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【的外れな上に逆効果な少子化対策】少子化は第三子が生まれないことが要因ではない

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

予算の規模より中身

政府の「異次元の少子化対策」は2023年の正月冒頭に掲げられたものの、その具体的な中身に関しては1年間ずっと的外れなことばかりが提示されているという印象である。先ごろ、少子化対策としての「こども未来戦略」の財源を3.6兆円とする原案が発表されたそうだが、予算の規模の問題ではなく、中身の問題なのである。

私は、当連載の中でも「子育て支援と少子化対策とは別物である」ことを繰り返し述べてきた。子育て支援はそれはそれとしてやるべきことで否定はしないが、こと出生増を目指すという意味での少子化対策を考えるのであれば、打ち手の対象が違うのである。有体に言えば、「子育て支援をどんなに拡充しても、それは全体としての目に見える出生増の効果はない」のである。

なぜならば、出生が減少している根本的な原因は「産み控え」ではないからだ。一人当たりの母親が産む子どもの数は1980年代と比較しても全く減ってはいない。にもかかわらず、総出生数が減っているのは、そもそも産む母体としての母親の数が減っているからである。「少子化ではなく少母化」と繰り返しお伝えしているのはそういうことである。

3人目を増やせば解決?

が、いまだに「今いる母親が3人目を産めば少子化は解決する」などという勘違いをしている人もいる。

第二次ベビーブームのあった1970年以降2022年までの、1発生婚姻あたりの出生順位別出生率をまとめたのが以下のグラフである。1婚姻あたり何人の子どもを産んでいるかの長期推移である。

ちなみに、2019年だけ減っているのは、令和婚効果で全体の婚姻数が増加したためである。おそらく新たな出生に関係のない記念婚姻も多かったのだろう。

さすがに、1970-1980年代は山が違うが、1990年代以降をみていただくと、驚くほどその割合は変わっていない。直近15年間の平均にすれば、結婚がひとつ発生すれば73%が第一子を出産するし、57%が第二子を出産し、26%が第三子を産む。なんなら、第三子の割合はわずかだが増えているくらいである。

これは、結婚がひとつ発生すれば自動的に1.56人の子どもが生まれるという「発生結婚出生数」と同様に、結婚と出産子割合の法則もまた変わらないということである。つまり、出生増を図りたいのであれば、大本の結婚数を増やさない限り不可能であることを意味する。

いいかえれば、第三子割合が増えているからといって、この26%が30%になる程度の上昇はあっても、これが50%や60%になることはありえない。

出生減の原因はどこか?

率で見てしまうと勘違いしてしまうが、第三子出生率が増えているのは、むしろ第一子と第二子が減っているということを意味する。当たり前だが、第一子が生まれなければ第二子は生まれない。第二子が生まれなければ第三子はない。

わかりやすく2000年以降での出生順位別出生数を見ていただこう。出生数とあわせて、婚姻総数と妻の初婚数も併記した。

注目していただきたいのは、対2000年比で、総婚姻数は▲37%、妻の初婚数は▲39%であり、第一子の出生数もまた▲39%である点だ。要するに、婚姻数(特に、妻の初婚数)が減っている分だけ、第一子の数が減っているということを意味する。

対して、第二子の減少は▲35%であり、これは、2000年と比べて、結婚した女性は第二子を生む割合が増えているということだ。第三子の減少はそれよりも小さく▲22%である。結婚した女性に限れば、以前より第三子を産む数は増えているということになる。

しかし、前述した通り、結婚したすべての女性が第三子を産むことはない。

結婚しても無子の夫婦割合は約1割存在する(参照→「生涯無子率」今の日本の20代男の5割、女の4割は生涯子無しで人生を終えるかもしれない未来)し、離婚する場合もあるだろう。そもそもの初婚と初産年齢があがっていることも影響する。何より、この割合が何十年も不変であることは無視できない。

そもそも論をいえば、現在第三子の割合が増えているのは、第三子を産み育てられる経済力のある男女だけが結婚できているという逆の見方も必要である。

以前の記事で児童のいる世帯の年収構造を紹介したが、少子化とはいえ世帯年収900万円以上の世帯の児童のいる割合は減っていないのである(参照→かつて日本を支えていた所得中間層の落日「結婚も出産もできなくなった」この20年間の現実)。

出生数が減っているのは、まさしく、第一子が減っている問題であり、この0人→1人を解決しなければ改善されない。つまり、それは、婚姻数の減少を少しでも抑えることが鍵になる。

婚姻が減っているのはなぜ?

では、なぜ婚姻数が減っているかといえば、所得でいえば中間層以下、年齢でいえば、29歳以下の若者の婚姻数が減っているからである。若者が若者のうちに結婚できない理由のひとつに経済問題がある。わかりやすくいえば、若者の手取りの問題である。20年も25年も20代の額面給料はあがっていないが、税金や社会保険料などの国民負担率はステルス値上げされており、むしろ手取りは減っている現状がある。

ここにこそ結婚に踏み切れない若者の問題があり、そこを無視し続けていては、婚姻数も出生数も今後もより大きく減っていくだろう。

政府も官僚もそれを知らないわけではない。

写真:代表撮影/ロイター/アフロ

令和2年の少子化社会対策大綱でも、この「異次元の少子化対策」を発表した当初の岸田首相も、少子化対策としての「若者の雇用と所得の増」を打ち出していた。これは実に真っ当な課題抽出だった。

しかし、にもかかわらず、その課題への対策は何一つなく、むしろ今検討されている少子化対策は、子育て支援偏重で、若者の経済環境の改善どころか、かえって若者の可処分所得を減らす逆方向のことをやり続けている。まるで若者の婚姻を減らす「少子化促進政策」のようである。

加えて、子育て世帯に対しても子育て支援とはいうものの「給付するがそれ以上巻き上げる」という対応ばかりで、これでは第二子を産むことすら躊躇するようになるかもしれない。一体誰のために何をしたいのかがますますわからない。

少なくとも国民ひとりひとりが「朝三暮四」のマヤカシに騙されないよう、事実をキチンと認識しておく必要があるだろう。また「朝令暮改」にも気を付けたい。今までもそうだったように、一度やった手当の拡充や無償化などがずっと続いたという話はない。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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