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東京中央区の出生率トップ「結婚も出産も豊かな貴族夫婦だけが享受できる特権的行為」となったのか?

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

東京の出生率

小池都知事の月5000円児童手当が話題だが、ご存じの通り、東京都は日本全国一合計特殊出生率の低いところである。2021年の実績は1.08ともうすぐ1.0を切るところまで来ている。

しかし、勘違いしてはいけないのは、東京の合計特殊出生率が低いのは決してそもそもの出生力が弱いのではなく、当該出生率の分母が未婚も含む15-49歳の女性を対象としているためで、低くなってしまうのは東京がどこより未婚率が高いからである。

その証拠に、出生率にはもうひとつ指標があって、粗出生率(人口千対出生率)というものがある。こちらは、人口に対する出生数なので、人口増減をみるときに使用されるものだ。

粗出生率でみれば、東京は7.1で全国9位になる(2021年実績値)。出生数ベースでみれば、日本全体の約12%は東京での出生なので、東京の動向いかんで日本全体が大きく左右されることは間違いない。

出生率東京23区トップの区は?

さて、その東京都の23区内でもっとも合計特殊出生率の高い区はどこだと思うだろうか?

実は、中央区なのである。

2021年は1.37で、23区中のトップであるばかりか、市部を含んだ東京全体でもトップである(人口の少ない町村島部を除く)。しかも、2020年は1.43であり、2015-2018年はずっと1.42-1.44という高い水準をキープしている。

東京23区だけで、2021年の合計特殊出生率のランキングを示すと以下の通りである。

ベスト3は、中央区、港区、千代田区となっている。別の見方をすれば、これら3区は、平均所得の高い区でもある。東京においては、所得が高くなければ子どもを持てない状況なのだろうか。

一方で、すでに出生率1.0を切っている区が、6つある。新宿区、豊島区など巨大繁華街をかかえる場所での低出生率はわかるが、杉並区や板橋区など住宅地の多いイメージの区が低出生率になっているところが気になる。特に板橋区などは、かつては団地などがあり、家族の多く住む場所だったのではなかったろうか。

中央区の躍進の理由

出生率1位の中央区だが、当然過去はむしろ下位の方に位置していた。2006年過ぎから急上昇し、ゴボウ抜きでトップとなった。これは何か特別な少子化対策をしたからではなく、単純に子育て世代の転入が多いためである。

実際、中央区の平均年齢は若い。なぜなら、0-9歳の子どもの人口が多いからだ。これらは東京のタワマン需要と密接に関係している。タワマンに住める高所得パワーカップルが移住し子どもを産んでいるのだ。

注目すべきは、23区のほとんどがこの5年間出生率を落としているのに、中央区だけが高い値をキープしている点である。

一方で、かつてベスト3の常連だった、江戸川区、足立区、葛飾区といった下町3区の出生率が2015年ごろをピークにここ5年間で急激に減少に転じている。

中央区や港区とは対照的に、これらの区は平均所得も低く、家賃相場や住宅購入の相場も安いところだ。つまり、所得の低い人達の出生率が下がっているという見方もできる。

結婚も出産も贅沢消費へ

この連載でもたびたび「結婚は贅沢な消費と化した」という話をしてきているが、日本の中でもっとも平均所得の高い東京においては、結婚に限らず、出産も「金がある者、いわば裕福な貴族夫婦だけができる特権的行為」になっているのかもしれない。貧乏子沢山どころか、金持ち子沢山なのだ。

となれば、冒頭の月5000円の児童手当の拡充だが、所得制限をかけないことが賞賛されてはいるものの、児童手当がなくても困らない豊かな家庭にたくさんの支援がいっているということにもなる。

一方で、東京で仕事をしていて、東京で結婚・出産し、家族となっても、家賃負担をおさえるために埼玉や千葉などに移住した家庭もあるだろう。実際、東京から転出しているのは子育て世代がメインである。お金のために移住したのに、お金がもらえないと嘆きたい気持ちもわかる。

さらに、日本全国の他の地区の人たちからみれば、平均所得がもっとも高い東京都民だけが手当をもらえるというのはどうなの?という意見もあるかもしれない。

なかなか難しい問題ではあるものの、バラマキの不公平感に文句を言うより、昨今のお上の「お救い金」に慣れてしまって、いろいろと思考停止になっていないだろうか。それ頼みになるのではなく、若い人達が働いた分だけ十分な所得が確保できて、結婚や出産という安心な未来設計ができるようなそもそもの経済体制の整備こそが望まれるし、政府や自治体のやるべきことはそこなのではないだろうか。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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