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「GSOMIA破棄を誘発したのは日本」米著名専門家 戦略物資の管理評価は韓国17位、日本36位

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
GSOMIA破棄に失望する米政府をよそに、日韓対立の様子見を続けるトランプ氏。(写真:ロイター/アフロ)

 日本政府は28日、ホワイト国から韓国を外す政令を施行した。

 一連の日韓の対立について、トランプ氏自身は様子見を決め込んでいるが、米国政府は日韓対立の現状が見ていられないようだ。米国政府内からはGSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)を破棄した韓国に対する失望の声が次々と上がっている。

 米シュライバー国防次官補は「韓国に即座にGSOMIAに戻るよう求める」と破棄を撤回するよう要求した。

 エリオット・エンゲル米下院外交委員長も「地域の安全保障の脅威に対する共通の理解を高めるために締結したGSOMIAを、文大統領が終了する決定をしたことを深く懸念する」という声明を発表。

 度重なる北朝鮮の短距離ミサイル発射が続き、香港のデモも収束しない今ほど東アジアの安全保障が重要な時はないのだから、失望の声が上がるのは当然と言える。

日韓は短期的取り決めを

 韓国政府に不信感を募らせる米国政府。

 どうすれば、米韓の対立を解決することができるのか?

 米国の著名国防専門家ハリー・カジアニス氏は、自身が編集主幹を務める国際情勢専門誌ザ・ナショナル・インタレストで、少なくとも短期的な解決策を見出す重要性を訴えている。

「最近の対立はエスカレートしているものの、核となる問題は何十年も前に起き、日本帝国主義に対する怒りと憤慨という感情に深く関わっている。(日韓が)完全に和解するには、日本政府が態度を変更し、韓国が(日本の)過去の犯罪を許すことが必要になる。従って、長期的解決策が見つかるまでは、交渉による短期的取り決めを、近い将来の日韓関係の活力にしなければならないだろう」

 つまり、歴史問題を解決するには時間がかかるから、とりあえずは交渉して目の前にある問題を解決してほしいと訴えているのだ。

日本政府が最初のステップを踏んだ

 目の前にある問題とは、言うまでもなく、GSOMIA破棄という安全保障の問題である。カジアニス氏はその問題を誘発したのは、証拠もないのに韓国をホワイト国から外す動きに出た日本政府だと指摘している。

「日韓両国は緊張をエスカレートさせる行動を取ったが、日本政府が争いを国家安全保障という領域に引き入れる最初のステップを踏んだことに注目することが重要だ。日本政府は韓国の最高裁の判決と韓国をホワイト国から外したことは関係ないとしているが、“韓国が戦略物資(武器開発に転用される恐れのある物資)を適切に管理していない”という日本政府の主張を裏づける証拠はほとんどないのだ」

戦略物資の管理では韓国が日本より上

 カジアニス氏が“裏付ける証拠がない”というのはうなずける。

 証拠がないどころか、韓国の方が、日本よりも戦略物資の管理を徹底して行っているようだ。

 以下のデータを見てほしい。

 米のNPO、Institute for Science and International Security (ISIS)が、今年5月に発表した、200カ国の戦略物資の貿易管理システムの評価結果だ。それによると、韓国は17位であるのに対し、日本は36位と、韓国のシステムの方が高評価されている。ちなみに1位はアメリカで、イギリス、スウェーデン、ドイツがそれに続いている。最下位は、いわずもがな、北朝鮮である。

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ISISが200カ国の戦略物資の貿易管理システムを評価したところ、韓国が17位で日本が36位と、韓国の方が管理を徹底していることがわかった。出典:ISIS-ONLINE
ISISが200カ国の戦略物資の貿易管理システムを評価したところ、韓国が17位で日本が36位と、韓国の方が管理を徹底していることがわかった。出典:ISIS-ONLINE

アメリカがベビーシッターに

 そして、カジアニス氏は、今は、アメリカ政府が介入する時であると強調。

「争いは日韓の歴史的な怒りが根にあることは明らかだが、アメリカが完全にこの争いから逃げ、両国に解決を委ねるのは間違いだろう。実際、“ベビーシッター”という形で調停者になりうる米国政府の役割を放棄することは大きな間違いだ。役割を放棄することは、米国政府が日韓の最初の合意を仲介する重要な役割を果たしたという事実を見落とすことになるからだ。今はアメリカが介入する時だ。それが、立て直すのに何年もかかりそうな日韓関係へのさらなるダメージを食い止める唯一の方法だ。そうしなければ、米国の2つの同盟国はさらに決裂し、中国と北朝鮮を利することになるだけだ」

1965年に“日韓という子供”を合意に導いたのは “アメリカという親”だ。だから、“アメリカという親”は“日韓という子供”のケンカに責任を感じているのか。いや、いまだに、ベビーシッター、子守りをしなければならない未熟な“日韓という子供”に、ほとほとあきれているというのが本当のところかもしれない。

兄としての譲歩とは

 ところで、日韓をアメリカという親の子供とした場合、兄が日本で弟が韓国だろうか? アメリカという親が仲裁に入ったとしても、兄弟ゲンカはどちらかが先に譲歩の姿勢を見せなければなかなか収まるものではない。

 兄として日本は譲歩できることがあるのか? 米国のある外交関係のエキスパートが筆者にこう話してくれた。

「日韓の対立は双方にダメージを与えています。両国が互いに譲歩して、関係を改善してほしいと思います。そのためには、信頼関係を構築することが重要ですが、例えば、日本は韓国に対する輸出規制措置を取りやめてもいいのではないでしょうか? そうすれば、韓国も譲歩してくれるかもしれません」

 不信で始まった対立は、相手と信頼関係を構築することで解決せよということだろう。

 そして、カジアニス氏が指摘しているように、GSOMIA破棄という大問題に発展した争いの刀を最初に抜いたのが日本政府であるとするなら、最初に刀を収めるべきは日本政府ということなのか?

 もっとも、日本政府はいうだろう。日本が抜いた刀は小さいと。輸出規制措置や韓国のホワイト国からの除外により韓国が受ける影響は極めて限定的なのだと。しかし、この場合、韓国にとっては措置による影響の大小は問題ではないはずだ。グループAからグループBに格下げされたことは、国としての信頼度が落とされたことを象徴している。それが問題なのだ。つまり、ホワイト国外しはそれによる影響の大小より、信頼度が落ちたことを示すシンボリックな意味合いが強い。

 弟は自分を信頼しなくなった兄に怒りを感じ、GSOMIA破棄という兄より大きな刀を抜いたのだろう。

 日本は、兄としての本領をどう発揮するのだろうか?

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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