巣ごもり消費で疑問「賞味期限切れは捨てた方がいい?」英では賞味期限過ぎても捨てないガイドラインを推奨

(写真:アフロ)

以前書いた、なぜ賞味期限切れの水は十分飲めるのに賞味期限表示がされているのか?ほとんどの人が知らないその理由とはという記事が、今また読まれているようだ。おそらく、家庭での巣ごもり消費で、今、家にある食品に注目が集まっていること、家に長く居るこの機会に家庭内の片付けをしていること、賞味期限が過ぎたらどれくらいまで食べたり飲んだりできるかに意識が集まっていること、などが理由かもしれない。

2020年4月23日、英WRAPが公式サイトで発表

2020年4月、英・WRAP(ラップ)は、賞味期限が切れた食品をすぐ捨てないよう、食品企業やフードバンクのような食品を配分(再利用)する組織、慈善団体など、食品関係者に促すガイドラインを発表した。WRAPは、食品基準庁や環境・食料・農村地域省など、英国政府と共に制定したガイドラインの内容に改訂を加え、賞味期限過ぎた後も再分配(redistribution)できる期間がこれだけありますよ、という内容をアドバイスしている。これは、今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大を受けての改訂である。

WRAPを取材した時、英国・WRAPのオフィスが入っているビルに向かって歩く。右が筆者(相原延英氏撮影)
WRAPを取材した時、英国・WRAPのオフィスが入っているビルに向かって歩く。右が筆者(相原延英氏撮影)

WRAPは、2000年にイギリス政府が立ち上げた非営利団体だ。Waste & Resources Action Programの略称(廃棄物・資源アクションプログラム)。廃棄物を減らすため、市民や企業、自治体の啓発に必要なデータを収集し、それを基に、食品ロスを減らすためのLove Food Hate Wasteのキャンペーン(2007年スタート)や、学術誌への論文発表など、精力的に活動を続けている。

英国・WRAP訪問時に出してくれたコーヒーカップ(相原延英氏撮影)
英国・WRAP訪問時に出してくれたコーヒーカップ(相原延英氏撮影)

そのWRAPが、2020年4月23日、公式サイトにBest Before dates shouldn’t be a barrier to redistribution(賞味期限表示を再分配の障壁にすべきではない)と発表した。主にはフードバンクや慈善団体、そこへ寄付する食品企業を対象にしているが、消費者の意識改革や行動変容を見据えてのメッセージであることは、これまでのWRAPの活動や公式サイトを見ても伝わってくる。

WRAPのキャンペーン(食品の無駄を減らすための取組事例、農林水産省、平成20年10月17日付資料より)
WRAPのキャンペーン(食品の無駄を減らすための取組事例、農林水産省、平成20年10月17日付資料より)

WRAPは、英国の食品基準庁(Food Standards Agency)、環境食料農村地域省(Defra:Department for Environment, Food & Rural Affairs)と共に、Surplus food redistribution labelling guidance(余剰食品を再分配する際の表示ガイダンス)を発表しており、2020年4月にこれを改訂した。

訪問当時プレゼンしてくれたWRAPのDevelopment Director、Dr.Richard(リチャード氏)(右)(相原延英氏撮影)
訪問当時プレゼンしてくれたWRAPのDevelopment Director、Dr.Richard(リチャード氏)(右)(相原延英氏撮影)

食品ごとに「賞味期限が過ぎてもこれだけの期間食べられる」

WRAPは、4月23日に公式サイトで発表した中で、次のように、食品ごとに賞味期限が過ぎても(Beyond Best Before)これだけ食べられる、というおおよその期間を提示している。

  • 新鮮でカットしていない果物や野菜:日付表示は法律で義務付けられていない。ほとんどの野菜は5度以下の冷蔵庫でパッケージに入れて保存すれば長く保存できる
  • パン・ベーカリー製品:賞味期限過ぎても2日間ぐらい、ベーカリー製品は賞味期限過ぎてから1週間ぐらい。長期保存できるパッケージの場合は1ヶ月もしくはそれ以上の場合もある
  • ポテトチップス:賞味期限過ぎてから1ヶ月
  • ビスケット・シリアル:賞味期限過ぎてから6ヶ月
  • 缶詰・菓子・飲料(缶・プラスチック・ガラス瓶入り)・パスタソース:賞味期限過ぎてから1年
  • (乾燥)パスタ:賞味期限過ぎてから3年
  • ジャム:賞味期限過ぎてから3年~5年
  • 冷凍食品:賞味期限過ぎてから数ヶ月

以上。これはイギリスの場合であり、日本でこれがそっくりそのまま当てはまるわけではない。また、日本の賞味期限は「未開封の場合」という前提で表示されていることが多い。ジャムなど、最近は健康志向で糖度を低くした製品が広く市販されており、これらは開封したら早めに消費しないとカビが発生する場合がある。

WRAPのプレゼンテーション(相原延英氏撮影)
WRAPのプレゼンテーション(相原延英氏撮影)

専門家は十分承知の内容、国も「賞味期限は目安」と言っているのに

なお、前述の内容は、それら食品の製造者(メーカー)の品質管理部門の方や、食品の保存に詳しい人であれば、十分、納得できる内容だと思う。そもそも賞味期限は「美味しさの目安」に過ぎないし、美味しく食べられる期間に、さらに1未満の安全係数を掛け算して「賞味期限」を短めに設定している。国は0.8以上の安全係数を推奨しているが、実際はそれより小さい数字を使っている企業や分析機関も多い。

