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「賞味期限切れ食品買う?」に過半数が「NO」「お腹こわすから」と誤解している日本でようやく国の通知

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
消費者庁HP「新しい生活様式」での食品ロス削減の工夫(筆者スクリーンショット)

2020年7月22日、消費者庁は、賞味期限の愛称・通称コンテストや食品ロス削減スローガン&フォトコンテストの募集開始を発表すると同時に「賞味期限の切れた災害備蓄食品について」というお知らせを発表した。

賞味期限については、「食べられなくなる期限」ではない、にもかかわらず、「切れたものを食べるとお腹をこわしそう」などという誤解がある。この誤解を解き、賞味期限によって発生する食品ロスを少しでも減らそうというものだ。

食品ロス削減のためには、国民各層がこの問題を「他人事」ではなく「我が事」として捉え行動に移すことが必要であるため、消費者庁は、食品ロス削減のための広報・啓発活動の一環として、「賞味期限」の正しい理解を促進する観点から「「賞味期限」の愛称・通称コンテスト」を、また、食品ロス削減のための取組やエピソードに基づいて作成したスローガン(宣言)及びその想いを表現した写真を募集する「私の食品ロス削減スローガン&フォトコンテスト」を実施することといたしました。

この度、下記のとおり募集を開始しましたので、お知らせいたします。皆様からのご応募をお待ちしております。

出典:消費者庁HP

応募は2020年9月11日までで、ツイッター上でおこなわれる。

このコンテストと同時に発表されたのが、「賞味期限の切れた災害備蓄品について」というお知らせだ。

決められた方法に従って保存された賞味期限切れ災害備蓄食品が、過度な食品ロスにつながらないよう、以下の点にご留意ください。

「賞味期限」とはおいしく食べられる期限のことであり、食べられなくなる期限ではありません。期限を過ぎたら食べない方がよい「消費期限」とは異なります。

食品の保存に当たっては、記載されている保存方法を守ることが大切です。一度開けた食品は、期限に関係なく早めに食べるようにしましょう。

また、飲料水は、賞味期限を超過しても一律に飲めなくなるものではありません。品質の変化が極めて少ないことから、期限表示(消費期限・賞味期限)の省略も可能としています。

出典:賞味期限の切れた災害備蓄品について(消費者庁HP)

ここ数年だけでも地震や大雨による水害など、自然災害が国内で毎年発生してきた。そのたびに、賞味期限切れの備蓄食品の廃棄が報道されてきた。なにしろ総務省の調査によれば、国の機関が備蓄している災害備蓄食品ですら廃棄されているのだ。国が率先して捨てているのに、国民に対して「捨てるな」とは言えないだろう。

参考:

【4.14を前に】国の行政機関42%が災害備蓄食を全廃棄「食品ロス削減」と言いながら食品を捨てている

筆者も数多く、備蓄食品の廃棄とその活用を訴える記事を書いてきた。コロナ禍で、ようやくこのような通知が出たのはよかったと思う。が、イギリスやイタリアのように、賞味期限が過ぎた食品でも再利用し、資源として使い切れるような、食品ごとの具体的なガイドラインを出してもよいと考える。

なにしろ、テレビ番組で「賞味期限切れ食品を買うか?」という50人アンケートで、過半数が「買わない」と答え、その理由で「お腹をこわすから」と答える日本の消費者なのだ。義務教育で履修しているはずの「賞味期限」の意味を正しく理解しているとはとても思えない。

参考:

巣ごもり消費で疑問「賞味期限切れは捨てた方がいい?」英では賞味期限過ぎても捨てないガイドラインを推奨

賞味期限と消費期限のイメージ(以前の農林水産省HP)
賞味期限と消費期限のイメージ(以前の農林水産省HP)

とはいえ、「賞味期限(しょうみきげん)」と「消費期限(しょうひきげん)」では、読みでは「み」と「ひ」の一文字しか違わない。英語なら「best-before」と「used-by」でわかりやすいのに、日本語では、なぜこんな一般人が混同するような呼称をつけたのか。

食料自給率37%で、これだけ世界中からコストとエネルギーをかけて輸入し、フードマイレージ(食料を運ぶ距離と重さをかけた数値)が先進国の3倍近くも多い日本が、賞味期限切れ食品を五感で確認して活用しようと積極的に本気で呼びかけないのは、誰もがリスクを負いたくない「ゼロリスク」志向だからだ(「HPに書いてある」と言われても、それが一般に広く伝わるように伝えていないのなら意味がない)。伝えるなら、肚(はら)の底から伝えようとしないと、「仕事やってる感」を出すだけではとても伝わらない。

生鮮食品ならともかく、そもそも災害備蓄品は缶詰や乾パンのように、賞味期限が年単位と長いものが多く、品質が長く保たれるような容器包装や性質を持った食品が多い。にもかかわらず、これまで大量に廃棄してきた。気候変動も相まって、自然災害が増えている日本だからこそ、「食べられるものは徹底的に食べ尽くす」という本気度が求められる。

農林水産省は、2019年末、初の試みとして備蓄食品の寄付を実施した。そして今回、消費者庁が賞味期限切れの災害備蓄食品に関する通知を出した。

省庁が、こうして少しずつ行動を変えてきていることに一縷の希望が見出される。と同時に、国まかせではなく、市民一人ひとりが変わらなければ何も変わらない、とも思う。

参考情報

なぜ賞味期限切れの水は十分飲めるのに賞味期限表示がされているのか?ほとんどの人が知らないその理由とは

賞味期限の切れた災害備蓄食品について(消費者庁HP)

消費者庁「新しい生活様式」での食品ロス削減の工夫

「「賞味期限」の愛称・通称コンテスト」及び「私の食品ロス削減スローガン and フォトコンテスト」募集開始について

農林水産省初の試み、賞味期限が迫った備蓄食品を捨てずに寄付、食品ロス削減に繋げる

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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