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スクエニHD特損221億円計上で分かること そうでないこと 「ドラクエ12どうなる?」の声は…

河村鳴紘サブカル専門ライター
(写真:西村尚己/アフロ)

 スクウェア・エニックス・ホールディングス(スクエニHD)が4月30日、まもなく発表される2024年3月期の連結決算で、約221億円のコンテンツ廃棄損を特別損失として計上すると発表し、ゲームファンの間で話題になっています。特に「HDゲームタイトルの開発方針の見直し」という言葉に反応してか、私の元にも「開発中の『ドラゴンクエスト12』はどうなるのか?」という問い合わせがありました。現状から分かることを考えてみます。

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 まず今回の発表について、ネットでは「開発を見直したゲーム名が分からない」などといったニュアンスの指摘がありますが、それは無理な話です。同社からは、現時点で詳細を言えない明確な理由があります。

 スクエニHDはゴールデンウイーク明けの5月13日に決算発表を控えていて、現在は「沈黙期間」です。このルールに従わないと、企業側が責められるのです。今回のような「特別損失の計上に関するお知らせ」は例外です。第三者が推測するのは自由ですが、「沈黙期間」のことを理解していないとおかしなことになります。

5. 沈黙期間
当社は、決算情報の漏洩を防ぎ、情報開示の公平性を確保するため、各四半期の決算発表日前3週間を沈黙期間としています。沈黙期間中は、決算に関する質問への回答やコメントを差し控えております。ただし、沈黙期間中であっても、業績予想を大きく外れる見込みが出てきたときには、適時開示規則に従い、適宜情報開示を行います。
ディスクロージャー・ポリシー(JPX)

 そしてリリースにある「コンテンツ制作勘定」とは、ゲーム開発の売上原価にあたる……要するに開発経費です。従ってゲーム開発の体制を見直せば発生するのですが、逆に言えば、見直さなければ発生しませんし、極端に言えば「先送り」にして、黙っていることもできます。

 今回のような巨額の特別損失を計上するのは、損失に耐えられる強固な経営基盤があるからできること。同時に、情報開示の透明性を図る意志の表れです。そしてスクエニHDは昨年に新社長が就任し、改革をしやすい事情もあるでしょう。

 今回の特損を受けて、ネットの評価はよろしくないようです。ヤフートピックスでも「スクエニHD特別損失221億円 波紋」として、記事が取り上げられました。「波紋」というのは、「次々と周囲に動揺を与える影響」などという悪いニュアンスの意味です。

 しかし株式市場の反応は逆です。今回の巨額の特損計上で悪材料がなくなり、来期以降の業績を期待してか株価が跳ね上がりました。このパターンの株価上昇は「あるある」で、予想通りでした。それは同社の持つ「ドラクエ」「FF」などのコンテンツの強さが、評価されている……とも言えます。「ドラクエ、FFに依存しすぎ」というのは、一つの評価でしょう。ただし、同時にそれは「エース」がいる(しかも2シリーズ)という絶対的な強みがあるとも言えます。

スクウェア・エニックス・ホールディングスの株価。4月30日の発表を受けて、翌日の5月1日に一気に株価が跳ね上がったのが分かります。
スクウェア・エニックス・ホールディングスの株価。4月30日の発表を受けて、翌日の5月1日に一気に株価が跳ね上がったのが分かります。

 それは「特別損失」という言葉の意味もあると思われます。会計の言葉もそうですし、専門用語にある話ですが、日本語として考えるとおかしくなるので、よく「記号のようなもの」という言い方をされます。「特別損失」というと「損失があるから大変だ」と考えがちですが、株価が上がったようにそうではないこともあるわけです。会社の規模、仕組みなど全体的なことを見て判断することが大切で、うっかりすると経営の実態を見誤るので、注意が必要です。

 今回の特損を受けて「ドラクエ12はどうなる?」という質問には、現時点ではそこまで答えるのは材料がなさすぎて無理がありますし、GW後の決算発表で質問をすれば済む話。繰り返しますが、現在は「沈黙期間」なのです。私も同社の広報室に「今回の件の特損の詳細はどうなのか」と、(無理を承知の上で)質問すると「現時点ではリリースのことがすべてです」という回答がありました。

 それでも「そんな原則論は良い。推論でもいいから教えて」と言われる人もいるでしょう。個人的な意見を言えば、「ドラクエ12」など制作を発表した大型タイトルの発売に向けて重大な問題が判明しているのであれば、それ単体で速やかに発表をしないと、そちらの方が投資家への「裏切り」です。なぜなら投資家は、そうした大型タイトルのヒットに期待をして株式を保有しているからです。コンテンツ開発には失敗がつきものですが、情報開示をしないのは怠慢と言われても仕方ありません。何より、株式市場の信頼も損なわれます。

 もちろん実際は情報が開示されないとわからないこともあるのですが、今回の特損発表だけで具体的な大型タイトルの名前を挙げるのは、さすがに……と思うのです。そもそも、2021年5月にタイトルの存在が発表された「ドラクエ12」ですが、そこで開発者を募集していたぐらいですし、現時点でも発売時期、対応ハードのいずれも明らかになっていません。

 もちろん外部には未発表であっても、内部的には予算・スケジュールが組まれているでしょうし、「ドラクエ」シリーズは、何かと発売延期をする傾向にありますが、かといって半端なものを出すわけにもいきません。そこも踏まえ、スケジュールよりもゲームの質を優先し、開発していると予想しています。

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 ともあれ、巨額とは言え特別損失の発表で、これだけ話題になるということは、人気タイトルを保持する同社の人気の裏返しとも言えそうです。

サブカル専門ライター

ゲームやアニメ、マンガなどのサブカルを中心に約20年メディアで取材。兜倶楽部の決算会見に出席し、各イベントにも足を運び、クリエーターや経営者へのインタビューをこなしつつ、中古ゲーム訴訟や残虐ゲーム問題、果ては企業倒産なども……。2019年6月からフリー、ヤフーオーサーとして活動。2020年5月にヤフーニュース個人の記事を顕彰するMVAを受賞。マンガ大賞選考員。不定期でラジオ出演も。

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