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「正気の沙汰ではない」「日韓は低レベルの経済戦争に引き込まれている」米紙、日韓の紛争を批判

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
現在起きている日韓の経済戦争は結局のところ歴史問題に起因するという声が多い。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 激化する日韓の対立。アメリカのメディアは泥沼化する両国の関係をどう見ているのか? 主要紙の報道に注目してみた。

低レベルの経済戦争

「日本と韓国は低レベルの経済戦争に引き込まれている」

という見出しで、日本が韓国との貿易関係を武器にしていることを問題視したのは、8月1日付けワシントン・ポスト電子版だ。この記事は、韓国企業に対して軍事用の商品の輸出を厳格化する日本の措置を例にあげ、サプライ・チェーンを通した相互依存関係が、相手国を威圧して政治的優位を得るために利用されている状況が今世界で起きていると指摘している。

 また、「日本と韓国の争いは貿易ではなく、政治をめぐって起きている」と主張しており、記事内では、

「両国の争いは、日本の韓国に対する歴史的態度をめぐって、両国が長年一致しない考えを持っていることに端を発する。化学製品の輸出制限は、安全保障上正当であると言われているが、一般的には、判決(韓国大法院(最高裁)が元徴用工らへの賠償を日本企業に命じた判決)に対する報復であると考えられている」

と争いの原因を徴用工問題などの歴史問題に見出している。

正気の沙汰ではない

 8月4日付けニューヨーク・タイムズ電子版も歴史問題が背後にあるという見方だ。同紙は、

「現在、日韓で起きている分断は、貿易問題と同じくらい痛ましい歴史問題が背後にある。日本統治時代の傷がまだ完全には癒えていないのだ。韓国は、日本は戦争中にした残虐行為の謝罪を十分にしていないと主張しているが、日本は法的にも政治的にも十分に償ってきたと主張している」

とし、日韓の争いがコントロール不能になっている現状について、

「全く正気の沙汰ではない。両国はたくさんのエネルギーを争いに転じている」

という南カリフォルニア大学コリアン研究協会ディレクター、デビッド・カン氏の発言を紹介することで批判している。

歴史問題に起因

 国際情勢にフォーカスした専門誌ナショナル・インタレストもまた日韓の経済戦争は歴史問題に起因していると指摘。

「(日韓の)最近の非難合戦は特に辛辣だが、歴史的な不満が何十年にもわたって日韓を苦しめて来た」とし、「歴史に根ざす大きな不満は、すぐ、簡単には解決しないだろう。しかし、迅速に高まっている危険を考えると、今は負のスパイラルに歯止めをかける時である」

と警鐘を鳴らしている。

 安倍政権は、韓国をホワイト国から除外したのは純粋に輸出管理強化上の理由からであると主張しているが、いくらそう主張したところで、世界はそうは思っていないのだ。結局は、慰安婦問題や徴用工問題などの歴史問題に起因すると考えているのである。

貿易を武器にする動きは危険

 歴史問題に起因しているとしたら、日韓はそれにどう対処すればいいのか? 

 ナショナル・インタレスト誌は、安倍政権にこう提言する。

「安倍政権は、貿易の緊張に歯止めをかける手段を講じるべきである。(貿易とは)無関係な争いを解決するための手段として貿易を武器にする動きが、近年、高まっているが、そんな動きが正常化することは危険な潮流だ。日本政府は輸出管理は単に安全保障上の措置であると主張しようとしているが、記者たちに送られたメールの中には、強制労働問題に関して起きた紛争に関するファクト・シート(情報を記載した報告書)も添付されていた。日本政府は経済的弾圧を交渉のテーブルから外し、歴史問題に対処するための他の方法を模索すべきだ。公式ルートやトラック2外交(民間研究機関と大学の研究者を中心とする民間外交)を通した対話が、歴史問題に対処するはるかに良い方法だ」

と歴史問題を貿易を武器にすることなく対話で解決せよと主張している。

反日カードを使うな

 また、文政権に対してはこう提言している。

「韓国ももちろん、状況をエスカレートさせないよう、役割を果たさなければならない。ムン大統領は高まる国家主義を抑制するためにリーダーシップを示すべきであり、反日カードを使うべきではない。さらには、韓国政府は、徴用工判決をめぐる紛争を解決するために仲裁委員会を使うという日本政府の提案など、日本との関係修復のためにできることを真剣に考慮しなければならない」

と反日カードを使わず、仲裁を通して解決すべきだと主張している。

新たな合意で乗り越える

 “日韓は新たな合意を結ぶことで、今の紛争を乗り越えられる”というポジティブな声もある。ポモナ・カレッジ政治学准教授のトム・リー氏はワシントン・ポスト電子版で、

「日韓は合意書を作成し、それを通じて、国民を教育し、過去の謝罪を認め、54年にわたる相互依存を重視するのです。そして、平和への誓いを新たにする記念行事を設けるのです」

と提案している。

アメリカの国家主義が伝染

 先のニューヨーク・タイムズ電子版はまた、日韓の指導者が国家主義的感情をかきたてている状況を指摘し、そんな状況を世界に伝染させているのはアメリカであるという見方もしている。トランプ政権の元アメリカ合衆国国務次官補(東アジア・太平洋担当)スーザン・ソーントン氏が以下のように発言しているのだ。

「今は、国際社会の指導者たちが自国の政治的アジェンダに固執し、世界のリーダーシップをとるために進んで歩み寄ろうとしたり、何かを犠牲にしたりしようとしない時代です。アメリカの場合、特にそうですが、残念ながら、なにかしらそれが伝染しているようです」

 しかし、国家主義的感情を伝染させたと指摘されたトランプ氏自身は、対立を激化させている日韓に対して、積極的な動きに出ていない。

 そのため、ジョージ・W・ブッシュ政権下、アメリカ国家安全保障会議のスタッフとしてアジア上級部長を務めたマイケル・グリーン氏は、同電子版で「トランプ氏自身はアジアには同盟国のチームがあるのだという一致した意見を生み出すために何もしていない」とトランプ氏がアジアの同盟国の結束強化に動いていない状況を懸念している。

 

 日本の輸出規制措置に対抗するため、韓国が、防衛情報を共有することを定めた軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄する恐れも濃厚になっている今、トランプ氏は東アジアでの覇権を維持させるために、日韓を結束させようと動くのか。今後の出方が注目されるところだ。

在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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