安倍首相土下座像 日本人ヘイトか「表現の自由」か 米ロサンゼルス“旭日旗”壁画問題はどう解決したか

慰安婦像の前で土下座する、安倍首相を彷彿させる男性の像。(写真:ロイター/アフロ)

 韓国にある私営の植物園で、慰安婦像の前に、安倍首相と思しき男性が跪いて土下座している像が設置されたことが問題となっている。これに対し、菅官房長官は「国際儀礼上、許されない。報道が事実なら日韓関係に決定的な影響を与える」と表明し、韓国外務省も「外国の指導者に対して国際儀礼を考慮する必要がある」と発表した。

 SNS上では、像設置は日本人に対するヘイトなのか、「表現の自由」なのかという議論が起きている。

コリアタウンに“旭日旗”様の壁画

 この問題で、筆者が思い出したのは、ロサンゼルスのコリアタウンで起きた、ある壁画をめぐる論争だ。

 2018年12月、コリアタウンにある「ロバート・ケネディ・コミュニティー・スクール」という学校のジムの外壁に、アーチストのボー・スタントン氏が描いた壁画が旭日旗を彷彿させるとして、コリアタウンの韓国人団体が壁画を撤去するよう抗議運動を起こした。以下がその壁画である。

ロサンゼルスのコリアタウンにある学校の外壁に描かれた壁画。韓国人団体が“旭日旗”を想起させると壁画撤去を求めたが、結局、撤去には至らず、解決に至った。写真:www.npr.com
ロサンゼルスのコリアタウンにある学校の外壁に描かれた壁画。韓国人団体が“旭日旗”を想起させると壁画撤去を求めたが、結局、撤去には至らず、解決に至った。写真:www.npr.com

 ちなみに、この学校は、ロバート・F・ケネディが1968年に暗殺されたアンバサダーホテルの跡地に建造された。壁画中央に描かれている女性は、アヴァ・ガードナーというハリウッド女優で、彼女は、同ホテルにあったココナッツ・グローブというナイトクラブの常連だった。壁画はナイトクラブへのオマージュとして描かれたものだった。ガードナーの背景には赤みがかったオレンジと青の光線が描かれているが、これが、旭日旗を彷彿させると韓国人団体は以下のように訴えた。

「ナチスの旗をユダヤ人居住区に置くようなものだ」

「第二次世界大戦時の痛みを蘇らせる」

「ヘイト、侵略、人種差別、帝国主義の象徴だ」

 これに対し、壁画を描いたスタントン氏は「壁画に政治的意図はない。光線の数、色、太さは旭日旗と異なる。私は光線というモチーフをよく取り入れている」と言って反論した。確かに、同氏のサイトにある作品を見ると、光線のようなモチーフが数多くの作品に採用されている。

 ロサンゼルスの学校システムを統括しているロサンゼルス統一学区は、韓国人団体の抗議に押されて、壁画を撤去すると発表した。

JFKは検閲を嫌悪

 しかし、これに対し、検閲の脅威から「表現の自由」を守ることを目的としている「全米反検閲連盟」やアーチストたちが異を唱えた。中でも、声を大にしたのが、同じ学校の壁にロバート・F・ケネディの肖像画を描いたアーチストのシェパード・フェアリー氏だった。ちなみに、フェアリー氏は、バラク・オバマ氏の大統領当選記念のポスター「HOPE」を描いたことで知られている。同氏は「スタントン氏が描いた壁画を撤去するなら、私が描いたケネディの肖像画も撤去させる」とまで言って、壁画の撤去に反対した。

 フェアリー氏が壁画の撤去に反対したのは、学校の名前にもなっており、彼が肖像画を描いたロバート・F・ケネディの考え方に反するという理由からだった。ロバート・F・ケネディの息子、ロバート・F・ケネディ・ジュニアも、ロサンゼルス統一学区に書簡を送り、壁画を撤去しないよう求めた。

 以下はその書簡からの抜粋だが、壁画撤去に反対する理由が述べられている。

「政治的目的のための芸術破壊は、扇動家や暴君のとっておきの武器であり、ファシスト政府にとって不朽のエンブレムだ。

 第二次大戦前、ドイツと日本のファシスト組織は、本やアートを燃やす活動を組織化して、不寛容と偏見に根ざした憎悪を賛美するキャンペーンを行い、種族主義という最もダークな欲求を結集した。

