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「結婚できた夫婦の子ども数は増えている」のに全体の出生数が減り続けているワケ

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

問題の本質は…

「少子化」ではなく「少母化」である。

このことは、私が2018年6月段階のコラムに初出して以来、述べ続けていることで、この「少母化」という言葉も私の造語なのだが、最近ようやく各方面でこの認知が広がっているようでうれしく思う。繰り返し言い続けることの大切さを噛みしめている。

当連載でも2022年に一度記事を書いている。

一人以上の子を産んだ母親が産む子どもの数は、少なくとも1980年代と40年以上たった今もたいして変わっていない。

にもかかわらず、出生数が減っているのは、まず出産対象年齢の女性の絶対人口の減少がある。これは、第三次ベビーブームが来なかったことによる影響である。加えて未婚化による有配偶女性人口の減少がある。さらに、結婚しても無子である割合の上昇という3つの要素が組み合わさって、「母親の数」が減少したからである。

100人が40人に減った

たとえば、全出産の9割以上がカバーされている15-39歳までの女性を対象とすれば、1985年の出生数は142万人であるが、2020年は79万人とおよそ半減の44%減である。一方、未既婚関係なく女性総数人口は同期間で28%減、有配偶女性人口は同じく53%減、一人以上産んだ母親の数はなんと63%減である。

わかりやすくいえば、1985年には100人いた母親の数が、2020年には40人に減ったということだ。

写真:イメージマート

6割以上減少しているにもかかわらず、出生数が44%減に済んでいるのは、むしろ一人以上産んでいる母親は1980年代よりも多産しているということにもなる。

出生する子どもの数が減っている「少子化」なのではなく、産む母体の方の人口が減っていることにより出生数減少、つまり「少母化」であるというのはそういうことだ。

ちなみに、合計特殊出生率が1.26となったことで大騒ぎするが、これも既婚女性が1.26人しか出産していないという意味ではない。この指標は、分母が15-49歳の全女性であり、当然未婚者も含む。よって未婚率があがれば自動的に減ってしまうものである。

逆に考えれば、現在出生数がずっと継続的に減少しているのは、母親の数が減っているからであり、有配偶女性の数が減っているからである。

要するに、少子化というのは、婚姻の減少に帰結するのである。より詳細にいえば、結婚して子を希望しているのに授からない「不本意無子」、結婚したいのになかなかできない「不本意未婚」が増えているということでもある。

イメージで誤解されている統計

ここまで説明しても、厚労省の出生動向基本調査にある「完結出生子ども数」の統計を出してきて、「いや、もうすでに1.90人に減っているのだから2人は産んでいない。産む数も減っている」と言ってくる者がいるのだが、まずはその統計上の誤解を説明しよう。

出典:2021年出生動向基本調査(夫婦調査)報告書より
出典:2021年出生動向基本調査(夫婦調査)報告書より

そもそもこの「完結出生子ども数」とは、結婚継続15年以上かつ現在妻の年齢50歳未満を対象としたものである。妻を対象としている以上、この中には「無子」も含まれる点に留意いただきたい。夫婦の無子割合は増えている。

つまり、1.90人となったのは、この無子割合の影響であり、無子を除いた「一人以上出産した母親」だけに対象を絞れば、2021年段階も計算すれば2.01人となるのである。

子のいる世帯の平均子ども数

就業構造基本調査をもとに、「夫婦と子世帯(=一人以上の子を産んだ世帯)」だけに限って、年齢別の平均子ども数を、最新の2022年と15年前の2007年とで比較したものが以下である。

むしろ15年前より2022年の方が子どもの数は増えているのだ。

これは「結婚ができた夫婦というのは、15年前よりも一世帯当たり子どもは多く産んでいる」ということになる。言い換えれば、出生数が減っているのはそのまま婚姻数が減っているからだと言える。

2007年と2022年の出生数と婚姻数の増減を比較すれば明らかである。

出生数

2007年108万9818人

→2022年77万759人 ▲29.3%

婚姻数

2007年71万9822組

→2022年50万4930組 ▲29.9%

ほぼ同等の減少であるし、なんなら、ここでも若干婚姻数の減少より出生数の方がマシである。

前回の記事(貧困でなくても子どもを持てない高いハードル「900万円の年収の壁」の現実に必要な視点)で書いたように、世帯年収900万以上での子どもを持つ世帯数は変わっていない。減ったのは900万未満の世帯であり、中間層が子を産めなくなっている問題である。

そして、それは元をただせば、中間年収層の未婚男女が結婚できなくなっている問題であり、それは30年近くも給料があがらないどころか、30年前の20代よりも今の20代の方が、税金や社会保険料などの負担で手取りが減っている経済問題に帰結する。恋愛や結婚どころではないという若者が大勢いるのだ。

目を向ける所が違う

10/2に開かれたこども未来戦略会議で、岸田首相は「子育て世代の所得向上が重要であり、最低賃金を含めた賃上げなどに全力で取り組んでいく」と言ったそうだが、これらの事実をふまえれば、本当の少子化対策とは、「子育て世代の所得向上」以前に「未婚の若者の可処分所得の向上」であることは明白だろう。

これから結婚をする年齢に達する若者たちの経済環境を改善することこそ急務なのである。間違っても、彼らの手取りを減らす結果となるような政策はとってはならないのだ。

写真:代表撮影/ロイター/アフロ

これ以上、中間層以下の若者を虐げて、「本当は結婚もしたいし、子どももほしい」のに「どうせ頑張ったって無理なんだから、そんな希望なんて最初からなかったことにしよう」などと絶望してしまうようなことはやめていただきたい。

何も子育て世帯の足を引っ張るつもりは毛頭ないし、未婚の若者と子育て世帯とを分断するつもりはない。

もっとも所得の低い若者の可処分所得が増えるということは、全体の底上げとなり、巡り巡って子育て世帯への恩恵にもなるだろう。可処分所得が減らされているのは子育て世帯とて同じだからだ。

そして、それは必ずしも賃上げだけじゃなくても実現可能なのだ。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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