マンガやアニメが社会的ブームとなった「鬼滅の刃」。年内放送予定の新作アニメ「遊郭編」の放送時間が全国フジテレビ系列で日曜日の23時(午後11時)15分になることが決まりました。実はこの放送時間には、大きな意味が三つあります。

◇「23時台」は期待の表れ

 一つ目は、視聴率が問われる時間帯に決まったことです。新アニメの多くは、視聴率の競争とは無縁の深夜アニメです。そして「深夜」からの脱出を強く希望しながら果たせなかったアニメも存在するほど、「深夜アニメ」と普通のアニメには、扱いの差が厳然とあります。視聴率という視点で見ると、ジブリなど一部の例外を除いてアニメの信用度は高いとは言えません。

 国民的アニメでさえ例外ではなく、「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」も視聴率の苦戦から枠移動を強いられました。今回の視聴率の結果次第ですが、「鬼滅の刃」で「今の時代のアニメでも視聴率は取れる」ということになれば、アニメへの見方が変わる可能性もあります。

 キー局関係者は「今の時代、アニメがキー局の23時(午後11時)に定期放送されるのは『すごい』の一言」と明かしました。アニメ制作関係者も「再放送の視聴率が高い実績があるからにしても、正式に決まると改めて驚く」と説明しています。なお「遊郭編を原作通りにアニメにするなら、さすがにゴールデンはないと思っていた。23時というのは良い時間だと思う」(出版関係者)という意見もありました。

 いずれにせよ「23時台」という放送時間そのものが、期待の表れです。

◇視聴者には見えない局の覚悟

 二つ目は、テレビ局の改編会見で、作品に対してメッセージを出すほどの扱いを受け、その覚悟を示したことでしょう。かつて会見に参加していた立場から言わせてもらうと、クールごとの改編会見でメインになるのは、視聴率が取れて全世帯の知名度が高いドラマやバラエティー、ニュース番組です。

 要するにアニメは“脇役”扱いなのです。ゆえに「鬼滅の刃」の扱いは、明らかに他のアニメとは違うのです。

同局の中村百合子編成部長は放送枠については「内容を考慮した時間ではなく、あくまでもタイムテーブルを考慮した総合的な判断で設定」と説明。「テーマ性の深さを考慮し、内容は変えない形で放送する予定」とした。

フジテレビ「鬼滅の刃」アニメ新作「遊郭編」秋・冬スタート 日曜夜特別編成「内容は変えない形で放送」(日刊スポーツ)

 そもそも本来はここまで「変えない」などと言わなくてもいいはずです。アニメはどれだけ原作に忠実といっても、原作の描写してない行間をくみ取り、違和感ないレベルで表現するのが腕の見せ所の一つです。それをわざわざ言及するあたり、視聴者への明確なメッセージと言えます。

 ちなみに遊郭編の放送時間帯を早めるには、懸念される描写に手を入れる手段もあったでしょう。しかしそれは作品の魅力を削ぐ可能性がある上に、手加減するような「手入れ」は気付かれるもので多くのファンの怒りを買うのも確か。とはいえ、影響力のあるキー局だからこそ、残虐描写をはじめ内容のチェックは必須です。そしてキー局が放送するからこそ、強力な宣伝の後押しもあって視聴者が増えるわけです。

 少し古い話ですが、2003年にMBS・TBS系で全国放送されたアニメ「鋼の錬金術師」では、人体錬成時の人の体をバラバラにした描写をどうするかが制作時に議論になりました。悩んだ末の結論は「批判を受けることを覚悟して描く」で、その覚悟もあってかアニメは人気となり、土曜日6時としては高い平均7%の視聴率をマークしました。どこまでを許容し、止めるかは大切なこと。それだけに「内容は変えない予定」という発言に覚悟を感じます。視聴者には見えないところでの苦労があるのです。

 23時台であれば、それなりに深い時間です。原作マンガを忠実に再現して、アニメの表現がある程度ハードになっても、局としても許容できるという判断なのでしょう。また求められる視聴率のハードルも低くなります。そう考えると、絶妙の放送時間ではないでしょうか。

 近年は、若い層を取り込む「コア視聴率」が注目されていますが、老若男女を問わず人気の「鬼滅の刃」は、全世帯視聴率の獲得も求められます。何せアニメ映画の興行収入は400億円以上で、ブルーレイ・ディスクとDVDの初週販売数は130万枚以上。テレビアニメの再放送は10%台をキープした社会現象になった作品のシリーズ最新作です。「期待するな」というほうが無理でしょう。

◇唯一の死角は「大きすぎる期待値」

 最後のポイントは、唯一の死角をあえて挙げたいと思います。それは「大きすぎる期待値」です。

 「鬼滅の刃」が秋アニメの「大本命」……競馬のオッズに例えれば単勝1.0倍の「元返し」レベルであることに異論を唱える人はいないでしょう。作品の出来は良くて当たり前。高い視聴率も求められ、再度の社会現象クラスの話題性になることも期待されているわけです。

 ゆえに関係者もファンも「普通のヒット」で満足するか……といえば、難しいところです。作品への忠誠心の高い熱烈なファンは、状況に関係なく懸命に応援するでしょうが、常に面白いものを探して“浮気”する世間がどこまで盛り上がるかは未知数です。狙ってできることではなく、上がったハードルを越えることは並大抵ではありません。

 もちろんそれが杞憂に終わる可能性もあります。23時台とは思えないような高視聴率がでる可能性も十分に秘めているでしょう。

 ポイントは第1話です。「話題作り」に成功すれば、大手メディアを中心にこぞって取り上げ、ワイドショーでも大きく取り上げるなどするでしょう。そうなれば、アニメ映画のときのように、またまた社会の注目をかっさらう展開もありえます。こればかりはふたを開けてみないとわかりませんが、「全集中」して注目したいところです。