報道される事実、されない事実

総務省統計局の「人口移動報告」の2022年3月期報が公開されている。いつもは、その度に新聞をはじめとするメディアがこれをニュース化していたはずなのだが、今回は(私の見た範囲では)ネット上で報道している記事は見当たらなかった。

理由は簡単で、東京の人口流出がなかったからである。

ちなみに、今までの報道で「東京」「人口流出」というタイトルで出た記事は、この1年間で39件ある。各地方紙が元ネタとして使う共同通信の記事にだけ絞ってみれば、以下のようなものがある。

2021年7/27「東京2カ月連続で人口流出 6月、緊急事態宣言も影響か」

2021年8/27「東京圏、7カ月ぶり人口流出 コロナ感染悪化が影響か」

2021年10/26「東京5カ月連続で人口流出 テレワーク普及で近郊へ転出か」

2021年11/30「東京都6カ月連続で人口流出 10月の転入者、最少に」

2021年12/23「東京都7カ月連続人口流出 11月、東京圏は流入続く」

2022年1/31「東京都の人口26年ぶり減 年始時点1398万人」

2022年2/24「1月の東京、転入超過に 人口流出、8カ月で止まる」

1月の報道までは、これでもかというくらい東京からの人口流出を報道し続けている。しかもコピペのように同じ文言で「東京〇カ月連続で流出」というものだ。

なぜか9月だけは報道がないが(違う表現で掲出していたかもしれないが、私は見つけられなかった)、その他の月は毎月末の統計公開に合わせて報道している。

穿った見方をすれば、まるで東京からの人口流出がうれしいかのような報道の仕方にも思える。東京からの流出は止まったと2月に報道して以降、この人口移動の報道は見当たらないからだ。東京からの人口流出があった時だけニュースにして、人口流入するとしないというのは何か含むところがあるのだろうか、とも思いたくもなる。

最新の2022年3月の動向は?

では、報道されなかった3月の人口移動はどうだったのか?

結果としては、東京からの人口流出どころか、人口が流入しているのは、東京がダントツであり、東京を筆頭とした一都三県と愛知、大阪、福岡の7地域のみである。その他の40道府県はすべて人口流出なのだ。

これは、相変わらずの東京及び東京圏への一極集中状態と言えよう。

しかし、これは別に驚く話ではない。

そもそもずっとメディアが煽ってきた「東京からの人口流出」というもの自体が「嘘はついていなが正確ではない」からだ。

人口移動は毎年3月に集中する。新入学や就職、転勤などで移動する時期がそうなっていることによる。引っ越し業者がパンクするのも当然で、1年の中でもっとも国民の移動が多いのが3月である。逆にいえば、3月以外の移動は絶対数が少なく、絶対数が少ないがゆえに小さな変化でも大きく見えてしまう。

写真:アフロ

コロナや在宅勤務によって、さも「東京から住民が大移動」「地方への移住が活性化した」などと思ってしまった人もいるかもしれないが、ファクトとして東京圏からの大幅な人口流出はない。逆に全国から一都三県の東京圏への一極集中が継続しているだけのことである。

年単位で見ても増え続けているのは東京圏だけである。東京から多少人口が転出したとしても、それは埼玉、千葉、神奈川の通勤圏内への移動であって、決して東京圏からの脱出ではない。

移動するのは若者だけ

それでも以前よりは、東京への人口流入が減っているではないか、と言いたいかもしれないが、それは日本全体の人口が減少しているのだから多少は減るだろう。それよりも、人口移動の法則ともいうべきポイントを忘れてはならない。

それは「人口移動は若者によって決まる」ということだ。別の言い方をすれば「若者しか移動しない」のである。

2014年から2022年までの人口移動のもっとも多い3月の東京の人口転入超過を年齢別でその推移を表したものが以下である。

2021年と2022年、東京から転出超過しているのは30歳以上及び0~14歳の年齢層だけであって、15~29歳の若者層は今までと変わらず大量に東京へ流入している。2021年だけは20代は多少減少していて、ここにはコロナの影響もあったと推測できるが、さりとて全体から見ればたいした影響ではない。それどころか15-19歳は2021年ですら増えている。

15~19歳の流入には大学などへの進学による流入がメインだが、20~24歳の若年層が大量に東京流入するのは新入社員の就職によるものである。進学よりこの就職による移動が大部分を占め、この若者の移動が東京の流入人口をほぼ決めている。

つまり、日本の人口移動という社会人口増減はほぼ若者だけによって決められるものと言えるし、それは裏返せば、若者以外の県をまたいだ移動はそれほど多くないことを意味する。

百歩譲って「東京から人口流出」と言いたいのであれば、「東京から子育て世代がちょっとだけ郊外へお引越した」というレベルの話であり、それとても「働き方変革」とか「在宅勤務にあわせて」などという悠長な話ではなく、経済的理由によって郊外へ移転せざるを得なかった人の方が多いはずである。

写真:イメージマート

地方から若者が流出する理由

今後も東京圏に大きな企業を中心とする企業群が集中する以上、人口が東京圏に集中しないことはありえない。人口は新卒の人口移動だけでほぼ決まるのだから。言い方をかえれば、地方の町から人口が流出するのは、「満足な賃金のある、働きたいと思える仕事がないから」なのだ。

若者は仕事のある場所へ移動する。いったん移動した若者は多少の地域移動はあったとしてもそこから移動しない。そこで結婚し、家庭を作る。生涯独身のままでも都会は何かと過ごしやすい。

つまり、若者を集められない町は未来永劫人口が増えるはずがないことになる。もっといえば、首都圏(拡大しても大阪・愛知・福岡など)以外の町はますます若者が減り、高齢化が進むことになるわけで、間もなくやってくる多死時代によって人口減少の加速度は増すだろう。

日本の人口は6000万人へ。まもなくやってくる「多死時代」の幕開け

地方に必要な「終わらせる勇気」

大企業の大規模な地方移転でもない限り、情緒的な地方創生がまったく何の効果も発揮しないのはそういうことによる。そして、大企業には地方移転する気などさらさらない。

経団連が2020年に実施した「東京圏からの人の流れの創出に関する緊急アンケート」によれば、8割近い企業が「東京から移転する予定はない」と回答している。

むしろ、地方が目指すべきは、できもしない地方創生ではなく、「選択と集中」により、終活すべき町は終わらせ、地方は地方なりの人口集中エリアを形成し、より地方としてのコンパクト・コンプレックス・タウン化を目指していくべきだろうと思う。

でないと、今後配偶者との死別によって増え続ける高齢ソロ世帯が点在することになり、住民の生活利便性の悪化だけではなく、行政対応や万が一の時の対応がとれなくなる危険性がある。

写真:イメージマート

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