アニメ「鬼滅の刃」のテレビ版「無限列車編」の放送がきょう10日の23時(午後11時)15分からフジテレビ系列でスタート。第1話の新作「炎柱・煉獄杏寿郎」から、12月5日放送開始の「遊郭編」へと展開します。これまでの流れを見る限り、よく練られた戦略でフジテレビの並々ならぬ意気込みを感じるところです。

◇ファンとテレビ局 双方が喜ぶ構図

 昨年、アニメ映画「無限列車編」の公開に合わせて、フジテレビで「竈門炭治郎 立志編」が放送されました。再放送にもかかわらず10%台の高視聴率をマークして大きな話題になりました。しかし、アニメファンのネットでの反応といえば、フジテレビがかかわったことに否定的な書き込みが目につきました。

 アニメ関係者は「フジテレビは、あるアニメで原作から筋立てを変更したのですが、うまくいかずファンの怒りを買ったことがあるのです。『鬼滅の刃』は、原作を忠実にアニメにして人気になっただけに、おかしくなることを恐れたのでしょう」と明かしました。要するに、「視聴率稼ぎ」でオリジナル要素などを入れてボリュームアップをしたり、作品の質を落としたりしないか……という懸念です。ボリュームアップは、過去のアニメでは使われた手ですね。

 そして「遊郭編」を12月に放送すると発表。合わせて、新作エピソードや、追加カットが盛り込まれた「無限列車編」が放送されることも明らかになりました。ある意味「ボリュームアップ」が図られたわけです。しかし、ファンは軒並み好意的に受け止めているようでした。

 ポイントは、ファンが納得する形でのボリュームアップだったことです。変なオリジナル要素を入れてしまえば、批判される可能性もあったでしょう。ですが、テレビ版「無限列車編」の第1話は、人気キャラの煉獄杏寿郎が、無限列車へと向かう道中の任務を描いた新作エピソードです。アニメ映画「無限列車編」で、悲しみのシーンが描かれた直後だけに、ファンが「もう一度会える」と反応したのは自然ですし、実に「うまい」タイミングでの発表だったといえます。

 大本命の「遊郭編」も2カ月待てば始まります。別の関係者は「現状は、フジの大勝利でしょう。世帯別視聴率21.4%をたたき出した『無限列車編』を再放送するのもコストパフォーマンスが良すぎます」という声もありました。

 「原作を忠実に」といいながらも、「鬼滅の刃」の新たな物語を潜在的には欲していて、テレビアニメに期待をかけているファン。視聴率の取れる番組である以上、少しでも話数がほしいテレビ局。見せ方がしっかりしているという前提条件があってこそですが、双方が喜ぶ構図です。

◇グーグルトレンド 9月に再び上昇

 そしてフジテレビも9月から、さまざまな番組で「鬼滅の刃」関連の企画を用意し、番組の宣伝にかなり力を入れています。「グーグルトレンド」を見ると、その効果は一目で分かります。

 「鬼滅」のワードは、2019年春のアニメ放送序盤では1ケタ台でしたが、人気を受けて右肩上がりに。アニメ終了後も伸び続け、新型コロナの流行の2020年2月や原作マンガの最終回を迎えた5月ごろには「40」を超えました。

 そこから一度「20」を割りますが、2020年10月のアニメ映画「無限列車編」の公開直後はピークの「100」に。2021年春すぎには「10」台まで落ちましたが、9月に入って再び上昇。「無限列車編」の地上波初放送の週には、「50」近くになりました。

 昨年10月はワイドショーが「鬼滅の刃」のヒットを取り上げた時期です。要するに、今年の9月も含めて、テレビ局が大きく動いたところで急上昇しています。もちろん今後の動きも注目でしょう。

グーグルトレンドで「鬼滅」のワードを検索。アニメ映画の放送がピークの100で、9月のテレビ放送でも大きく跳ね上がっているのが分かる。
グーグルトレンドで「鬼滅」のワードを検索。アニメ映画の放送がピークの100で、9月のテレビ放送でも大きく跳ね上がっているのが分かる。

◇第1話が「試金石」に

 フジへの批判のトーンがダウンしたのは、今年9月のフジテレビの改編会見で、「鬼滅の刃 遊郭編」について言及したタイミングでしょうか。テーマ性の深さを考慮し、内容は変えない形で放送すると明言してからですね。アニメファンも一安心したと考えるのが自然です。

 もう一つ言えば、こんな話も影響したかもしれません。9月25日に放送された「無限列車編」について、一部のファンの間で、同作は本当にノーカットなのかという“疑惑”が持ち上がりました。「炎柱」の煉獄杏寿郎の登場シーンで、アニメ映画に比べて、テレビ放送版は、炎の演出が少ないという指摘があったのがきっかけです。

 ファンが集まり、テレビ版とDVD版を比べると「長さ」は同じで“疑惑”は解消しました。続いて「炎が減った理由」について、日本放送協会と日本民間放送連盟が公開している「アニメーション等の映像手法に関するガイドライン」に沿っているのでは?という推測がでました。

映像や光の点滅は、原則として1秒間に3回を超える使用を避けるとともに、次の点に留意する。

(1)「鮮やかな赤色」の点滅は特に慎重に扱う。

(2)避けるべき点滅映像を判断するにあたっては、点滅が同時に起こる面積が画面の1/4を超え、かつ、輝度変化が10パーセント以上の場合を基準とする。

(3)前項(1)の条件を満たした上で、(2)に示した基準を超える場合には、点滅は1秒間に5回を限度とし、かつ、輝度変化を20パーセント以下に抑える。加えて、連続して2秒を超える使用は行わない。

2.コントラストの強い画面の反転や、画面の輝度変化が20パーセントを超える急激な場面転換は、原則として1秒間に3回を超えて使用しない。

3.規則的なパターン模様(縞模様、渦巻き模様、同心円模様など)が、画面の大部分を占めることも避ける。

【引用】アニメーション等の映像手法に関するガイドライン

 これは、その通りでしょう。それにしても、炎の演出の変更に気付いた人も、結論にたどり着いた人もすごいとしか言いようがありませんし、ファンの真剣度の表れです。なおせっかくなので、フジテレビの広報局広報推進部に、この推測が正解なのか質問してみました。

今回「鬼滅の刃 無限列車編」をテレビ放送するにあたり、ガイドラインに沿って考査した結果、有志の指摘通り一部映像を編集した……という理解でよいか。

 フジテレビの回答は以下の通りでした。

 放送に関連するガイドラインに沿って制作頂いております。

 詳細に関してはお答えしておりません。

 詳細は触れなかったものの、推測を否定せず、ガイドラインに沿って考査していることを改めて明確にしました。要するに映画やDVDをそのままテレビで流さないわけです。有志の間でこの結論が出た後、好意的な捉え方をする人が目立ちました。

 ここまでは理想の流れです。そしてきょう23時15分に放送されるテレビアニメの視聴率にまず注目でしょう。本番は12月の「遊郭編」とはいえ、今夜の第1話の放送は「試金石」になります。

 視聴率はあくまで指標の一つにすぎませんが、アニメのパワーを示すためにも、好成績を残してほしいものです。