アトレティコ・マドリーを観戦に2800人のファンがリバプール入り。彼らの言い分は「旅費は支払済み。禁止されない限りは行く」

スペイン人は日本人と違って、なかなか上の言うことを聞かない。強制力の無いアドバイスレベルでのコントロールは限界になろうとしていた。

DAY 1(3月12日)感染者数2950人(前日比+822人)

放映権料もチーム内感染には勝てず。リーガ延期

政府が高齢者に公共交通機関の使用を避けるよう勧告し、公共の美術館や図書館などの閉鎖を決定。感染者が1000人を超えているマドリッドの州政府が同州封鎖の噂を打ち消す。イタリア元首相が「スペインは我われと同じ過ちを犯しては駄目だ。時間を失うな」と発言。トランプ大統領が欧州から米国への渡航禁止を発表した。

サッカー関係では、スペイン連盟とラ・リーガが第27節、第28節の延期を決定。無観客開催の予定だったが、レアル・マドリーのバスケットボール選手の感染が確認されてサッカーのチームの方も隔離状態に入り、延期を余儀なくされた。

売上的には、入場料の売り上げ抜きでも膨大な放映権料さえ入れば何とかやっていける。だが、チームに感染者が出れば監督、スタッフ、選手がすべて濃厚接触者と見なされるため即アウト。コンペティションはストップせざるを得ない。

今季の欧州サッカーカレンダーは6月開幕のEURO2020 (欧州選手権)があるため、空き日程がまったく無い。延期した分の代替日を見つけなければならないが、そんな先のことを考える余裕も無く延期。しかも、2週間だけの延期で済むとは誰も思っていない

DAY 0(3月13日)感染者数4209人(前日比+1259人)

非常事態宣言もやむを得ず。サッカー界完全停止

サンチェス首相が非常事態を宣言。これにより、政府は1.移動の制限、2.人と財産の徴用、3.工場など施設の利用、4.生活必需品とサービスの統制などを命じることができるようになる。今後はもうアドバイスではなく、命令であり罰則を伴う、というわけだ。

これに歩調を合わせるように、各自治州も次々と強制力のある措置を採ることになる。前日深夜に一部地区の封鎖を発表したカタルーニャ州に続き、バスク州とムルシア州も同様の措置を決定。感染者数が多くないムルシア州が海岸エリアを封鎖したのは、首都封鎖を恐れマドリッドからバケーション用別荘のある南部へ大量移動する人々を食い止めるため(同様の理由で翌14日には、アンダルシア州、ガリシア州、アストゥリアス州、カンタブリア州のリゾート地が次々と封鎖された)。WHOの「今や欧州が感染の中心地になった」という言葉には、グラシアス!という他ない

さすがに私も備蓄用の買い物に行ったが、アンダルシア州グラナダは感染者数が11日までゼロだったこともあり危機感が薄いのか、一部のもの(トイレットペーパー、消毒剤そしてもちろんマスク)を除き、在庫は十分で並ばずに買えた。

マドリッドで始まった飲食施設と商業施設の閉鎖はいずれ全国に波及するとみられるものの、スーパーマーケット、薬局、煙草屋、キオスクは封鎖中でも開いている。政府が必需物資の安定供給を保証したため、ごく一部を除けば買いだめ等のパニックは起きていない。これは非常事態宣言の良いところだろう。

こんな中、サッカー界は完全に停止した。UEFAは遅まきながら来週分のCLとELの全試合中止を発表したが、「やっとか」というのが正直なところ。スペイン連盟は各クラブへ練習中止を進言し、グラウンドからも人の姿は消えた……。

DAY-1(14日)感染者数6271人(前日比+2062人)

感染数増加は止まらず……

「感染者数は来週には1万人に達する」(サンチェス首相)。今は首相による非常事態宣言の詳細説明待ちの状態。明日以降のことについては、サッカーが完全に停止したためここではレポートできないかもしれないが、どこかで引き続き報告していきたい。

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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