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「結婚も出産もお金次第」都道府県別所得と出生減少率の関係から見る中間層の地盤沈下

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

若者の人口移動と婚姻

前回からの続きである。

前回の記事

合計特殊出生率全国最下位でも「東京だけが唯一出生数を増やしている」という事実

前回は、直近約20数年間において、出生数が増えているのは唯一東京だけであるという話をした。それは、決して東京が優れているわけではなく、東京以外の地方が地盤沈下を起こしていることを意味する。なぜなら、もはや結婚も出産も一部の経済的に余裕のある層しかできなくなっているからである

前回も軽く触れたが、なぜ、全国と比較して東京だけが婚姻数と出生数が高いのかという点を詳しく考察していこう。

まず、婚姻数に関しては、その大きな要因のひとつが若者の人口移動による。ご存じの通り、人口の東京圏一極集中はコロナなど関係なく継続している。それは日本の人口移動のほとんどすべてが20代の若者の人口移動によって占められているからである。18歳で進学によって上京する数も少なくないが、圧倒的に20代での移動、つまり就職に伴う移動によって占められている。

以前にこちらの記事(参照→新成人の数が減ったという話より、もっと深刻な「若者に見放される生まれ故郷問題」)で一度ご紹介しているが、2000年に出生した都道府県別の子どもの数と、その20年後である2020年時点での都道府県での20歳の人口とを比較すると、それがよくわかる。

若者にも捨てられる36道県

グラフは元記事を参照いただくとして要点を述べると、生まれた子ども以上に、その歳の20歳の若者がもっとも増えているのは東京で、実に出生数の1.4倍増である。同様に、東京圏である、埼玉、千葉、神奈川も10%程度増えている。

東京圏以外に増えているのは、京都、大阪、宮城、福岡、滋賀、愛知、石川など全部で11府県のみである(京都が多いのは大学が多いという要因だろう)。他はすべて減っている。しかも、その減り具合が、東北や四国・九州地方では3割減にも達する。

2020年時の20歳だけの話ではなく、これは20代の年齢全体に共通する傾向である。

要するに、生まれた場所から若者は20歳時点で東京など大都市へと移動しているということだ。

日本全国各地から東京へと若者が集中することで、当然絶対人口としての未婚人口の割合は多くなるが、その分、男女の出会いの機会も多くなる。

写真:アフロ

東京に来たからといって誰もが結婚できるとは言わないが、少なくとも、地方の過疎地域のように「結婚したいのにそもそも適齢期の異性が存在しない」という事態にはならない。それが東京における婚姻数の多さ(あくまで地方との相対比較で)に影響している。

しかし、大事なのは若者がなぜ東京に集まるのかという本質的な理由である。

若者が移動する理由

全国の若者は別に結婚するために東京に来るわけではない。「地方には稼げる仕事がない」から東京に来るのだ。

仕事のある場所に人口が集中するのは歴史的にもずっと踏襲されていることである。そもそも、東京だけがいつも人口一位だったわけではなく、明治時代日本海の海運業が盛んだった頃は新潟が全国一位だったこともあった。

若い頃に、仕事を求めて移動し、経済的生活基盤を安定させてからのち、結婚して子を育てるという方向に向かうのが自然の流れであろう。そして出生数は婚姻数と連動して増えるため、結果として東京だけが出生数増になっているのである。

つまりは、結婚も出産も若者の安定的な経済環境こそが必要条件となるのである。

これを言うと、決まって「結婚が減っているのは金の問題ではない」「東京より平均年収の低い沖縄の方が出生率が高いのだから、そんなことは言えないはずだ」などと言ってくる輩がいるのだが、感覚と思い込みだけで物を言われても困る。

所得と出生増減相関

都道府県別に1995年と2020年とで出生数の増減率と2020年時点の各都道府県の課税対象所得金額(総務省『市町村税課税状況等の調』より)との相関を見ると、相関係数0.6643という強い正の相関が見られる。

47都道県に加えて、東京23区を加えた相関図が以下である。バブルの大きさは2020年の出生数である。

要するに、所得の高いエリアほど出生数が増えているということになる。47都道府県中、1995-2020対比で出生数が増えているのは唯一東京都だけで、沖縄の出生率は確かに全国一位だが、1995年対比で出生数は10%以上減少し続けている。

しかも、東京都の中でも所得の多い23区内の方が出生が増えている。

「貧乏子沢山」はもはや昔話

ちなみに、さらに細かく東京23区内だけで比較してもその傾向は顕著だ。もっとも出生増を記録しているトップ3は、1位が中央区、2位が港区、3位が千代田区といういずれも高所得者の多いエリアで占められる。反対に、23区内でも出生数が減少しているボトム3は、江戸川区、葛飾区、足立区で、所得からいってもこれらの3区はそれぞれ、20位、22位、23位である。

ここから浮き彫りになるのは、東京だから、23区内だから出生数が増えているということではなく、所得の多寡がすなわち居住地を決め、さらには婚姻と出生に大きな影響を与えるということの証拠である。

「貧乏子沢山」なんて時代は現代ではただの昔話なのだ。「子沢山」どころか「貧乏生涯未婚」なのである。

言い換えれば、かつての結婚や出産のボリューム層である所得中間層が「結婚と出産の地盤沈下を起こしている」ということであり、ここの層の底上げがなされなければ出生数は間違いなく増えない。

今、都道府県で起きている出生格差がやがて東京の23区内でも起きるだろう。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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