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「年収200万未満で豊かに暮らせ?」最低限度の生活しかできない未婚男が恋愛や結婚を考える余裕はない

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

年収200万円の暮らしとは?

つい最近、「年収200万円」という言葉が話題になった。これは、『年収200万円で豊かに暮らす』(宝島社)という書籍のタイトルに対してツイッターユーザーが「色々と地獄を感じた、これを見た時」と書き込んだことがきっかけだった。

「年収200万円で豊かに暮らせるのか?」という議論はさておき、一般的にいえば、国が定める文化的で最低限度の生活費が年収換算156万円程度であることから鑑みても、年収200万円では最低の暮らししかできないレベルであることは間違いない。最低の暮らしでも豊かに暮らすというのは、もはや精神論の話なのだろうか。

もちろん、現実問題として得られる収入の中でどう暮らしていくか、という話は重要だが、だからといって「年収が高くなればなるほど人間は幸せになれるわけではない。800万円以上になれば幸福度は変わらない」などという論法を持ち出して、だから「足るを知れ」などというのは乱暴だろう。

年収800万円の不幸度と年収200万未満の不幸度とでは比較にならない。後者は生命の危機すらあり得る。

年収200万くらい稼げるでしょ?

ところで、この話題の渦中においても「年収200万未満なんか実際そんなにいないでしょ?普通に就職して初任給レベルでも簡単に超えるでしょ」のような恵まれた人の書き込みも散見された。

写真:イメージマート

実際に、いろいろな記事で国税庁の民間給与実態調査の数字などを使って、年収200万未満はせいぜい1割のようなものもあった。同調査の数字は、配偶関係の区別がないものであるが、これが未婚と既婚とで見ると大きく違う。

かつて、私は”「高望みはしません。年収500万円くらいの普通の男でいいです」という考えが、もう「普通じゃない」件” という記事で、全国の20-50代未婚男性の年収分布を公開した。

詳しくはその記事をお読みいただきたいが、結論からいえば、年収400万円以上の未婚男性は年齢層を20-50代まで拡大してもたった28%しかいないのである。これは有業者のみの統計なので、当然学生など無業者は含まれていない。

これを出した時も、多くの人から「え?そんなに少ないの?」と驚きの声をいただいた。中には「そんな人、本当にいるの?私の周りにはそんな人いない」という声もあった。

それはそうだろう。たとえ存在したとしても、興味のない人間は目に入らなくなるだけだからだ。悲しいかな、そういう人間そのものを透明化してしまう癖がある。

20-30代未婚男性の現実

そして、これから結婚なども考えているだろう適齢期の20-30代の未婚男性に限ってみると、年収400万以上は22%へと下がる。それどころか、いわゆる最低限度の生活しかできない年収200万未満の割合がそれ以上の25%も存在する。実に、4人に1人の20-30代未婚男性が最低限度の生活を余儀なくされているということである。

その上の階層である年収200-300万のグループがもっとも多く、30%を占める。年収300万未満だけで20-30代未婚男性の55%になるのである。

40代以上になれば、多少改善されるものの、年収200万未満はそれでも2割存在する。つまり、少なくとも全年代を通して、一生年収200万未満という最低限度の暮らしをせざるを得ない未婚の男たちが2割も存在しているのだ。

結婚は金次第なのか?

「金がないから結婚できない」という言葉をよく聞くが、現実に20-30代で結婚している既婚男性の年収分布と比較すると、年収400万以上がマジョリティで6割を占めている。

もちろん「金がなくても結婚している男はいる」が、これだけ見ると「金がある男から結婚している」ともいえるし、結婚の沙汰も金次第という感は否めない。

奇しくも、日本以上に婚姻数が減少している中国がまさにそういう状況に直面している。

「私と結婚したければ3000万円の現金を用意しろ」と言われる結婚無理ゲー社会

婚活女性が「年収400万なんて当たり前」という気持ちになってしまうのは、周りの既婚男性がそれくらい稼いでいるという情報に接しているため仕方のないことでもあるのだが、実際400万円以上稼ぐ男というものは、婚活市場には出回らない。婚活せずともそれ以前に青田買いされているからだ。

そういったことも念頭に置きつつ、現実には50代まで拡大しても、400万以上の未婚男は3割もいないという現実は理解しておくべきであろう。

政治家が透明化している問題

少子化対策では最近ようやく「婚姻数の減少が根本的な問題である」という声が大きくなってきた。それは喜ばしいことだが、にもかかわらず相変わらず「子育て支援にはお金を」という声ばかりが大きく、婚姻増に対しては「出会いのきっかけを増やす」とか「マッチングサービスを拡充する」とか、果ては「壁ドンの練習」とかとんでもない提案が出現したりするのを見るにつけ、婚姻減ひいては少子化の本質的な問題に対して、政治家たちは興味がないから「透明化」してしまうのであろうと思う。

写真:イメージマート

というより、婚姻増云々以前の問題として、最低限の生活しかできない若者がこれだけ存在することの重大性をもっと深刻に受け止めるべきではないだろうか。

最低限度の生活しかしていない者にとって、恋愛や結婚など考える余裕すらない。言うに事かいて、「金がなくても幸せになれるよ」などという怪しげな新興宗教の洗脳のような言葉を吐いてはいけないと思う。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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