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「恋愛で終わるか?結婚に至るか?」恋愛のゴールと結婚のスタートとは必ずしも一致しない

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

恋愛と結婚は別

前回の記事で、恋愛相手と出会うきっかけを男女別に示したが(参照→「みんなはどこで恋愛相手に出会っているの?」18歳から49歳の年齢別独身男女の恋愛の入り口)、恋愛の先に結婚があるのだとしたら、結婚した夫婦の出会いのきっかけも恋愛と同じなのだろうか?

実は、そんなことはない。

恋愛と結婚はその入り口は別になるのである。言い換えれば、恋愛のゴールと結婚のスタートとは必ずしも一致しない

前回は、18-49歳の年齢別独身男女の恋愛のきっかけだけをまとめたが、今回は、夫婦となったカップルとの比較のために、20-34歳の独身男女の恋愛のきっかけと「5年以内に結婚した夫婦の出会いのきっかけ」および「49歳までの夫婦全体の出会いのきっかけ」の構成比とを比較したい。データは、同じく2021年出生動向基本調査より。

結果は以下の通りである。

職場の出会いの重要性

まず、「職場」関係の出会いだが、恋愛においては男性23%、女性22%だったものが、「5年以内結婚の夫婦」では30%「夫婦全体」では36%とそれぞれきっかけ別でもっとも多く、結婚に至るきっかけとして、この「職場」というものがいかに比重が大きいかがわかる。

また、「友人の紹介」も結婚においては比率が高いが、この中には「職場の同性の同僚」による紹介も含まれている。この「職場」と「友人の紹介」を合わせた結婚きっかけ合計は全体の5-6割を占める。

ちなみに、「職場」はかつてはもっと構成比が高かった。1980年代後半から1990年代初頭にかけては「職場」での結婚比率は35%あった。1990年代前半の婚姻数は、コンスタントに年間78-79万組で、2022年の婚姻数50万組と比べれば、30万組近くも結婚が多かったのだが、それを支えていたのが職場縁なのである。

写真:イメージマート

対して、恋愛では多いが結婚では少ないものに「学校」がある。そうした青春の恋愛はその半分程度しか結婚には結びつかない

同様に、結婚で比率が下がるのが「ネット」である。

興味深いのは、男性の場合、独身12%→5年以内の結婚11%とほぼ変わらないのに対し、女性は18%→11%と大きく減るところだ。女性にとっては、恋愛には至っても、それは結婚までは結び付かず、最悪時間を無駄にすることにもなりかねない。

何度も指摘しているので、繰り返すのは避けるが、「マッチングアプリなどは婚姻増の救世主にはならない」という面がここにも表れている。

では「婚活」はどうだろう。ここで示した「婚活」とは「伝統的なお見合い」と「結婚相談所」を合算したものである。恋愛においては、男女ともこれら「婚活」の割合は低いのだが、そもそも「婚活」は恋愛を目的としてはおらず、交際即結婚の意思表示でもあることから、恋愛において構成比が低いのは仕方ない。

とはいえ、結婚に至った場合でも「5年以内結婚」が9%、夫婦全体で6%なので、それほど大きなパワーにはなりえないのだろう。

なぜ職場結婚が多かったか?

「恋愛と結婚は違う」という言葉は、既婚者ほど身に染みてわかるものだと思うが、実際「結婚とは生活」であり、「惚れた」とか「好き」だとかいう感情だけで成立しうるものではない。それが可能なのは3割の恋愛強者だけだろう。

上記は、「恋愛と結婚の質の違い」ではあるが、その「出会いのきっかけ」の違いもまた、結婚という点においては重要なファクターになる。

職場というものは、毎日顔を突き合わせる環境でもある。これは実はバカにできない環境で、人間の心理は「単純接触効果(ザイオンス効果)」といって、常に見ている対象に対して好意を持つようにできている。好意というより、慣れであるが、見慣れるとそれは好意に転換されるからだ。そうした心理作用をマーケティングに応用したものが、繰り返し流される大量のCMやテレビ番組などで主題歌として使われる楽曲でもある。

加えて、職場では何かしらの共同作業を行うという面も大きい。人間は誰かと一緒に共同作業をやること自体で満足感が高まる。「しあわせ」とは、古くは「仕合わせ」と漢字で表記していたが(中島みゆきの楽曲「糸」でも「仕合わせ」と表記されている)、それは、誰かと何かの仕事を合わせてやること自体が「しあわせ」だからだ。

筆者作成
筆者作成

さらに、その共同作業の最中に、嫌な取引先や上司が登場する場合があるが、そうした嫌な相手を共通の敵として認識するだけでも、二人の連帯感が高まる

もちろん、職場は結婚相手を見つける場ではないが、このように毎日顔をあわせて仕事をすることを通して、将来の結婚生活を運営する相手と認識(勘違いでも)するための舞台装置が揃っている環境なのであり、結果として結婚生活を共同で営むパートナーを見つける場として、本当は最適なのである。

恋愛をしたいのなら、マッチングアプリでもナンパでもいいのだが、結婚ということであれば、「職場」という環境の重要性が再認識されるべきで、今の若者が置かれているような「職場でデートに誘ったらセクハラ」のような窮屈な縛りは、ますますの婚姻減を加速させることになりかねない。

最近では、企業において、昭和の時代に盛んだった運動会や文化祭などが復活しているという話もあるが、「少子化が危機」というのであれば、企業側もそうしたお膳立ての重要性を再認識した方がいいのではないか。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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