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合計特殊出生率1.04で圧倒的最下位の東京だが、全国で唯一といっていいほど出生数を伸ばしている現実

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

東京の合計特殊出生率

2022年の人口動態統計(概数)が発表され、全国の合計特殊出生率が1.26となり、2005年の最低記録に並んだという件がニュースになっていた。あわせて、東京都の同出生率も1.04となり、1.0を切る目前まで下がったことが取り上げられてもいた。

しかし、こちらの記事でも書いた通り(参照→2022年出生率が2005年と同じ1.26というが、同じ割合でも生まれる数は30万人も減った)、合計特殊出生率だけを見て大騒ぎするのは無意味である。

東京の同出生率が低くなるのは当然で、この率の計算式は分母に入る15-49歳の未婚女性の数が多ければ多いほど自動的に低くなるからだ。つまり、未婚率が高ければ出生数の多寡に関係なく出生率は低くなるのである。

ご存じの通り、日本は2020年国勢調査段階で女性の約2割が生涯未婚である。都道府県別の生涯未婚率ランキングでも東京は約24%で1位である。

未婚アリ地獄か?未婚天国か?~東京はもう「3人に1人の男」と「4人に1人の女」は生涯未婚

東京の女性はすでに4人に1人が生涯未婚であり、同時に無子であるわけで、そうした未婚女性が多いがゆえの計算上低出生率になるだけの話である。

東京では子どもが産めない?

ゆえに、東京の出生率が長年全国最下位という事実だけを見て「東京は子どもが産めるような環境ではないのだなあ」という感想を抱くとすれば、そっちの方が大間違いである。

むしろ逆で、全国的に出生数が激減している中で、東京だけがその減少を抑えているというのが事実である。

出生数の指標は合計特殊出生率だけではない。

人口の自然増減を見る上では粗出生率(人口千対出生率)が基準になる。人口千人に対する出生率である。

その粗出生率で、全国と東京の1995年から2021年までの長期推移を見比べてみよう。

確かに以前は、全国と比しても東京の粗出生率が低かったことは間違いない。しかし、1995年以降、ずっと右肩下がり基調の全国の粗出生率と比べて、東京は1995年から2010年ごろまであまり下降せずに推移している。それどころか、2012年以降は、全国の出生率を抜き、それ以降もずっと上回り続けている。

つまり、全国平均と比べても東京の粗出生率は高い方なのだ、実際、2022年概数値での東京の粗出生率順位は全国で8位とベスト10に入っている。

大きな出生数増は東京だけ

それだけではない。出生率という割合ばかり取りざたされるが、重要なのは率ではなく数の方である。

東京の出生数は1995年を100として見ると、100を下回ったのは2005年と2021年の2回のみで、そのほかはすべて上回っている。特に、2006年から2015年にかけて出生数は右肩上がりで、2015年には1995年対比17%増である。絶対数として出生数が増えているのだ。2021年も下がったとはいえ、1995年対比1%減にとどまっている。一方、東京を除いた全国合計は、2021年は1995年対比34%も大減少である。

全国の出生数を押し下げているのはまさに東京以外の地方であり、唯一30年近く出生数をキープしている東京が日本の出生数を支えていると言ってもいいだろう。

それは、以下に示した出生数の構成比の推移からもよくわかる。

ご覧の通り、東京だけが唯一といっていいほど大幅に出生数の構成比をあげている。大阪はほぼ変わらないし、愛知の上昇分もわずかである。

しかも、東京といっても、市部の出生数が増えているのではない。東京の増加分のほぼすべては東京23区の上昇分なのである。東京23区だけで、2008年に愛知県全体を抜き、2012年には大阪府さえも抜いている。

人口千対の出生率の全国1位は沖縄県であり、沖縄の構成比も十巻増えてはいるが、さりとて増えたとしても、その構成比はいまだ2%にも達していない。沖縄でどれだけ出生数が増えても東京の出生数の規模には届かないのだ。

東京23区以外地盤沈下

合計特殊出生率だけを見て「東京の出生率が最下位」とばかり判断していると、東京は子どもを産めない環境なのか」と勘違いしがちだが、むしろ逆で、「東京、しかも23区内でしか子どもの出生は増えていない」ということになる。

とはいえ、東京23区にしても、全国全体の出生数が激減する中で、人口が集中していることによって健闘しているだけに過ぎず、「東京だから出生数が高い」ということではない。逆に、ここからわかるのは、「東京23区以外の東京市郡分を含むすべての都道府県の出生数が減りすぎている」のである。

写真:イメージマート

だからといって、地方の出生数をあげなければ…などと「できもしない単なる精神論」には意味はない。逆で、なぜ東京だけが出生数があがり、他の地方はすべて減っているのか、という部分の客観的事実を把握し、その本質的な原因から目を背けてはいけない。そこにこそ地方の問題があるからだ。

言い方を変えるならば、なぜ東京だけに若者が手中し、なぜ東京の婚姻率だけがずっと全国1位なのか?なぜ、東京でも23区だけ(23区でも特に中央区、千代田区、港区という富裕層区)が増えているのか?という部分から、自分たちの地域との違いは何か?を直視しないと何も解決しないだろう。

官製婚活やマッチングアプリ業者と組む以前の問題なのである(その原因は当連載で何度も書いてきていることなので、過去記事を参照していただきたい)。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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