急激に品質が劣化するため5日以内の日持ちのものに表示される消費期限(赤)と賞味期限(黄)とは違う(農林水産省HP)
急激に品質が劣化するため5日以内の日持ちのものに表示される消費期限(赤)と賞味期限(黄)とは違う(農林水産省HP)

食品の保存に詳しい、東京農業大学名誉教授の徳江千代子先生が監修した書籍『賞味期限がわかる本』にも、食品ごとに、賞味期限が過ぎてもおおよそこれくらいの期間までは食べられるという内容が書かれている。

逆に、いくら賞味期限内であっても、直射日光にあてていたり、高温高湿のところに置きっぱなしにしていたりすれば、含まれる脂質が酸化するなど、品質が劣化している場合もある。あくまで「目安」に過ぎないのだ。

WRAPの公式サイトにも「正しく保存されていれば(If stored correctly)」という但し書きから始まって、「・・・賞味期限が過ぎても食べられる」と書いてある。

WRAPのプレゼンを聴く筆者(左、手前)(相原延英氏撮影)
WRAPのプレゼンを聴く筆者(左、手前)(相原延英氏撮影)

WRAP「人々が空腹なのに捨てるべきではない」

2020年4月24日付FMJ (Facilities Management Journal)の記事で、WRAPは、企業や(フードバンクなどの)食の再分配組織や慈善団体は、賞味期限を過ぎても食べられる可能性があるので、賞味期限を過ぎている食品にも目を向けるよう促しており、「人々が空腹なのに、余剰食品を無駄にすべきではない」と語っている。

インターネット上でこのような食品を販売しているApproved Food(アプルーブド・フード)は、WRAPの新しいガイドラインを歓迎している。

WRAPを訪問したメンバー、WRAPのディレクターRIchard氏は右から3番目、筆者はその左隣(通訳者撮影)
WRAPを訪問したメンバー、WRAPのディレクターRIchard氏は右から3番目、筆者はその左隣(通訳者撮影)

食料自給率37%の日本では賞味期限の概念を正しく理解し、きちんと資源を活用すべき

拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』では、賞味期限とは品質が切れる日付ではないことや、安全係数の掛け算により、実際の「美味しく食べられる目安」よりも20%以上短くなっていることなどに言及してきた。

消費者庁は、公式サイト食品の期限表示について情報を掲載している。だが、WRAPのように、食品ごとに、賞味期限が過ぎてからの期限を詳しく載せてはいない。

日本では、「賞味期限過ぎても○○日までは大丈夫」と言った瞬間から、「もし食中毒になったら」責任を取らされるということで、誰もその責任を負いたくないのだろう。みんなが及び腰になっていて、そんなことは言おうともしない。

でも、食料自給率が過去最低37%まで下がった日本で、このまま永遠に食料に困らないと楽観視できるのだろうか。すでにいくつかの国が食料輸出規制をかける中、今ある食料を少しでも無駄にしない手立てを考えることは必須だろう。

現に、日本のフードバンクではニーズの高まりにより、備蓄が減ってきているところもある。「賞味期限が切れるまで1ヶ月以上残っていること」を条件にするフードバンクがほとんどだが、はたしてこの非常時に、杓子定規にそれを守る必要があるだろうか。

WRAP訪問時のプレゼンテーション資料の表紙(筆者撮影)
WRAP訪問時のプレゼンテーション資料の表紙(筆者撮影)

英WRAPのピーター氏「年間665億円分が賞味期限のせいで家庭で捨てられている」

WRAPのディレクターであるPeater Maddox(ピーター・マドックス)氏は、公式サイトで「賞味期限表示のために、一年間でおよそ5億ポンド (約665億円分)の食品が、家庭で捨てられていると推計しています。18万トンもの食品です。賞味期限と消費期限の違いを知ることは、家庭での食品ロスを防ぐ最大の方法です」と話している。

これまでも、WRAPは、データを取るだけに終わらず、そのデータを基に、人々の意識や行動に変化を起こすための啓発活動を行ってきた。今回のガイドライン改訂も、まさに、英国の英断だと感じる。

参考情報

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン(株)、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。311食料支援で廃棄に衝撃を受け誕生日を冠した(株)office3.11設立。「食品ロス削減推進法」成立に協力した。世界資源研究所(WRI)とオランダ政府が運営し食品ロス削減を目指すチャンピオン12.3メンバー。著書に『賞味期限のウソ』『食品ロスをなくしたら1か月5000円の得』。食品ロスを全国的に注目されるレベルまで引き上げたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018受賞

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気候変動が深刻化し、SDGs(持続可能な開発目標)が注目されていますが、対応に悩む企業も多いです。著者は企業広報に14年半、NPO広報に3年従事の後、執筆や講演を通して食品ロス問題を全国に広め、数々の賞を受賞しました。SDGsが掲げる17目標のうち、貧困や飢餓、水・衛生、生産・消費など、多くの課題に関わる食品ロスの視点から、国内外の事例を紹介し、コスト削減や働き方改革も見据え、何から取り組むべきか考えます。

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