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「地方にいたら結婚できない婚難化現象」過去85年間で最大となった大都市と地方との婚姻格差

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

かつて大都市より婚姻率が高かった地方

案外勘違いしている人も多いのだが、都道府県別の婚姻率は東京都がダントツに高い。合計特殊出生率が東京は最下位であるため、混同している人も多いようだが、1980年代から一貫してずっと東京は婚姻率が全国トップレベルで推移している。

2021年の実績でみても、1位の東京以外では、2位の沖縄は別にすれば、上位10位に入るのは、愛知、大阪、福岡、神奈川、埼玉、千葉など人口500万人以上の大都市に集中している。

しかし、これは大昔からそうだったわけではない。戦前の1935年における婚姻率のランキングはまったく様相が違う。

1位から3位までは富山、石川、福井の北陸三県が独占している他、新潟や秋田などもトップ10に名を連ねている。

興味深いのは、1935年時点では、東京も大阪も神奈川もワースト5の中にいたということである(それでも婚姻率自体は今より全然高いのだが)。同時に、1935年にトップ10だった秋田や新潟がワースト5に転落している。

婚姻率の長期推移

婚姻率(人口千対)の長期推移をみるとさらにおもしろい。

1950年代を契機として、都道府県の婚姻率の順位が大きく逆転したのである。東京、大阪などの大都市が急激に上昇し、戦前の上位群の婚姻率は軒並み激減しはじめた。

これは、終戦の焼け跡からの復活のきっかけとなった朝鮮戦争特需景気とあわせて、人々の働く場が大きく変容したことと関係する。戦前までは地方を中心とした農業世帯も多かったからである。1950年には、青森、岩手、山形などの東北勢が婚姻率同率1位となってもいる。地元で生まれ育った若者がそのまま地元で結婚し、家族となるというパターンも多かったはずだ。

提供:イメージマート

しかし、それらは農業世帯の減少と高度経済成長期における都市部への産業構造の移行及びそれに付随した都市部雇用の増加などに伴い、地方から都市への人口流出が起きた。高卒男女の都市部への集団就職なども多かった。

働き場所の変化とともに、若者の人口移動が起き、若者が集まる場所において婚姻数が増えるのは自然の流れである。

第二次ベビーブームを発生させたのも1960年代の大都市における結婚ブームが影響している。ちなみに、1965年頃までは結婚の50%は伝統的なお見合いによって成立していた。残りの半分もほぼ職場縁である。

その後、1975年以降に婚姻率が東京、大阪でも急降下していく。少子化のはじまりとなったのも実はこの1975年以降のことでもある。

「子どもは二人まで」国やメディアが「少子化を推進していた」という歴史的事実

地方の婚難化現象

婚姻率自体の増減だけではなく、全国平均比での比較推移をみると、都道府県の逆転現象だけではなく、大都市と地方における婚姻格差がこの期間において2度拡大していることもわかる。

一度目は第二次ベビーブーム期で、これは東京や大阪という大都市圏の独り勝ち状態による格差だった。格差とはいえ、まだ下位グループの婚姻率も全体的にはそれほど低くはなかった。

2度目の格差拡大は2010年以降に顕著となる。これは全国の婚姻率自体も減っている中で、東京があがったわけではなくキープしているに過ぎず、東京以外が「結婚困難になった(地方の婚難化)」とみるべきだろう。この2度目の婚姻格差は、1935年以来の85年間で現代がもっとも最大化している。

これはもう単純に、結婚対象の若者の人口減少以外の何物でもないと考える。

若者の人口流出→婚姻のマッチング不全→婚姻数減少→出生数減少→人口減少という流れを踏むからだ。そして、この婚姻格差は20年後には人口減少として表出化する。

若者が地方を脱出する理由

もちろん、東京に出たからといって結婚できるわけではない。婚姻率も高いがその分未婚率も高いからだ。しかし、少なくともそもそも結婚対象となる人口が少ない地方にいるよりは、大都市にいた方が結婚しやすいことは確かである。

写真:アフロ

地方創生的なものを掲げて、都市部から人口流入を図る自治体もあるが、空き家をタダで提供しても、転居に給付金を付けても、そんなことでは人は集まらない。流入してくるとしても高齢者ばかりだろう。

若者は仕事のあるところに移動する。逆にいえば、魅力的な仕事(仕事内容や報酬も含む)がないところから若者は必ず脱出するのである。

ちなみに、地方でも婚姻数増加を狙っていろいろ施策を講じているところもあるが、残念ながらもはや自治体単位での取り組みでは効果は見込めない。自治体横断するにしても予算の振り分けをどうするかでもめるので実現性は低い。いろいろ手詰まりなのである。

コロナ禍の2年間でさえ若者に限れば、東京圏を中心とした人口一極集中は変わっていない。コロナ禍があけた2023年の3-4月にはそれまで我慢していた若者のさらなる都市集中移動が激化するだろうと思う。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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