 これらの政権による死を引き起こす蛮行は、韓国を含む隣国を残忍な目にあわせ、私自身の家族にも及んだ。父は、兄と義兄をナチスとの戦争で失い、叔父のジャック(J.F.ケネディ元大統領のこと)は乗っていた魚雷艇が駆逐艦「天霧」に撃沈されて、負傷した。

 1961年1月、当時7歳だった私は、駆逐艦「天霧」の艦長だった花見弘平と、叔父の大統領就任式で握手した。叔父は、元敵と和解したことを示すために彼を招いたのだ。

 父は文化に思いやりを示していた。しかし、父は、アメリカ民主主義の中心にある岩盤教義は言論と表現の自由だと理解していた。父と叔父は、寛容と多様性を強く支持したのと同じくらい、検閲も強く嫌悪していた。

 スタントン氏の壁画を撤去することは、父と父のファミリーが信じた、民主主義、理想主義、恐れることのない表現の自由というアメリカの伝統の中心となっている価値観に反するものだ。

 父と叔父たちは、政治的アジェンダのためにアートを破壊する人々は最悪のならず者だと考えていた」

 ケネディ家のメンバー以外にも、壁画は不愉快ではないと考える韓国人コミュニティーの人々も撤去に反対。また、韓国系アーチストたちは、壁画は撤去されるか手直しされるべきだと訴えた。

見出された妥協点

 ロサンゼルス統一学区は、壁画撤去を保留にして、様々な関係者らと話し合った。

 その結果、結局、どうなったのか?

 スタントン氏は問題の壁画に修正を加えるということで、韓国人団体と妥協点を見出したのだ。スタントン氏は、壁画を撤去するかしないかという二者択一の解決方法ではなく、学校側や韓国人コミュニティーの人々、学生たちと何ヶ月にも渡って話し合いをする中で、彼らの意見や懸念をインプットして、オリジナル作品に変更を加えることにした。スタントン氏は、LA Timesに対して、

「学校の学生チームと密接に取り組むことで、オリジナル作品の一部となるようなコンセプトやイメージを発展させようと考えている。オリジナルの壁画をベースに、絵を追加して、歴史的な層のある都会的な壁に変えることを提案している」

と話している。

 スタントン氏が進んでコミュニティーの人々と話し合って妥協点を見出したことで、ロサンゼルス統一学区は、韓国人団体とアーチストたちの間で板挟みされていた状態から解放された。

「話し合いに参加したすべての人々が、両極端の考え方に対して自らの意見を述べ、すべての人々の見方に耳を傾けた。みなが一緒に学ぶ素晴らしい経験になった」

とロサンゼルス統一学区側は意義ある話し合いが行われたことに言及した。

 もっとも、今回の“土下座像”問題は、政治的意図の点で、“旭日旗”壁画問題とは全く異なる。“旭日旗”壁画には制作者であるスタントン氏の政治的意図は全くなく、スタントン氏があくまでアート作品として制作したものだ。しかし、それが見る人によっては“旭日旗”を想起し、不快感を覚えるわけである。一方、土下座像には制作者は否定しているものの政治的意図があからさまに感じられる。しかし、そこに政治的意図があったにしろなかったにしろ、“表現の自由”という観点からすると、両者とも”表現の自由”は守られていいはずだ。

 スタントン氏も“表現の自由”を守ることはできたかもしれない。しかし同氏は、壁画を撤去はしないものの壁画に修正を加えるということで韓国人団体と折り合いをつけた。彼らが「政治的意図がないことはわかるが、人々を不快な気持ちにさせ、心を傷つける“表現の自由”はリスペクトされるべきではない」と強く訴えていた気持ちを汲んだのだろう。

 しかし、今回の土下座像にしても、慰安婦像にしても、“旭日旗”壁画にしても、結局のところ、背後には歴史問題という、韓国の人々にとって心情的に解決できない問題が今も横たわっていることを示している。その根本的問題が解決されないことには、今後も像が作られ、日本側が抗議するという繰り返しになるのではないか。

 ロサンゼルスで起きた“旭日旗”壁画問題は、アーチストがコミュニティーの人々など様々な関係者と時間をかけて対話し、解決法を編み出したことに大きな意味がある。対話による解決。それは日韓関係に今、最も欠如していることであり、日韓が学ぶべきことだろう。

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